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362話「朝礼」



「本日より、この学園で教鞭を振るってもらうことになったローランド君だ」


「ローランドだ。よろしくお願いする」



 三日後、朝礼で学園の職員全員が一堂に会する中、ファリアスが俺を紹介する。それに応えるように俺が簡単な挨拶をすると、様々な反応が返ってくる。



 見た目が見た目だけに目を白黒させる者、ボーマンと同じく怪訝な表情を浮かべる者、俺を知っているのか目を輝かせながら一礼する者などいろいろな思惑が透けて見える。



 ここから簡単な経歴などの自己紹介を交えるのが通例だが、それでは面白くない。二週間という短期間だが、せっかく講師として赴任するからには、国王のコネを使って入ってきた無能ではなく、選ばれるべくして選ばれたと思わせるため、学園が始まるまでの間に事前に準備をしておいた。



「普段であれば、ここで経歴など簡単な自己紹介をするのが定石だろうが、それではつまらない。そこで、挨拶代わりにこんなものを用意した」



 そう言いつつ、俺が指をパチンと鳴らすと、各席のテーブルの上に分厚い書類の束が出現する。俺が何を用意したのかというと、簡単に言えば論文である。



 学園の職員たちの中には自分の専攻する分野を研究し、時に自身の研究結果を学会などの公の場で論文として発表することがある。そして、それはその人が長年研究した汗と涙の結晶といっても過言ではない。



 そこでちょっとした余興に、今席に座っている各職員が過去に発表した論文を事前に入手し、その内容を精査し間違っている箇所がないか確認する。仮に相違点があればそれを修正する形で論文内に記入する。小学校のテストで、先生が正しい答えを赤ペンで記入するといえばわかりやすいだろうか。



 論文は研究者にとって財産であり、自身の成果物でもある。自分の専門分野で間違いを指摘できるほどの知識を持っているということを暗に伝えられるため、これ以上の自己紹介はないと俺は考えたのである。



「まず、学園長が二年ほど前に発表した【ポーション生成における生成起因とその関係性】という内容だが、ここには“ポーションができる要因として使用する薬草と水の品質でポーションの質が決定される”とあるが、正しくは“その二つの要因に加え、製作者の魔力の質と込める魔力量及び下処理加工によっても質が変わってくる”が正しい内容だ」


「そ、そんな馬鹿なことが……」


「なら、実践してみせよう」



 そう言うと、俺はストレージからポーションを作り出す道具を取り出し、一般的なポーションを作る。ポーションの作り方として一般的な調合法はポーションの原料となる薬草をすり潰しそこに水を加えながら魔力を込めると完成するというシンプルなものだ。



 だが、それでは不純物が残ってしまうため、効能の高いポーションは完成し難い。そこで時間を掛けてペースト状になるレベルまで薬草をこれでもかというくらいにすり潰し、水も不純物のない澄み切ったものを使用することで品質自体を向上させることが可能となる。しかし、その中でも最も重要なのは魔力だ。



 魔力を込めることで薬草の成分に作用し、怪我や病気の治癒力を高める効果がある。だが、ここで気を付けなければならないのが込める魔力の量だ。適量であり、少なすぎても多すぎてもダメなのだ。少なすぎれば効果が下がってしまうし、多すぎれば薬草と魔力が混ざる際【融解爆発】というものを引き起こしてしまうため、とても危険なのである。



「とまあ、このように。調合時における材料の質と魔力の量によって効果の高いポーションができあがるということだ。材料も大事だが、それ以上に魔力も大事だということだな」


「こ、このポーションって……」


「低級だが、恐ろしく品質が高い」


「これなら切り飛ばされた腕がくっつくのでは?」


「というよりも、切れたところから生えてくる可能性も……」



 といった具合に学園長の論文の間違いを実践で指摘してやったのだが、職員の何人かに薬学を専攻している人材がいたようで、俺の作ったポーションについての考察会が開かれている。



 ポーションについてはほとんど怪我をしたことがないことと、治療魔法や回復魔法と呼ばれる類の魔法を修得しているため、ほとんどお世話になることがない。それ故、今まで積極的に作ってはこなかったのだが、職員たちの反応からどうやらかなり質の高いポーションができあがったようであった。



 他にも指摘するべき論文があったため、できたポーションを試験管型の容器に入れて回収したところ、先ほどまで論議をしていた職員から落胆の声が上がったが、それに気付かないふりをして次の論文について話始める。



「次にボーマン教諭が提唱する【魔法と詠唱についての因果関係】についてだが、手元にある通り根本が間違っている」


「それは聞き捨てならない。どこが間違っているというのだね!?」



 昨日あった出来事が尾を引いていたのか、俺が話題に出すまで黙って静観していたボーマンだったが、さすがに自分の専門分野にケチを付けられていることで黙っていられなくなったようで、俺の指摘に語気を荒げる。



 彼が発表していた内容は魔法に関する論文だったのだが、その内容を呼んでみると目が点になるものであった。



 そもそもの話として言っておくが、魔法というものは体内に存在する魔力を消費し、脳内でイメージした事象を顕現させるれっきとした物理現象……科学なのである。地球では魔力という存在自体が夢物語に登場する空想上の概念として描かれることがほとんどであったが、この世界において魔力という存在は確かにそこにあり、それに付随する形として魔法という技術があるのだ。



「つまり、頭の中でしっかりとした想像ができていれば、詠唱という手順を踏むことなく魔法を発動させることができるということだ」


「それは間違っている。現にそういった無詠唱の実験が過去に何度も行われたが、詠唱を必要とする者が無詠唱になった事例は皆無であった」


「それは単純に無詠唱での魔法行使によって魔力消費が急激に跳ね上がった結果、被験者の内在魔力では無詠唱での行使ができなかったという事例だな。言い忘れたが、詠唱を伴う魔法行使と無詠唱での魔法行使では、当然無詠唱の方が消費する魔力は跳ね上がるからな」


「し、しかし……過去の研究では」



 俺の説明を受けても信じられないといった様子のボーマンだったが、こればかりは実演しないことには証明のしようがない。そこで俺はある提案をする。



「では、それを実際に成果として見せるというのはどうだろう?」


「どういう意味だ」


「幸いなことに、二週間という期限付きだが、俺はここの講師をやることになった。その二週間で俺が言ったことを証明してやろう」


「馬鹿な、不可能だ。自分が言っている意味がわかっているのか? それはたったの二週間で、無詠唱の魔法の使い手を生み出すと言ってるんだぞ!?」


「その通りだ」



 この世界において、無詠唱での魔法使いの存在は歴史上いなかったわけではないものの、そのほとんどが詠唱を必要とする魔法使いばかりなのが現状だ。だが、それをたったの二週間で生み出すという俺の言葉に怒りを通り越して呆れすら浮かんでいる様子のボーマンだったが、俺がやると言ったらやるのだ。



 それから、他の職員の論文についてもいろいろと指摘していき、その反応は怒りを露わにする者もいれば、俺の言葉に耳を傾け新たな発見を見い出したとばかりに感心する者もいて、三者三様の様相を呈していた。



「というわけで、以上だ」



 俺がそう宣言する頃には、ぐったりとした学園長と職員たちの姿があったが、すぐに復活をしたと思ったら俺が指摘したことについてそれぞれ議論が開催されることになってしまった。



 だが、時間的に授業を行わなければならないということでファリアスの一言で一時解散の流れとなり、俺は彼女と共に俺が受け持つクラスへと案内されることになった。

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