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397話「侵攻」



 マンティコアの報告を聞いて、すぐにモンスター農園へとやってきた。詳しい経緯は直接聞いた方がいいということで、具体的な内容は聞いていないが、どうやらモンスター農園に侵入してきた人間がいたらしい。



 人間自体がモンスター農園へとやってくることは時々あり、道に迷った旅人や盗賊などが主だ。だが、マンティコアの言い方は明らかな敵意を持ってモンスター農園へと侵入してきたというものであり、緊急性が高いと判断した。



「主様」


「アルラウネ。状況を説明してくれ」



 モンスター農園へとやってくると、すぐにエルダークイーンアルラウネが出迎えてくれた。すぐに彼女から事情を聞くと、返ってきた答えはやはりこのモンスター農園に侵攻してきた人間ということらしい。



 ここでモンスター農園周辺の土地について説明すると、国王から借りている土地は広大ではあるが、一部海に面している箇所がある。以前マルベルト家の書庫で読んだ記憶を辿ると、その海の先にも大陸が存在しており、詳しい情報は載っていなかったが、いくつかの国があるようだ。



 今回の侵攻は、その国の内のいずれかが領土拡大を目論んで起こした可能性もあり、仮にそうだった場合、確実に国の一大事となって国王に相談する案件となってしまう。



 できれば、そういった面倒なことは御免蒙りたいところだが、そんなことを言っていられる状況ではなく、何かしらの対処をしなければならない。



「現在、マンティコアとオクトパスが侵入者の対処を行っており、現在進行形で戦闘中とのことです」


「わかった。俺も現場に向かおう。お前は念のために畑の守りを固めておいてくれ」



 アルラウネに指示を出し、俺はすぐさま地面を蹴って戦場となっている海岸沿いへと向かう。ほとんど時間を掛けず現場に辿り着くと、そこはまさしく戦場と化していた。



 すでに戦闘は始まっており、何人もの武装した人間が倒れている。こちら側の戦力も少なくない被害が出ており、そこかしこにモンスターと人間の屍が積み重なっている。倒れているのは、鎧に身を包んだ兵士であるが、鎧の装飾やら装いを見るにシェルズ王国のものではなく、明らかに異なる国のものだ。



 彼らが一体どこからやってきてどこの国の人間なのだろうと考え始めていると、一際激しい戦闘が行われている場所から声が響き渡る。



「くそう。こんな化け物がいるなんて聞いてないぞ!」


「ベクリプス将軍。ここは一旦本国へ引き返すべきかと」


「ふざけたことを言うな! わざわざ別大陸から遠征にやってきて何もせずに戻れるか!! この遠征に祖国の威信が掛かっているのだ。ここで引き返せば、何の成果も上げることができない無能のそしりを受けることになるのだぞ!!」


「で、ですが」



 話の内容からして襲ってきた人間の指揮官とそれを補佐する副官らしき男のようだ。本国だの祖国だのと口走っているということは、やはりシェルズ王国ではなく他の国の人間ということになる。しかも、指揮官らしき男が興味深い言葉を放っている。



“別大陸”



 海の向こうにあるとされる別の大陸。男たちの会話から推測すれば、連中がやってきたのは別大陸にある他国の人間だということだ。どうりで身に纏っている鎧に見覚えがないわけだ。



 だが、圧倒的数の有利差によって一人また一人と兵士たちが倒れていく、モンスター側も少なくない被害を出しているが、マンティコアとオクトパスがフォローに入っているため、被害がかなり軽減されている。



 一方の人間側は、遠征ということでその数は一万にも満たないほど少数であり、別大陸とやらから長い航海を経てやってきたばかりとあって、肉体的及び精神的疲労が溜まっている状態だ。



 そんな状態でまともな戦闘行為が可能かと言われれば、余程の訓練を積んでいない限りは困難であり、仮に訓練を積んでいたとしても通常の半分の実力しか発揮できないだろう。



「状況はどうだ? どういう経緯でこうなった?」


『いきなり海からやって来たと思ったら、姿を見た我たちに襲い掛かってきた。仕方なく反撃したが、ご覧の通りの有様だ』


『まさか、奴らが国を襲撃するための先遣部隊だとはな。人間とは、欲深い生き物よ』



 姿を見られないようにしながら、念話を使ってオクトパスとマンティコアに状況の説明を求めた結果が先の二匹の答えである。どうやら、本当に別大陸からシェルズ王国を足掛かりに遠征を行う予定だったらしく、聞こえてくる声の中には「こんなことなら国許にいればよかった」だの「皇国に栄光あれ!」といった内容が耳に入ってくる。



『ある程度は加減して戦っているが、どうする? このまま皆殺しにしてしまって構わないか?』


「いや、できれば生きて情報を持ち帰らせたい。ある程度は仕方ないが、それなりにやってくれ」


『了解した』


『承知』



 俺がそう指示を出すと、マンティコアとオクトパスは自身の攻撃は控え、支配下に置いているモンスターたちを主軸に戦闘を行っていく。元々知性のある存在である二匹が指揮官となって指揮を執ることで統率力が生まれる。それによって戦っている兵たちと遜色ないレベルの練度の連携力を見せ始めている。



 元はモンスター……戦うことが体に染みついている生まれながらの戦士であり、兵士のような軍事的な訓練をせずとも連携の取れた行動を取ることは容易であった。



 しかし、モンスター側からすればそれは当たり前の行動だが、人間側から言わせればそんなことを知っているはずもない。突如として練度の高い軍隊が目の前に現れたかのような錯覚を覚えても何ら不思議はない。



「な、なんだこいつら!」


「急に動きが良くなって――」


「た、たすけ――」



 いきなりモンスターが連携を取り出したことに困惑した兵士たちが、一人また一人と倒されていく、一方のモンスターたちは連携を取り始めたことで、明らかに死亡率が低下していき、相手側の兵士の損耗率と比較すると綺麗な反比例のグラフが完成する。



 そろそろ全滅としての判断が下される全兵力の三割に到達しようかというその時、副官が指揮官にこのあとの判断を提案する。



「将軍、このままでは部隊は壊滅します。撤退の命令を」


「ぐぅ……撤退だ。全軍撤退! 一時本国へ帰還する!!」



 観念した指揮官の号令によって、兵たちが船が船舶している海方面へと逃走を開始する。そのタイミングで、俺はマンティコアとオクトパスに指示を出す。



「追撃しなくていい。このまま見逃して情報を国に持ち帰らせる」


『ここで全滅させてもよかったのではないか?』


「それだとまた舞い戻ってくる可能性がある。ここで痛い目を見たことを報告させれば次は手を出して来ないだろう」


『さすがは主。そこまで考えての見逃しとは』



 マンティコアの問いに答えた俺をオクトパスが褒め称える。これでひとまずは何とかなったが、本当にこれで次攻めて来なくなるからは相手次第だ。



 後処理をマンティコアたちに任せた俺は、このことを報告するべく、国王のもとへと向かった。

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