357話「仕込み」
「それでね、他の連中が好き勝手やっちゃってどうにもならなくなってるのよー」
「そ、それは大変ですね」
「そうなのよ大変なのよー」
あれから彼女の愚痴に付き合わされること数十分、俺はひたすら彼女の話を聞くだけに徹している。どうにも日頃から鬱憤が溜まっていたのと、誰かに話を聞いてもらう機会がなかったこともあってか、彼女の愚痴の勢いは未だ留まる気配がない。
酒が入って気が大きくなっているのか、それとも俺の見た目がまだ子供だからか、彼女はいろいろと語ってくれた。
曰く、出世ばかりを追い求める上層部たちの権力闘争によって国の内政が疎かになっていること。曰く、そのくせ他国へ侵略し自国の領土を広げんと画策することに関しては積極的で、それが原因で隣国から嫌われていること。曰く、すべては自身の欲のためであり、それが原因で国民たちの生活が貧困していること等々である。
「このままでは、国に不満を持つ国民の手によっていつ反乱が起きてもおかしくはない状況なの。それなのに、教皇様や他の枢機卿たちは相手を蹴落とすことと女の尻を追っかけ回すことばかり……」
「なるほど」
などとこの国の情勢についても彼女の口から聞くことができているため、彼女の愚痴に付き合っていることも無駄ではない。
フローラから手に入れた情報を精査していくと、この国の上層部は自身の出世や相手を蹴落とすことと自国の領土を広げるための侵略行為に力を入れており、内政についてはほとんど手つかずといっても過言でない杜撰な状況だということであり、いつ国民の不満が爆発して反乱が起こるかわからないということらしい。
フローラ自身もそれを何とかしようとしているが、事あるごとに他の枢機卿が結託して妨害してくるため、彼女の作戦も尽く失敗に終わっている。
「あのおじさんたちの私の身体を見る目といったら、嫌らしいと言ったらないわっ!」
(それは、仕方がないことだと思う)
口には出さなかったが、フローラの体つきはかなり均整が取れており、まさに恵体といってもいいレベルだ。そんな彼女の体を見て何とも思わないというのならば、逆にそういったことに興味がないか病気を疑った方がいい。それくらいに彼女の見た目は魅力に溢れている。
「そうだ。あなたにこれをお渡ししておきましょう」
「……これは?」
「ちょっとしたお守りです。それではフローラ様。あまり飲み過ぎないようにしてください。失礼します」
フローラの人となりを見て、彼女が善人であるということを判断した俺は、彼女にちょっとしたアイテムを渡すことにする。そのアイテムによって彼女の立場は飛躍的に向上すると踏んでいる。だが、今はまだその時ではないため、そのアイテムの具体的な使用法は伝えない。
そのアイテムは、前世の地球でいうところのカードキーのような見た目をしており、見た目通りの使い方となっている。つまりは、このアイテムがあれば一時的に俺がセラフ聖国に張った結界の一部に穴を開けることができるのだ。しかも、使用権限についてはフローラしか使用することができないため、仮に他の人間が奪い取ったとしても彼女以外の人間からすればただの薄い物体Xに過ぎない。
彼女にカードキーを渡し、そのまま部屋を退去しようと踵を返したその時、突如として背後から抱き留められるように引き留められる。通常であれば背中に当たるはずの柔らかい感触が後頭部に当たっている。
「もう少しいればいいじゃない。なんなら、私とイイコトしないかしら?」
「いえ、遠慮しておきます」
「遠慮することはないのよー」
それから、さらに押し問答を続けたが、あまりにしつこかったので、眠りの魔法を掛けてお眠りいただいた。
必要な情報も聞くことができたため、あとは彼女に仕込んだアイテムで事が動き出すのを待つだけである。
美しい彼女の寝顔を見つつ、部屋を後にした俺は瞬間移動で宿へと戻り、その日はそのまま眠りに就いた。結局俺が大聖堂をに侵入したことは気付かれず、朝を迎えても騒ぎになることはなかったのであった。
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