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40話「ワイルドダッシュボアの買い取りとランク昇格」



「……」



 ドナドナされた俺は、大人しく応接室で待機する。

 ニコルにワイルドダッシュボアを狩ってきたと告げたことで、何故かこの部屋に連行された。……解せぬ。



 応接室は特に豪華というわけでもなく、少し広めのテーブルに革製の長ソファーが二脚設置されているだけの簡素な部屋だ。

 しばらく部屋の内装などを眺めながらニコルが戻ってくるのを待っていると、ものの数分と経たないうちに彼女が戻ってきた。



 だが、部屋に入ってきたのは彼女だけではなかった。しかも彼女の他に三人もだ。

 一人は冒険者ギルドのギルドマスターであるダレン・ウォルムだ。今回の一件でやってきた人物としては納得できる人選だ。



 ワイルドダッシュボアという珍しいモンスターを狩ってきたのだから、ギルドの最高責任者が出張ってくるのは当然の対応だといえる。



 しかしながらあとの二人がなぜこの部屋にやってきたのか理解できず、訝し気な表情を浮かべてしまう。

 その二人とはニコルの直接の上司であるミリアンと解体場の責任者であるボールドだ。



「なんでおっぱい眼鏡姉さんのミリアンとツルりんハゲのおっさんが出てくるんだ?」


「その呼び方は嬉しくないですー。確かに眼鏡も掛けてますし、おっぱいも大きいですけどー」


「ミリアンの言う通りだ。俺の頭はハゲてるんじゃなくて剃ってるって言ってんだろうが!」


「ミリアンはともかくボールドの頭はハゲている。それは間違いない」


「ハゲじゃねぇっつてんだろうがぁー!!」




 俺のあだ名に両者が抗議する中、冷静にダレンが突っ込みを入れる。

 そこからダレンとボールドのハゲてるハゲていない論議が開幕しようとしたが、冷静なニコルの言葉でなんとか場が収まった。



 改めて仕切り直しとなり、ダレンが問い質してくる。



「それでニコルに聞いたが、ワイルドダッシュボアを狩ったそうだな」


「ああ、もうすでに解体してこの中に保管してある。確認するか?」


「ああ、出してもらおう」



 ダレンの言葉に従い、ワイルドダッシュボアの素材の一部をテーブルに並べる。

 全部出す必要はないので、とりあえず毛皮と肉と骨を出してやる。素材がテーブルを占拠していくにつれてその場にいた全員の顔が引きつり始めた。



 粗方素材を取り出すと、ダレンやボールドが素材を手に取って確認し始める。なるほど、ハゲ……もとい、ボールドはこのために呼ばれたのか。

 一通り素材の確認が済んだようで、ダレンとボールドが目を合わせお互いに頷き合った。



「間違いなく、ワイルドダッシュボアの素材だ」


「ああ、なによりこの量と質だ。これほどの素材はダッシュボアじゃあり得ねぇ」


「それで坊主、一応聞くがこのワイルドダッシュボアはお前一人で狩ったんだな?」


「俺がソロで活動しているのは、そこにいるニコルとミリアンなら良く知っているはずだ」


「確かに、ローランドさんが他の冒険者と一緒にいるところを見たことはありませんが……」


「それでも信じられないわよー。ワイルドダッシュボアを、まだ成人もしてないローランド君一人で狩っちゃうなんてー」



 俺の問い掛けに困惑した様子のニコルが答え、さらに両腕を胸の下で組みながら胡乱げな表情を浮かべる。

 服の上から押し上げる二つの膨らみに視線が行きそうになるのを、理性というストッパーで辛うじて阻止することに成功した俺は、一応確認のため質問する。



「一応聞くが、この素材は売れるんだよな?」


「も、もちろんだ。是非とも売ってくれたまえ!」


「こりゃ、明日の商業ギルドは死人が出るかもしれんな……」


「ボールドさんの毛根はすでに死んでますけどね」


「それは今関係ねぇだろうが!!」


