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331話「マークの歪んだ愛情」



「という訳で、マルベルト領周辺の地図を見せてほしい」


「何がどうなって“という訳”なんだ?」



 思い立ったが吉日とばかりに朝に訪れた執務室に再び乗り込んだ俺は、開口一番ランドールにそう切り出す。その一方で、いきなりそんなことを切り出されたランドールは眉を顰めながら俺の言葉の真意を問い掛けてくる。



 まあ、事情を知らなければそんなリアクションになるのは当然だが、いかんせん説明するのが面倒臭い。ということで、説明を端折るため一言で済ませる。



「かくかくしかじかちょもらんまもちちちょびれという訳だ」


「……ますますもって意味がわからんぞ」


「父様、実はですね……」



 俺のイミフな説明にさらに頭に浮かんでいる?マークが増量したのを見かねて、マークが事情を説明してくれる。うちの家族であればこれで通じると思っていたが、残念ながら父親はそれほどこの言語を理解していないらしい。以前は理解してくれたと思ったのだが……。



 ともかく、マークの説明によって大体の事情を把握したランドールは、マルベルト周辺の地図をあっさりと見せてくれた。こちらから言い出したこととはいえ、そう簡単に部外者に地図などという機密事項を見せてもいいのかと聞いてみたところ意外な答えが返ってくる。



「お前は俺の息子だ。それは追放した今でも変わらない。そのお前が地図を見せろというのなら、俺は喜んで見せるとも」


「父様……」


「パパ……」


「……パパはやめんか」



 などと、ちょっと感動のあまりいつもは呼ばない呼び方でランドールを呼ぶと、照れ臭そうな答えが返ってくる。改めて家族の絆を再確認しつつ、ランドールから手渡された地図を確認していく。



 現当主ランドールが治めるマルベルト領は、領民の数に対してかなり広大な範囲に渡って領地があり、未だ手付かずな場所がほとんどらしく、全体の三分の一も開発が進んでいない。



 村自体は四つあるものの、村と村の距離はそれほど離れておらず、密集するように作られている。そのため、手が付けられていない場所が多く残っているのが現状だ。



 ランドールとしても、自身が治める領地であるため開発を進めたいところではあるが、そのための資金繰りや労働力の確保がままならず、また武功でたてた功績によって貴族の位を得ているため、領地経営自体もそれほど知識に明るいわけではない。



 寧ろ、初代当主でありながら四つも村を管理し、毎年国に一定の税を納めることができているだけで、成り上がりの貴族としては上出来と言えるのだ。尤も、それは自分一人の力ではなく隣領のバイレウス辺境伯が何かと気にかけてくれたという要因もあるが、それでも領地経営とは無縁だった人間が一定の成果を上げるのは並大抵のことではなかったことは想像に難くはない。



 そんな状況で新たな事業を始めるというのは酷なことであり、ランドールとしても歯がゆい思いをしているようで、苦笑いを浮かべていた。



「父さん、こっからここまでの領地借りても構わないか?」


「ふむ、そこは何も使ってない場所だから問題ないが、一体何をするつもりだ?」


「なに、ちょっとこのマルベルトに特産品を増やそうと思ってね」


「特産品? 何を作るというんだ?」


「まだ上手くいくかどうかわからないから、できるまでは伏せておく。あと、マークを借りてくから。行くぞマーク」



 ランドールに許可を取った俺は、さっそくマークを伴って部屋を後にする。誰もいないことを確認した俺はマークの手を握り瞬間移動である場所へと転移する。



 辿り着いたのは、ローグ村の村はずれの場所だ。そこからさらに南西の方角にしばらく進んで行ったところが俺がランドールから借り受けた場所になる。実を言えば、そこに行くためには一度赴かなければならないので、できれば一旦現地に向かいたい。



「マーク。ここからは飛ぶぞ」


「え? 飛ぶって、兄さ――うわっ」


「しっかりと捕まっていろ」



 それから、俺はマークの背中と膝裏を両手で持ち上げると、飛行魔法を使って飛び立った。所謂お姫様抱っこである。そのまま飛び続けること数分、目的の場所が見えてきたため、一旦降下する。抱えていたマークを降ろすと、その場にへたり込んでしまった。



