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382話「自宅拡張」



 数日後、俺がやって来たのはオラルガンドにある自宅だ。目的は、自宅で行っている生産ラインのメンテンナンスである。



 俺が出資――商品も卸しているため、実質的には経営――している商会で販売している商品は、その多くが俺が生み出した職人ゴーレムに製作させており、寝食のほとんどは王都の屋敷を使っているため、事実上自宅ではなく生産工場と化している。



 たまに様子を見るため数日に一度は足を運んでいるのだが、今回新しい案件となる【ミックスジュース】の生産ラインの確保を行いたかったのだが……。



「うーん、ここも手狭になってきたな」



 今俺の目の前に広がっているのは、あくせくと働く職人ゴーレムたちの姿だ。ゴーレム自体は無機物の存在であるため、どれだけ酷使したとことで過労で倒れるなどということはないのだが、昼夜問わずひたすら同じ作業を延々と繰り返す様子は、地球での記憶を持つ俺としては黒い企業だなと考えてしまう。



 そんなことを思いながら、手狭となった作業場をどうするのか考えていると、見覚えのあるゴーレムが近づいてくる。



「ゴシュジンサマ、ドウカナサイマシタカムー」


「ああ、そろそろここを拡張しようと思ってな」


「ソウデシタカ。ソレハプロトモカンガエテイタトコロデスムー」



 どうやら、プロトもここが手狭になってきたことを感じていたらしく、俺と同じく拡張することを検討していた様子だ。ちょうどいいので、このまま作業場の拡張を行うこととなったのだが、今回は地上ではなく新しく地下に拡張しようと考えている。



 それに伴って、俺は拡張の準備をプロトに指示しつつ、一度商業ギルドへと移動する。



 確か、俺の記憶が正しければ、現在オラルガンドの自宅は借家として月小金貨二枚を払っていたはずだ。いちいち払いに来るのが面倒ということで、いつからか大金貨を数枚先払いしてそこから毎月引き落とす形を取っていた。



「いらっしゃいませ。ギルドカードの提示をお願いできますでしょうか?」


「ん」



 ギルドの職員からギルドカードの提示を求められたため、素直に従いカードを提示する。すると、すぐに職員の顔つきが変わり、先ほどよりも丁寧な対応となった。



「失礼いたしました。ローランド様、少しお時間よろしいでしょうか?」


「ああ、問題ない」



 どうやら、商業ギルドは俺に用があったようで、すぐに応接室へと通される。すぐにギルドマスターのキャッシャーがやってきて、簡単な挨拶の後本題に入った。



「実は、あなた様が借りられている借家から、何やら得体の知れない謎の生き物が出没しているという噂があるのです」


「ああ、なるほど」



 俺が借りている自宅の敷地内には、護衛用のゴーレムが潜んでいる。敷地内に進入するだけであれば敵対行動とは見なされないが、工房や自宅内に入ろうとすれば即座に敵認定されてしまうため、許可なく侵入した人間がそれを目撃するのは仕方のないことだろう。



 そして、自宅や工房には換気のための窓も付いているので、屋外から建物内の様子を窺うこともできる。その時に内部を見ることは決して難しいことではない。



 実際にそれを見た人間が他の人間に吹聴して回る可能性もあるため、それが巡り巡って土地を管理している商業ギルド……キャッシャーの耳に入ったといったところだろう。



 彼としても、そういった噂話が来ている以上事実確認をしなければならず、場合によっては家を借りている借主から事情を聞かなければならない。つまりは一連の噂の当事者であろう俺ということだ。



「それはたぶんゴーレムのことだ」


「ゴーレム、ですか?」


「ああ、こいつだ」



 なんでもないことだと言わんばかりに、俺はその噂の生き物の正体がゴーレムであると告げる。ゴーレム自体は庶民からすれば珍しいものではあるが、貴族などの富裕層からすれば場合によってはそれなりに用いられるものであったりする。



 それなりの規模の商会や貴族の屋敷でも護衛として設置している家もあり、かく言う俺も、王都の孤児院や各商会に護衛として何体かの戦闘ゴーレムを配置していたりするのだ。



「こ、これはっ。確かにゴーレムですね」


「おそらくは、敷地内で目撃したこいつを謎の生物と勘違いしたのだろう」


「事情はわかりました。ところで、今日のご用向きを聞いていませんでしたね」


「ああ、実は……」



 偶然だったが、こちらも間借りしている自宅を借家から持ち家として購入したい旨を伝える。すると、俺のこの申し出が有難かったようで、キャッシャーの顔が明るいものへと変わった。



「申し訳ない話なのですが、何かいわくのある物件として認識されてしまいますと、次の借り手が見つからないこともあるのです。そうなってしまった場合、家賃を下げざるを得ずギルドとしては赤字となることも珍しくありません」



 どこの世界でも醜聞や世間体というものを重要視する層は一定数存在しており、中にはそれがすべてだと思っている人間もいる。家賃が少々お高いが何もいわくがない物件と、安いがかつて殺人事件が起こった事故物件であれば、前者の物件を選択するのが一般的な意見だろう。



 そういった考え方はこの世界でも同じらしく、今俺がこの物件の賃貸契約を破棄した場合、以前と同じ金額ではまず借り手は付かない。そもそもの話だが、状況的に隠し事が多い俺としてはあまり人通りが多くない閑静な場所を探してたため、立地的にも需要のない物件が、今俺が借りている家だったりする。



 つまり、俺が借りるのをやめてしまった場合、今流れている噂も相まって次の借り手が見つかる可能性は奇跡に近い確率となってしまうのだ。



「ですから、今回のあなた様の申し出は本当に有難いのです」


「なるほどな」



 そんなわけで、キャッシャーの好意により通常大金貨三枚での購入のところを大幅に値下げしてもらい、大金貨二枚という破格の値段にしてもらえることになった。



 さっそく契約書に目を通し、細かい部分の契約内容を把握してから承諾のためのサインする。購入金額自体もあらかじめ預けていた大金貨で賄えてしまったため、実質的に俺の財布から出した金額はゼロである。寧ろ、預けていた大金貨が不要となった分が返ってきたので、気分的にはプラスになった気がしているくらいだ。



「ところで、王都にあるローランド様の商会が仕切っておられる露店で、新しい商品を取り扱い始めたと耳にしたのですが。なんでも、ミックスジュースなる飲み物だとか」


「耳が早いな」



 それから、キャッシャーにせがまれミックスジュースの実物を試飲させてやると「いくつかうちに卸せませんか?」と言われたため、数樽分ほど融通することになってしまった。商魂たくましい限りである。

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