「それじゃあローランド君。今から査定に入るので、ここに素材を全部出してくださいー」


「わかった」



 魔法鞄に入れていたワイルドダッシュボア関連の素材すべてを取り出し、他の四人がその作業に追われる。

 ニコルとミリアンは素材それぞれの査定をし、ボールドは査定が完了した素材を運び出していく。ダレンは他の職員に声を掛けるためすでに部屋をあとにしている。



 そこから応援にやってきた職員数人と共に査定と運び出しの作業が続いていたが、かなりの量があるためすぐには終わらない。



「ニコル、ちょっといいか?」


「な、なんですか?」


「時間が掛かりそうだから、一度宿に戻ってまた来てもいいか?」


「そ、そうですね。わかりました。夜には終わってると思いますので、その時また来てください」


「わかった」



 ニコルとそんなやり取りがあったあと、彼女に告げた通り一度宿へと戻ることにする。

 時刻は夕方に差し掛かる少し前くらいで、夕食を食べる時間としては少し早い時間帯だ。



 とりあえず、一度宿に戻ると美魔女ことネサーナが迎えてくれる。

 熟女独特の熟れた色香に理性を失いかけるも、間違いを起こしてはいけないと気を確かに持つ。



「今日は少し早いお帰りなのね~」


「予定していたよりも目的のモンスターを早く狩れたんでな。今は冒険者ギルドで査定待ちだ」


「夕食はどうする? ちょっと早いけど、食べていくかしら~?」


「いやまだいい、時間になったら降りてくるからその時に頼む」


「は~い。待ってるわよ~」



 ぽやぽやとした雰囲気のネサーナと別れ、自分が泊っている部屋がある廊下に差し掛かったその時、見知った顔の少女がいた。

 先ほどまで話していたネサーナの娘、ネーサである。何やら部屋の前で聞き耳を立てながら怪しげな動きをしていたので、背後に忍び寄って彼女の口を背中から抑え込んだ。



「んー!?」


「しー、音を立てるな……」



 いきなり背後から抑え込まれたことで強張っていた体も、その相手が俺だと知って入れていた力が抜けていく。

 頃合いを見計らい手を離してやると、抗議の声を上げてきた。



「もう、ローランド君! いきなりなりするのよ。びっくりしたじゃない」


「すまない。急に声を掛けたら大声を出すかもしれないと思ったからな。別に他意はないから安心しろ。それよりも、一体こんなところで何をしていたんだ?」


「そ、それは……そ、そのぉー」



 俺が問い掛けると、あからさまに動揺を隠しきれずしどろもどろになる。誰もいない廊下でとある部屋に聞き耳を立てる理由など端から一つしかない。

 それに今も部屋の扉の向こうからぐぐもってはいるが“そういう行為”を行っているであろう女性の嬌声が聞こえてくる。つまりはそういうことだろう。



「なるほどなるほど、言いにくいことなら女将さんに聞いてみるとしよう」


「そ、それだけは何卒ご勘弁を!」



 俺が踵を返してネサーナに事の顛末を伝えようとしたところ、必死になって止められた。そりゃあ、娘としては親に一番知られたくないことだろうからな。

 まあ、ネーサをいじめるのはこれくらいにして、そろそろ部屋に戻るとするか。……が、その前に彼女には言っておかなければならんことがある。



「ネーサ、お前に一つだけ忠告しておくが、そういったことは誰も見ていないところでしたほうがいい。じゃあ、俺は夕食まで少し部屋で休む」


「ま、待って! ち、ちがうのよっ? 私はそんなことするつもりなんて――」


「……俺は仕事をサボるなという忠告をしただけだが、何と勘違いしているんだ?」


「うぅ、今日のローランド君は意地悪だわ……」


「ふふ、冗談だ。じゃああとでな」



 まったく、俺と同じくらいの年なのにもうそんなことを覚えだしたのか? このおませさんめ……。