「この程度で何をへばっているんだ」


「うぅ、そんなこと言ったって初めてだったんですからね!」



 などと目の端に涙を溜めながら抗議する姿は、年相応の少年に見え、こいつもまだまだ子供なのだなということを再認識させられる。尤も、俺の年齢は十三であるからして、かくいう俺もまた子供といっていい年頃なんだがな。



 そんなやり取りの後、俺は目的の周辺の現状を確認する。そこは人の手が加わっていないため、俺よりも背の高い草が覆い茂っており、地形自体その詳細は窺い知れない。感覚操作でモンスターの類がいないということは確認できるが、いかんせん視界が悪すぎて今のままでは何もできない状態だ。



「ほいっ、ほいっ、ほいっ」


「うわぁー、凄いです!」



 俺が手を横に振ると、あれほど覆い茂っていた草がまるで鋭い刃で切られたかのように刈られていく。その光景を感嘆の声を上げながらマークは見つめていた。風魔法を使って風の刃で刈っただけに過ぎないが、マークには新鮮なものに映ったようだ。



 だが、それと同時に俺はマークの反応に些かの違和感を覚えた。弟には、俺が家を出ていった後、魔法を習得しておけと助言しておいたのだが、まさかこいつサボっていたんじゃないだろうな?



 ある程度草を刈って周囲の地形が見え始めたところで、一旦作業を止める。そして、すたすたとマークに近寄り、その顔を訝し気にのぞき込む。一方のマークはといえば、急に俺が近づいてきたことに体を縮こまらせていたが、俺と目が合うと途端に頬を赤く染め、何を思ったのか目を瞑り顔をこちらに差し出すように傾けてきた。



「何をしている?」


「僕の唇を奪うのでしょ? どうぞ!」


「……」



 こいつは何を言っているんだ? なぜ男同士でそんな気持ちの悪いことをせねばならん。確かに、マークは貴族出身ということもあって顔立ちは人形のように整っている。だが、どれだけ整っていようとも男であることに変わりはなく、ましてや弟にそんなことをする兄など、そういった系統の漫画や小説くらいだ。



 そんなマークの言動で思い出したが、こいつは幼い頃から俺を神のように崇めている節があり、俺の言うことには絶対に逆らわない。そして、何よりもこいつは兄に欲情するローラの双子の兄でもあるのだ。ローラと同じベクトルの何かおかしな言動を取っても何ら不思議はない。



 俺はこの双子の兄弟の将来に不安を抱きつつ、マークの額を小突く。するとローラと同じく「あいたっ」というリアクションと共に俺に小突かれた場所を涙目で押さえていた。やはり双子だな。



「何で、俺が、お前の、純潔を、奪わねばならん」


「僕の身も心も、すべては兄さまのものですから」



 俺が一つ一つ語句を強調しながら言ってやると、さも当たり前のようにそんなことを返してきやがった。一体どこで教育を間違えたというのか……。俺があまりのことに絶句していると、目を潤ませながらとんでもない爆弾を投下してくる。



「それに、こういったことは兄弟では当たり前だと小説に書いてありました」


「それは子供が読んじゃいけない大人のやつだから! 兄弟でそんなことをするのは頭がおかしい奴だから!!」


「でも、僕は兄さまならどんなことされても平気で――あいたっ」


「どうやら、OHANASHIが必要と見える。そこに正座しろ!」



 それから、小一時間に渡ってマークにかけられた洗脳を解くために尽力する羽目になってしまった。ひとまずは、マークが読んだと思われるBでLな小説は普通じゃないということは理解させることができた。それを説明している最中「そんな馬鹿な!」と絶望にも似た絶叫を上げていた。



 一体どこで育て方を間違えたと頭を抱えることになってしまったが、そうこうしているうちに昼食の時間と相成ってしまったため、一度屋敷へと戻ることにしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 〉「僕の唇を奪うのでしょ? どうぞ!」 マークがローラに罹患した!!!!
[一言] 変な文化が、花開いてる( ̄□ ̄;)!!
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