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342話「ヒーローは遅れてやってくるが、どうやら悪役も同じらしい」



「さて、いろいろと話を聞かせてもらおうか?」


「……」



 勝敗がついたことで、次に俺がやるべきこと。それは男の尋問だ。今更ながらこの男についてほとんど何も知らないことに気付いた俺は、改めて超解析を使い奴の素性を調べる。



 その結果、わかったことがいくつかある。男の名前はマッド・クラウェルという名前で、肩書きとしてはセラフ聖国の枢機卿であると同時に技術開発部門統括責任者という何とも長ったらしい役職に就いている男だということが判明した。能力についてはそれほど高くはなく、Sランク冒険者に今一歩届かない程度の実力だった。



 それでも俺に回避させることを選択させるほど聖光魔法のレベルが高く、魔力も七万と一般的な魔法使いよりもかなりのものだったようだ。超解析によってクラウェルの素性が概ね理解できたが、奴が一体何の目的でエクシードという機会を使ってスタンピードを起こそうとしている意図がわかっていない。



「この機械を使って何をするつもりだ?」


「……」


「さっきまであれほど饒舌に喋っていたのに、今度はだんまりか?」


「……ぐはっ」



 俺の問い掛けに黙秘を貫くクラウェルのわき腹に蹴りを入れる。やせ型で体重も平均以下のクラウェルの体はいとも簡単に宙へと投げ出され、地面を転がる。小さく呻き声を上げている奴に近づきつつ、今一度問い掛ける。



「もう一度聞く。お前たちの目的はなんだ?」


「ク、クククク。そんなに知りたければ、我が聖地に来るといい。そうすれば嫌というほど理解することになる」


「見え透いた挑発だな。だが、それも選択肢の一つではある。とりあえず、これ以上余計なことをしないようお前はここで始末しておこう」




 俺がそう口にし、クラウェルに止めを刺そうとしたその時、俺の足元に光の槍が突き刺さった。何事かと思い空を見上げると、そこにいたのは白い衣に身を包んだ聖騎士風の男だった。



 新手の登場に俺が警戒していると、地上へと降りてきた男が俺に向かって口を開いた。



「それくらいにしてもらおうか」


「誰だ?」


「セラフ聖国戦闘部門統括責任者ガジェット」


「それはそれは。で、その責任者が一体何の用だ?」



 男は自身をセラフの部門責任者の一人であると名乗った。ブラフである可能性を考慮し、超解析で調べてみたが、ガジェットという男の言うと通りの情報が表示される。そして、こいつも枢機卿の一人らしい。ガジェットの情報を調べていると、奴が高圧的な態度で淡々と俺に言い放つ。



「そこの男は我が国に必要な駒だ。ここで死なせるわけにはいかんのだよ。悪いが手を引いてもらうぞ」


「逃がすと思うか? 【ボルトエッジ】」


「ふんっ、無駄だ」



 俺が放った魔法をガジェットは素手で殴り抜いた。魔法を物理的な攻撃で防いだことに少し驚きつつも、俺は攻撃の手を止めずにさらに強力な魔法を使う。



「【トルネードサイクロン】」


「無駄たということがわからないのか? 俺に魔法は通用しない!」



 竜巻を起こす風の魔法をぶつけるも、両腕をクロスし防御の姿勢をしただけで俺の魔法を耐え切ってしまった。どうやら魔法に対してかなりの耐性を持っているようだ。



「【ストーンレイン】【サウザンドアイシクルナイフ】【フレイムカノン】【ダークネスボム】」


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁああああああ!!」



 さらに畳みかけるように魔法を連発するも、すべて粉砕され無効化される。なんとも厄介な能力である。この短時間でガジェットに魔法が意味をなさないことは理解できた。そこで俺は一つの策を講じることにした。



「【レーザートマホーク】」


「まだ無駄だということがわからんのか!」


「そこだ。【グラウンドブロウファング】」


「ぎゃあああああああああ」



 まずはガジェットの気を逸らすべく、追尾型の魔法を使いガジェットの視線をクラウェルから外すよう誘導する。そして、ガジェットが俺の魔法に気を取られている隙に地面を這って動く系統の魔法で倒れているクラウェルに攻撃するという方法を取った。俺の作戦は見事にはまり、クラウェルの右腕は胴体から切り離され、おびただしい量の鮮血が溢れ出る。そのあまりの激痛に今日一番の悲鳴をクラウェルが上げる。



「やってくれたな小僧」


「相手の戦力を削ぐには、まず弱い奴から狙う。戦略の初歩だ」


「……道理だな。おい、さっさと転移で本国に戻って治療してもらえ」


「ぐ、それが、転移ができないんだ」


「……なるほど、この辺り一帯の空間を掌握しているようだな。【ディメンジョンブレイク】!」



 俺が魔法で転移系の能力を無効化していると知るや否や、すぐに対抗する手段を講じた。次の瞬間、空間にひびが入り何かがパリンと音を立てて割れる。それはまるで、窓ガラスが割れる様子ととても酷似していた。



 それこそ、俺が掌握していた空間が打ち破られた証拠であり、これで転移系の能力が使えるようになってしまった。まったく余計なことをしてくれたものだ。



「これで転移が使えるはずだ。さっさと帰還しろ」


「……礼は言いませんよ」



 そんなやり取りを見せたのち、クラウェルは懐から石を取り出すとそれを握りつぶした。次の瞬間クラウェルの体が白く光り、一瞬にしてその姿がかき消えたのだ。



 またしても逃げられてしまったことに内心で舌打ちしながらも、今は目の前にいる男を何とかするべきだと判断し、俺は意識をガジェットに向ける。ガジェットもまた俺に敵意を向けお互いに対峙する。



「さて、これで少しはやりやすくなった。では、いくぞ」


「いいだろう、こい」



 俺がそういった瞬間、突如として地面が爆ぜる。その正体に気付いた時、すでにガジェットは俺に接近し奴の拳が目の前へと迫っていた。だが、ガジェットの動きは見えており、俺に拳が届く前にその拳の側面から俺の拳を突き入れてやることで、奴の拳の軌道を変えてやった。しかし、その勢いは凄まじく、奴の繰り出した拳の風圧によって周囲が吹き飛び地面が抉れてしまった。



「ほう、俺の攻撃を受け流すとは。ただの小僧ではないと思っていたが、これは意外に楽しめそうだな」


「そんな余裕があるといいがな」



 クラウェルに代わり、ガジェットとの戦いの火蓋が切って落とされた瞬間であった。

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