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371話「指導の結果2」



「ローランド先生、わたくしがどこまで強くなったのか。見せて差し上げますわ」


「いいだろう。かかってこい」


「試合……始め!」



 意気揚々と俺の前に出てきたモリーがそう宣言すると同時に、戦いの火蓋が切られた。当然相手の出方を窺う俺から攻撃することはなく、彼女に先制を許す形となっている。



 それを理解しているのか、モリーはそのことに憤慨することなく、すぐに攻撃を仕掛けてきた。



「【ファイヤーボール】!」



 詠唱することなく放たれた魔法だったが、残念ながら威力と勢いは詠唱した時よりのそれと比較するとお粗末と言わざるを得ないものだった。だが、一秒のロスが命取りとなる実践においては値千金の価値があるため、この短期間で無詠唱に至ったことを賞賛すべきだろう。



「【ウォーター】」


「っ!?」


「何を驚いている? 教えたはずだ。魔法には属性があり、使用する属性によっては優劣が存在すると。火属性のファイヤーボールに対し、優位となる水属性のウォーターをぶつけて相殺した。ただそれだけだ」


「それを、まるで息をするみたいに行う時点で凄いと思いますが」


「だが、この短期間で詠唱を破棄できたことは称賛に値する」


「それはどうも」



 涼しい顔でそんなことを言われたところで意味はないとばかりに不満気な顔で返答するモリーだったが、これは本当に快挙と言っていいことなのだ。



 他の魔法に秀でた生徒たちは、この二週間という期間で自身の魔法制御と魔法操作のスキルのレベルを上げることに成功した。しかし、そう簡単にスキルというものはレベルが上がるものではなく、優秀な部類に入る生徒たちですらレベル3になったばかりの者が多く、すべての詠唱を破棄することはできていない。



 ところが、彼女は学園の生徒の中で最も早くレベル4にまで到達し、まだ不安定ながらもすべての詠唱の破棄を実現させている。二週間という短期間でここまで伸びた生徒は彼女だけであり、それだけでも彼女の才能と積み重ねてきた努力がどれほどのものであるかは想像に難くない。



「さて、ここから本気で行かせてもらいます」


「こい」


「火よ、我が魔力。【ダークフレイム】!」


「ほう」



 以前発動しなかった魔法を難なく発動させ、モリーが攻撃を仕掛けてくる。黒い炎を帯びた奔流が、俺に襲い掛かろうと勢いよく迫ってくる。見学していた者の中には、悲鳴にも似た叫び声を上げている様子だったが、まったく問題ない。



「【ウォーターカノン】」


「なっ」



 無詠唱で放たれた水属性の魔法は相対する炎とぶつかり合う。先ほどモリーにも説明した属性間での優劣によって、炎の奔流は瞬く間に消失し、その勢いは止まらず、逆にモリーに襲い掛かった。



 一応説明しておくと、魔法には属性がありその属性によって有利となる属性と不利となる属性というものが存在している。例えば火と水の関係性だ。



 燃え滾る火に水をぶっかければ、当然火は消える。逆に水を地面に撒くと、水は土に吸収される。そういった具合にそれぞれの属性には優劣があり、具体的に基本となる火水土風光闇の六属性を例に挙げるなら以下のように表現できる。




 ・火は水には不利、風に有利。



 ・水は土に不利、火に有利。



 ・土は風に不利、水に有利。



 ・風は火に不利、土に有利。



 ・光と闇はお互いに有利。




 上記の関係はあくまでも基本的なものであり、これに下位や上位といった階位や術者が扱う魔力などの関連スキルの高低によっていろいろと補正が掛かってくる。



 しかし、基本的にはこの関係がベースであり、よほど実力に差がなければこの属性の優劣が揺らぐことはないと考えるべきなのだが……。



「あり得ませんわ! わたくしが放ったのは火魔法の上位である炎魔法のダークフレイム。先生が放ったのは、氷魔法の下位魔法となる水魔法。であるならば、上位である炎魔法の方だけが消えるなど……」


「確かに、階位だけ見れば、上位の魔法である炎魔法の方が、下位の魔法である水魔法よりも威力・規模共に優位だ」


「なら何故わたくしのダークフレイムだけが……」


「まったく同じ実力を持った魔法使い同士であるならば、お前の言ったように、上位の炎魔法と下位の水魔法をぶつけた場合、炎魔法は残り水魔法は消失する。だが、相手との実力に差があれば話は変わってくる」



 ダークフレイムを消失させ、その勢いがある程度衰えた俺のウォーターカノンを躱すと、モリーがそんな風に声を上げる。彼女が困惑するのも当然なのだが、俺はその疑問に答えてやる。



「お前に教えた通り、炎魔法のダークフレイムと水魔法のウォーターカノンがぶつかれば、下位魔法であるウォーターカノンが消失するのが定石だ。だが、仮にダークフレイムに込められている魔力量が二千でウォーターカノンに込められた魔力量が四千だった場合はどうなると思う?」


「あ」



 俺の説明によって、先ほどの現象の理由に思い至ったモリーが小さく声を出す。上位と下位という力の差がありながら、何故下位の魔法が打ち勝ったのか。その理由は込めた魔力量にある。



 いくら上位の魔法とはいえ、込めた魔力量に差があれば上位と下位という違いを補って、下位の魔法に軍配が上がる可能性があるのだ。例えば、格闘経験のない素人の大人と空手の有段者である小学生であれば、どちらの方が強いのか。答えは当然後者だ。



 いくら大人とはいっても、戦う術を知らない素人が戦う術を知る者に敵うはずはない。例えそれが、体格差のある小学生であったとしてもだ。



 それと似たように込められた魔力量に差が生じれば、階位の違いをもろともせず上位の魔法を打ち破ることも理論上不可能ではない。確か、某RPGのアニメの敵役がこんなセリフを言っていた気がする。“今のはメ〇ゾーマではない。メ〇だ”と……。



 そして、俺には魔力制御と魔力操作上位の上位となるスキル【魔道の極意】がある。魔法そのものの威力や性能にかなりの補正が掛かるこのスキルがある以上、仮に同じ魔力量で放ったとしても打ち勝っていたのは俺の魔法だったのは言うまでもない。



「そういうわけで、例え上位魔法でも下位魔法で対抗できないわけではない場合がある。それは術者の力量に左右される部分が大きいということを覚えておくことだ」


「肝に銘じます」


「それで、続けるか?」


「いえ、降参します。これ以上やっても、無駄に魔力を消費するだけですから」


「勝者、ローランド!」



 モリーもまた最初に戦った時よりも魔法が上達しているが、さすがに化け物である俺には敵わない。だが、バルドと同様見学していた魔法師団の団員に名前を覚えられていたから、同じ魔法師団に入ることを考えれば、今回の一件はバルドと同様決して悪いことばかりではないだろう。



 それから、クラス全員と模擬戦を行ったが、全員が初戦の時よりも成長しており、指導の成果が出ていることが確認できたため、俺の役割は十分に達成できたといえるだろう。



 こうして、長いようで短い教師生活に幕を閉じる予定だったが、そんな簡単にはいかない出来事が起きてしまうのであった。

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