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411話「ディノフィス区フランバスク」



「次だ」



 そう言って、兵士が街へ入ろうとやって来た人間を促す。そう指示された俺はといえば、素直に従って身分証の提示をする。



 あれから、盗賊たちを蹴散らしつつやって来たのは、ソースティアからさらに徒歩十日ほどの距離にある中規模の都市【フランバスク】という名の場所だった。



 街に入る列の前にいた行商人から話を聞いたところ、新たな事実としてこのアルカディア皇国というのは大規模な区画に分けられており、それぞれが独自の自治体として機能しているらしい。その理由としては、アルカディアが敵対する周辺諸国を滅亡させたことに起因する。



 すべての国を滅亡させ大陸統一を果たしたアルカディアだったが、当然それほどまで巨大な土地を一国だけで管理するのはとてもではないが困難だった。そこで、元々存在していた各国の自治体にそれぞれの区画を治めさせることで形として機能するようになったらしい。



 アルカディア以外に存在していた国は、小国も含め全部で十五あった。そこで、アルカディアが元々所持していた領地以外の所領を元々の他国の自治体に治める指示を出したのだ。つまりはアルカディアは本拠地である皇国の土地を含め十六の区画に分けられており、俺が今いるのは先の戦争によってアルカディアに滅ぼされた国の一つということになる。



「身分証の提示を」


「ん」



 そんな情報を得つつ、幻術でごまかしたギルドカードを提示する。特に指摘されることもなくギルドカードが返され、手続きは簡単に終了する。



「通ってよし。ようこそ、アルカディア皇国ディノフィス区フランバスクへ」


「ああ」



 先ほど聞いた話から、この場所は元々ディノフィスという国の領地だったようだ。つまり、実質的にこのディノフィス区を治めているのは、元ディノフィスの首脳陣たちということになる。



 そんないい加減な統治で反乱が起こらないのかと突っ込まざるを得ないが、アルカディアとて大陸の覇者となっているのだ。そうさせないための何かがあるのだろうと結論付け、これ以上無駄なことに思考を費やすのを止め、フランバスクの街へと入る。



 フランバスクはディノフィス区の中で五本の指に入るとされる商業都市であり、区内の物流を支える重要な拠点の一つらしい。隣の各領地には中小規模のダンジョンもあるらしく、そこから手に入る素材や珍しいアイテムなども入ってくるため、いつしか“ディノフィスのすべての物が集まる場所”という認識が人々の間で広まることとなったと行商人から聞いた。



 ともかく、ディノフィス区の中でかなり大きい都市ということで、前回の街よりもさらに具体的な情報が手に入るかもしれない。ここは一つ、観光よりもそちらの情報を入手する方を優先してみようか。



「いや、まだいいか」



 個人的には今回の潜入は情報を手に入れるという意味で動いているが、その実はただの観光巡りをやっているに過ぎない。というよりも、俺自身がこの国の内情を探るということを積極的に行っておらず、観光に重きを置いているだけなのだが、そこについては納得済みなので問題はない。



 俺が期待しているのは、アロス大陸にはなかった食材などの新アイテムであり、さながら新しいエリアへとやってきたRPGの主人公の気持ちだ。



 この国でしか手に入らないものがあるのであればできるだけ多く入手したいし、こちらでも活動拠点を見繕い新たな素材を手に入れるための場所としてもいい。だが、新しい商会は立ち上げないかな。いろいろと面倒だし。



 そんなことを考えながら大通りを歩いていく。ひとまずは冒険者ギルドに寄ってアレの確認をしておいた方がいい。この大陸ではアレの方式が違うみたいだからな……。



 しばらくしてから冒険者ギルドへと辿り着く。ギルドの中は特に変わった様子はなく、いつもの受付カウンターと酒場が一体となった内装だ。



 時間的に昼前であるため、すでに依頼を受けた冒険者たちが出払っているらしく、ギルド内には冒険者の姿が少ない。



「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ。本日はどういったご用件でしょうか?」


「ああ、おすすめの宿を紹介してほしいんだが」


「では、ギルドカードの提示をお願いします」



 言われるがままにギルドカードを提示する。確認が取れたところで、受付嬢が俺にとっての爆弾を投下していく。



「私はこのギルドで職員を務めております。ミラーユと申します。以後お見知りおきを」


「六作目か……。てことは、テラーとかヒッサンとかがいそうだな」


「うちのギルドマスターと解体責任者をご存じで」


「いるのかよ!? ある意味では期待通りだよっ!?」



 ソースティアでは疑心暗鬼だったが、ミラーユの言葉でもはやこの大陸のアレの法則は決定的だ。それは、某RPGに登場するキャラクター名に酷似しているということである。あくまでも名前が酷似しているということだけで、見た目はまったく似通っていない。確か、ミラーユの元になっているキャラクターは金髪美人さんだが、彼女の見た目は栗毛色のショートカットをした黄色い瞳を持った女性だ。



 俺がそんな風に叫んでいると、突然後ろから声を掛けてきた人物がいた。後ろを振り返ると、そこには頭髪のない大柄の男が立っており――。



「ハゲとるやないかいっ! そこは一緒なんだな!?」


「どいつもこいつも同じことばっか言いやがって! これはハゲてんじゃなくて剃ってんだよ!!」



 といった具合にまったく同じセリフを宣っていらっしゃる。どうやら大陸が違ってもハゲということに変わりはないらしい。……ハゲの法則。いや、くだらないことを考えるのはやめよう。



 しかし、三人がいることは把握したが、残りのキャラクターはどこにいるかとえば、ギルド職員の中にいた。チェモロとババラとへモスという名前らしい。あと、この街に居ついている冒険者の中に元貴族のバッツ・ウィル・イスュリーヒンラックというAランク冒険者がいるらしい。なんかもうごちゃまぜって感じだな……。



 とにかく、今回アレの確認はこれくらいにして、宿へと行くことにする。ちなみに宿の名前は【ライーダの酒場】である。うん、もう何も言うまい。



「いらっしゃいませ。【ライーダの酒場】へようこそ。ここは冒険者のパーティーを募集する場所ではなくただの宿屋ですよー?」


「知っている。とりあえず、食事付きで三日分頼む」


「はいはいー」



 宿に向かうと、受付をしていた女性が意味深なことを言っていたが、酒場という宿名が使われているため、たまたまそういった勘違いが起こったことがあるのだろと推測し、特に気にすることなくチェックインを済ませる。



 鍵を受け取り、いつものように二階にある部屋に向かう。部屋の内装も特筆すべき点はなく、いつもの宿とほとんど変わらない。



「とりあえず、散策だな」



 時間帯的に昼飯時であったので、宿の食堂を利用する手もあったが、せっかく新しい街へやってきたので、どこか適当な店で食事をしようかとも考えた。だが、やはり金を払っている以上利用しない手はないと思い、部屋を出て鍵を掛けた後、俺は一階にある食堂へと向かった。

 

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