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415話「ローランドの授けた策の行方その3」



「少しは落ち着いたかしら?」



 呆然としていたカリファを何とか正気に戻そうと、声を掛けたり頬を抓ったりしていたマリアンヌだったが、ここでようやく彼女が正気に戻った。



 あまりのことに平静を欠いてしまったが、一旦落ち着くためお茶を飲むことにする。マリアンヌが慣れた手つきでお茶を用意すると、改めてカリファが彼女に問い掛ける。



「本当に私の作ったものがそんなにするのか?」


「ええ、間違いなく」


「そうか。マリアンヌが言うのならそうなのだろうな」


「ところで、どうして今になって作品を売りに出すことにしたの?」


「ああ、実はな……」



 カリファは自分が領主としての務めを果たせるほどの頭はないことに気付いており、それでも領民のために何かしたいという意思は人一倍強かった。そこで降って湧いたようにとある少年の助言によって治安回復のための策を教えてもらい、そのためには初期投資を行うための財源を捻出しなければならないと言われていた。



「だから、前からマリアンヌに言われていたこともあって、自分の作ったものを売ることにしたんだ」


「そうなのね。なら、私はその少年に感謝しなくちゃ」



 いくら昔馴染みとはいえ、商業ギルドのギルドマスターにそのようなことを話すのは些か問題ではあるが、マリアンヌがそれを聞いて悪用することはないため、その点についてはカリファも信頼している。



 とにかく、これでローランドがカリファに助言した“家を持たない路地裏の住人たちに住居を建設する仕事を斡旋するための財源”は確保できたことになる。この資金を元手に住居に使用する建材や住居自体を建設する職人たちと路地裏の住人たちの雇用を行い、新たに彼ら専用の居住区を作ることが可能となった。



 そのすべてを可能にしたのが、カリファの持つ装飾品を加工する技術であり、それを評価してくれる商業ギルドのトップであるマリアンヌの存在だ。



 いくら素晴らしい品を作れたとしても、それを評価できる人間でなければ高値で買い取ったりはしない。良品というものは、それを見極めることができる人間がいて初めて良品足り得るのである。



「とにかく、お金は明日の朝一番に屋敷へ届けさせるわ」


「わかった。じゃあ、これはここに置いていく」



 しばらく、お互いの近況を話し合った後、改めて買い取り金はカリファの屋敷に届けさせるということになり、念のためそれを証明する書類にサインをしてギルドとカリファ本人の二枚作成しておくことにした。これで、どちらかが嘘を言ってもギルドとカリファとで証明書を持っているため、言った言わなかったという水掛け論になる可能性を無くすことができる。



 用は済んだとばかりに、自分が持ってきた装飾品が入った箱をマリアンヌに預けると、カリファは商業ギルドを後にしたのだった。



 余談だが、二人の会話をこっそりと聞いていたギルド職員によって、あの天才装飾職人のカリファが作った品が売りに出されるという情報が瞬く間に広まり、有力な商人や貴族たちが我先にと彼女の作品を買い求める騒動があった。そして、五億ジークで買い取った十点の品は一瞬で売り切れ、その売り上げが数十億ジークになるのだが、それはまた別の話である。






     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~






 商業ギルドを後にしたカリファは、すぐさま屋敷に戻るとマリアンヌとの取引について報告するため、再びダンケスのもとを訪ねた。そこまではよかったのだが、領主として護衛も付けず好き勝手な行動を取る主に小言の一つも言いたくなるのは仕方のないことで……。



「ですから、カリファ様はもう少し領主としての自覚をお持ちになられてください。さもなければ、いつかとんでもない騒動に巻き込まれるかもしれませんよ」


「わ、わかった。善処する」


「今日はもう遅いですので、詳しい話はまた明日聞きましょう。では、おやすみなさいませ」


「ああ」



 あれからみっちり四時間領主として貴族の当主としてのアレコレを説教された挙句、マリアンヌとのやり取りを報告することもできずにすごすごと自室へと戻っていった。これはダンケスにも非があり、カリファが話をする暇も与えず、ただただ淡々と説教をし続けたため、彼女が商業ギルドでとてつもない取引を完了させてきたことを聞く機会を逃してしまったのである。



「まあ、明日でもいいか」



 楽観的な彼女は、また明日話せばいいかと単純に考え、その日はそのまま床に就いたのだが、明日の朝一で商業ギルドから大金が送られてきたことに驚いたダンケスが、カリファを問い詰めたことで昨日の取引を知ることになるのだが、当然彼の心境は「なぜ教えてくれなかったのか?」である。そんなダンケスにカリファが一言一蹴する。



「だって、私に説教するばかりで私に話をさせてくれなかったのはお前ではないか? 私の話を聞く機会を逃したのは、他でもないダンケス自身に責任があるのではないか?」


「ぐっ」



 客観的に見れば、カリファの言っていることはただの屁理屈であり、説教が終わったタイミングで話せばよかったではないかと冷静に突っ込めることなのだが、彼女が戻ったら説教することしか頭になかったダンケスにとってはカウンターパンチを食らったような衝撃であった。



 裏を返せば“お前が説教しなければ、昨日のうちにこのことを知ることができたんだぞ?”と言っているようなものなのだ。カリファのちょっとした意趣返しである。



「と、とにかく、この状況は一体なんです。何故、商業ギルドからこのような大金が送られてくるのですか?」


「私の話を聞いていなかったのか? マリアンヌと取引した。以上」


「それのどこが説明になっていると? 最初からすべて話してください」



 そこから根掘り葉掘りダンケスがカリファから事の次第を聞き出し、自分の作った装飾品を売って五億ジークという大金を手に入れたことがわかった。その途方もない金額に一瞬意識が遠のくダンケスだったが、そんなことよりも今はこの状況をなんとかするべきだと判断し、ひとまずは大金の入った袋を屋敷内へと移すことにした。



 すべての袋を移し終えたタイミングで、カリファが開口一番どうだ参ったかと言わんばかりの顔で宣う。



「これで財源は確保できたな。あとは住居を建設するために職人と路地裏の住人を雇うだけだ」


「建材の購入もお忘れなく。そんなことよりも、カリファ様。どうやら、あなたにはもっときつい説教が必要なようです」


「ちょっ、まっ」



 そのあと、さらにカリファが説教されたのは言うまでもない。

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