 そう彼女に言ってやりたかったが、これ以上彼女をいじめると泣き出しそうだったのでさすがにそれは言わないでおいた。



 俺が部屋の扉を閉める直前「もうっ」という声が聞こえたので、俺の先ほどの言葉は本当に冗談だと受け取ってくれたようだ。

 そのまましばらく日課のトレーニングや調理道具などの手入れをして時間を潰し、夕食の時間になったので食堂で食事を摂ったあと、再び冒険者ギルドへと向かった。



 ギルドに到着すると、査定の方は終わっていたのだが、ギルド内が慌ただしいことに気付く。

 おそらくワイルドダッシュボアの素材が運ばれているのを目聡く発見した冒険者たちが、情報収集のために集まって来ているらしい。



 それが証拠にあちらこちらから「これを狩ったのは誰だ?」だの「お前のパーティーじゃないのか?」だのといろいろと聞こえてくる。



「ローランドさん、待ってましたよ。査定が終わったので報酬を受け渡しをしたいのですがよろしいですか?」


「ああ、構わない」


「ではこちらにどうぞ」



 ニコルの言葉を聞いた冒険者たちが、呆然としながらもその言葉の意味を理解した瞬間、冒険者ギルドは騒然となった。

 まさかダッシュボアの上位種であるワイルドダッシュボアを、俺のような成人していない若い冒険者が倒したという事実が信じられないのだろう。



「おい、あれって例の駆け出し冒険者だろ?」


「例のって?」


「嫌に質のいい素材を納品する冒険者ってんで、商人の間じゃかなりの有名人だ」


「今も冒険者ギルドに指名の依頼が来てるらしいが、ギルドが全部止めてるらいしぞ?」


「あの年齢でもう人気冒険者なのねー。優良物件見つけちゃった」


「あたいが先に目を付けてたんだ。抜け駆けはさせないよ」



 なんだかいろいろと言いたい放題な気もしなくはないが、あまり気にしたところで仕方がないので、ニコルと共に受付カウンターまで移動する。

 しばらくして男性職員が持ってきた革袋が受付カウンターに置かれると、ニコルが営業スマイルで対応する。



「こちらがワイルドダッシュボアの素材の査定額になります。合計で小金貨十二枚と大銀貨四枚です」


「おう、そんなにいったか」


「はい、珍しいということもありますが、何より解体のお陰で質も高いものとなっているので、相場よりも査定額が跳ね上がってます」


「査定の内訳は教えてもらえるか?」


「はい、まず毛皮ですがかなりの大きさでしたので、使いやすい大きさに七枚に切り分けました。一枚当たり大銀貨六枚の合計大銀貨四十二枚です。肉はローランドさんも一部欲しいということでしたので、合計二百五十キロでしたが一キロ当たり中銀貨三枚の買取で合計大銀貨七十五枚。それから……」



 その後のニコルの説明では骨が四十キロで一キロ当たりの値段が中銀貨一枚で合計大銀貨四枚、牙が十五キロで一キロ当たりの値段が中銀貨二枚で合計大銀貨三枚と説明された。



「それらを合計すると小金貨十二枚大銀貨四枚となります。以上が査定の内訳です」


「わかった」



 査定の内容を聞いて納得のいくものだったため、素直に革袋を受け取りすぐに魔法鞄にしまい込む。だって日本円で千二百四十万円ですよ!? そりゃビビるって!

 いきなりかなりのお金持ちになってしまい戸惑うこともあるが、これで金銭的にかなりの余裕ができた。



「それからギルドカードをご提示願いますか」


「ん」


「ワイルドダッシュボアの討伐でランク昇格が認められました。今日からローランドさんはDランク冒険者です。おめでとうございます!」


「ありがとう」



 冒険者のランクもDに上がり、とりあえず一段落着いたので他の冒険者に絡まれる前にギルドをあとにした。

 こうして、ワイルドダッシュボアの買い取りもつつがなく終了し、その日はそれで終わりを迎えた。

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