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379話「帝国の躍動」



 ~ Side ????? ~


「以上が周辺諸国の状況と、SSランク冒険者の動向にございます」


「……で、あるか」



 荘厳な造りの空間に一つの玉座が設置され、そこにある男が不遜な態度で鎮座する。バルバトス帝国第十一代皇帝ザングス・フィル・ビルゼバーグ・バルバトスその人である。



 精悍な顔立ちに威厳ある髭を蓄え、自身も戦士としての鍛錬を怠っていないのかその頑強な肉体は帝国の戦士の中でも屈指の実力者だ。



 御年五十二歳。常人であれば、とうに人としてのピークを過ぎているといっても過言でない年齢であるにもかかわらず、その鍛え抜かれた肉体は未だ現役である。



 本人も自身が常人の規格に収まらない自覚はあれども、為政者として何よりも一人の戦士としてそれを好都合と受け取り、今日に至るまで政と軍事に邁進してきた。



 最近のささやかな悩みとしては、そのあまりに衰えない体は夜の方にも活かされており、そっちの意味でも未だ現役だ。そして、その相手をする女性に苦労を掛けているという自覚があり、王妃からは「もうそろそろ落ち着いてくださいまし」と涙目になっている。



 尤も、その反論として「愛する女性と肌を重ねることの何が悪い?」と宣い、王妃の顔を赤くさせているところを見るに、今も夫婦仲は良好のようだ。



 そんなリア充を地でいくような皇帝がいるバルバトス帝国は、シェルズ王国を南下し、セイバーダレス公国の領地を跨いだ先にある。かの国は、この世界でも有数の軍事国家であり、歴史的にも軍事侵攻によってその勢力を拡大してきた背景があり、近年は鳴りを潜めていたが、ここにきて各国の動きに注視し始めたようだ。



「それにしても、このローランドという冒険者。未だ成人していない少年だとか」


「宰相。人を歳や見た目で判断するのは感心せんぞ。この儂自身が、中と見た目が違う見本のような存在だというのに」


「……確かにそうでしたわね。出過ぎた言動お許しくださいませ」


「許す」



 自身の言動に思うところがあったのか、ザングスの指摘に素直に宰相は謝罪する。バルバトス帝国宰相ウルベラ・フォン・シャキアブルス。その冷静かつ冷淡な判断を下す姿と彼女が得意とする魔法が水と氷の魔法であることから、【氷の宰相】として各国にその名が知れ渡っている。二十四歳独身。



 最近の彼女の悩みとしては、そろそろ婚約をしてシャキアブルス家の跡取りを娶ろうと考えているものの、彼女の眼鏡に敵う相手がおらず、貴族には珍しくこの歳までまとも婚姻話はおろか婚約の打診すら出てこない始末だ。



 ウルベラとて花も恥じらう乙女の時代がなかったわけではないし、その整った顔立ちと近づき難い雰囲気を持ちながらも人を引き付けるほどに美しい容姿は貴族の中でも随一と言われていたこともあって、若い時分には婚約の話がいくつか持ち上がったこともあった。



 しかしながら、彼女の人柄は傍から見れば冷たい人間であると勘違いさせてしまうようで、数少ない婚約話も流れてしまったのである。



 彼女とて家を存続させるためには、婚姻をし跡継ぎを生まなければならないということは理解している。だが、それでも能力として申し分ない相手を選ぶべきだということも一理あり、そういった理由から未だ結婚できないでいた。



「年下か……」


「ウ、ウルベラよ。いくらなんでも未成年は――」


「キッ」


「い、いや。なんでもない。そ、それよりも、軍備の方はどうなっておる」



 ウルベラの思考があらぬ方向に行きかけていることを察知した皇帝が、彼女に指摘しようとしたところ、相手を射殺さんばかりの視線を向けられたため、焦った皇帝が途端に話題をすり替える。いくら彼が百戦錬磨の修羅場を経験していようとも、そういった女性の機微についてはあまり詳しくはない様子だ。



 現在、バルバトス帝国では、更なる領土拡大のための軍事侵攻の政策が行われており、この策は十年前から執り行われている。それほどまでに、虎視眈々と他国への侵攻を狙っていたということを見れば、帝国の執念深さが窺い知れる。



「現在動員できる兵力は東軍四万、西軍六万、そして中央軍五万の合わせて十五万ほどでございます」


「であるか。ようやく機は熟した。クラウェルの進捗はどうなっておる。セラフでは邪魔が入り失敗したと報告を受けたが」


「現在試作品の魔人玉開発に注力しており、目下作業中かと思われます。完成予定は未定となっておりまして、未だ目途は立っておりません」



 十年という軍備強化政策によって、十五万という一大勢力にまで膨れ上がった軍隊は、残すところ他国に攻め入るのを今か今かと待っている状態だ。シェルズ王国やセイバーダレス公国も帝国の動向については定期的に間者を放っており、詳細な情報と行かないまでもそろそろ侵攻してくることは察知している。



 そして、ここで先のセラフ聖国において枢機卿の地位に就いていた男クラウェルの名が、ザングスの口から語られる。彼の元の所属国はバルバトス帝国であり、セラフを内部から腐らせるために帝国が派遣した工作員だったらしい。



 それだけではなく、セラフの名を隠れ蓑にして周辺諸国に対し、破壊工作を仕掛けるための布石を投じようと――エクシードという人工的にスタンピードを発生させる計画も画策――していた。だが、その企みは、ローランドの手によって阻まれはしたが、次なる計画に備えて今は研究所に籠っている



「で、あるか」


「あの者の力など頼らなくとも、現状の兵力を差し向ければ制圧は容易いかと」


「いや、何が起こるかわからないのが戦だ。念には念を入れ、魔人玉の完成を待つ」


「陛下が仰せとあらば。時に陛下。第五皇子であるご子息は成人となられたご様子、となれば婚約者の一人も必要となってくるでしょう。しからば、この私めなどはいかがでしょう――」


「さて、情報のすり合わせはこれくらいとし、執務に戻るとしよう」



 話が一段落したところで、ウルベラが突如話を振ってくる。最近十五歳を迎え成人となったザングスの息子……第五皇子についてだ。王族や貴族というものは成人する年頃を頃合いに将来の伴侶を見繕うのだが、先ほどの説明でもわかる通りウルベラには決まった婚約者はいない。



 この世界の貴族にとって二十四歳という年齢は、適齢期を過ぎた歳であり、もはや懸念される相手であるのだ。ウルベラもそのことを理解しており、このまま待っていても婚約話を持ってきてくれることがないと焦った彼女は、精力的に自ら縁談を持ち掛けているというのはバルバトス帝国内でも有名な話だ。



 ウルベラ自身同年代の女性貴族の友人がいるのだが、その尽くが婚姻を済ませており、さらに付け加えるならば、そのほとんどが婚姻相手との子供を授かっている。彼女のとある友人に至っては、二十四歳にして三人の子持ちという子沢山な女性もいるのだ。



 だというのに、自分は婚姻どころか婚約者の一人すらいない。こんな状態では、跡継ぎを生むことすらままならず、シャキアブルス家の血が途絶えてしまう。現実問題お家騒動の事態にまで陥っているのだ。



 そういった事情から彼女もなりふり構ってはいられず、いつしか婚約していない年頃の男性がいると見るや、自分を売り込むべく彼女から縁談話を持ち掛けるようになったのである。



「ちっ、逃げられましたか。はぁ、どこかに優良物件の殿方は落ちていないでしょうか?」



 誰にともなく零した彼女の愚痴に応える者はおらず、ただただ虚しく響き渡るのだった。

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