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385話「コンメル商会の商会長」



 ~ Side マチャド ~


「わかりました。お気をつけて」



 そう言って、彼は頭を下げてローランドを見送った。満足気に頷いた彼はそのままコンメル商会を後にする。



「よし」



 雇い主を見送ったマチャドは、その視線を商会の売り場へと向ける。開店直後だというのにこの混雑ぶりは、コンメル商会が王都で名が知れ渡ってきたことを表しているいい証拠となっている。



 彼がこの商会を任されたきっかけはほんの些細なものであったが、今では立派な商会長として他の商会からも注目される有望株となっている。何の前触れもなく、突然「新商品ができたから販売よろしく」と新商品を持ってくるローランドのことをマチャドは尊敬していた。



 商人という職業は、まずどんな商品が売れるのかを調べるところから始まり、目利きを鍛えるところからスタートする。だが、若干十三歳にしてその目利きを初めから持ち合わせているかのようなローランドが持ち込んでくる商品は、どれも斬新であり今までなかったものばかりだ。



 そんな商品が売れないなどという道理はなく、今でも多くの客が連日コンメル商会へと足を運ぶことに繋がっており、その様子にマチャドは日々戸惑いを隠せない。



 現代社会では相談もなく仕事を振ってくる上司は、下手をすれば部下に配慮をしていないパワハラ上司と捉えられるだろう。だが、見方を変えればそれも違ってくる。



 例えば、確実に功績になる仕事を割り振られ、成功すればその功労者である部下自身の功績となった場合はどうだろう。この場合、有能な上司として尊敬されるのではないだろうか?



 部下の功績を自分のものにしたり、自分の失敗を部下に押し付けるなどという上司だった場合はパワハラクズ上司として認定されるが、何かトラブルを起こした際に尻拭いをしてもらったり、仕事が成功したことで出世街道に乗ることができた結果、ある程度の地位と給料を得ることができれば、最終的には有能な良い上司だと認定されるのではないだろうか。



 では、ローランドの場合はどうだろう。それだけの商人としての才覚を持ちながら、自身では商会の運営を行わず、元々商人をやっていた人間に商会を任せ、何かあれば即座に対処をする。そして、予告なしとはいえ彼が持ってくる商品は、発売すればバカ売れしていき、長期に渡って売上が見込める。



 商会の売り上げ自体も彼の全取りではなく、そのほとんどを商会の運営費に回しており、精々が売上の一、二割程度しか持って行かないという商人らしからぬ欲がない経営方針を取っている。



 ここまでのことをされて彼のことをパワハラ上司だと言えるはずもなく、グレッグを筆頭に彼が立ち上げた商会の全従業員が彼を有能な上司、尊敬できる上司として崇拝されているのだ。



 そもそもの話だが、この世界の商人たちはローランドの経営方針とは真逆で、商会での売上の八割を自分の懐に入れてしまい、従業員の功績はすべて商会主である自分の功績としてしまうのが常識だったりするのだ。そういう意味では、ローランドがいかに稀有な存在であるのかというのがよくわかることだが、商人とは元来そういった信頼関係が重要なものであったりする。



「さて、今日もあの方のために尽力しましょうかね」



 受けた恩の大きさは計り知れず、マチャドがそれを返しきれる日が来るのかわからないが、彼がローランドを裏切ることは決してないだろう。王家とも関わりのある御用商人の息子とはいえ、跡取りのスペアですらない三男として生まれたマチャドにとって、どこか身を立てる場所を探していた。彼の家としては、悠々自適に余生を過ごしてもなんら文句は出なかったが、彼自身がそれを嫌った。



 商人の息子として生まれたからには、商人として世に出たいと考えるのは当然であり、例えそれが実家の商会と対立する結果となったとしても、構わないとすらマチャドは考えていた。



 ところが、ひょんなことからローランドと知り合い、あれよあれよという間に商会の代表として経営を任され、今では王都でも指折りの商会へと成長を遂げるなど一体どこのシンデレラストーリーだと突っ込みが飛んでくるだろうが、それが事実であるからして本人としても複雑な気持ちだ。



 すべては自分を見い出してくれたローランドのお陰であり、今もこうして商人として大きな仕事を任されている以上、彼がローランドにどれだけ感謝してもしきれないのは第三者の目から見ても明らかだ。



 だからこそ、今日もマチャドは文句の一つも言わず、ローランドに感謝しながら商会長としての務めを果たす。例え、いきなり飛び込みで新商品を持ち込まれようとも、その影響で店に客が詰め寄ろうとも、彼がローランドに逆らうことは決してないだろう。



「商会長、この案件なんですが……」


「ああ、これはまだ急ぎじゃないから大丈夫だ。あっちの件の方が急いでいるから、そちらを優先して動いてくれ」


「わかりました」



 従業員として雇った女性奴隷に的確に指示を出していく。だが、マチャドが契約している奴隷たちに手を出すことはない。理由は簡単で、彼女らがローランドの所有物だと認識しているからだ。



 商家の三男坊として育ったことが影響しているのかはわからないが、マチャドは女性に対して少し手癖が悪いところがある。かつてローランドが闇ギルドと一線を交えていた際、当時敵対していたモチャに対し、性的な拷問をしようとしたところ、自ら志願したほどに彼の女性対する嗜好は強い。



 だというのに、そんなマチャドが顔立ちも整っている女性奴隷たちを見ても何ら興味を示さないのは、彼女たちの所有者が自分自身の雇い主であるローランドであると考えているからだ。



 彼の性的興味が衰えたという説もあるが、頻繁に娼館に出掛けるところを鑑みれば、その線がないということは一目瞭然であるため、ローランドに義理立てしていると見て間違いない。



 しかし、当の本人であるローランドは未だ未成年であり、そういった興味がないわけではないが、ティアラやファーレンといった見目麗しい少女たちを見ても進展がないことを考えれば、マチャドの気遣いはあまり意味のないものなのかもしれない。



 それが証拠にローランド自身も彼女たちに夜伽などをさせるのは構わないが、ちゃんと責任を取ることを条件として、そういった行為を認めていたりする。



 だが、マチャドは最初からその気はまったくないため、潜在的に女性奴隷たちの欲求が溜まっていることを彼もローランドも知らない。



「今日はどの子を指名しようかな?」



 そんなことを呟きながら、今日の仕事終わりに行く予定の娼館で、誰を指名しようかという総じてどうでもいい悩みに耽るマチャドであった。余談だが、このあと従業員にボーっとしていたことを指摘され、怒られたのは言うまでもない。

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