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328話「真面目な兄、フシダラな妹」



 マークの知らせを受け、急遽予定を変更して俺はマルベルト領へとやってきた。ここに来るのはお茶会以来になるが、相変わらず我が故郷はのんびりとした時間が経過しているようだ。


 そんなことを思いながら、俺は事態の把握のためマルベルト家の屋敷へと向かう。屋敷も特に変わりはなく、俺がこの屋敷を追い出された時と何も変わっていない。尤も、自らそうなるように仕向けたのは俺だがな。



「ああ、兄さま!」


「マークか。何があった?」


「と、とにかく案内するからついてきて」



 そう言って、俺をどこかの部屋へと案内する弟の指示に従い、ある部屋へと辿り着く。俺の記憶が正しければ、その部屋はたしか妹ローラの部屋だったはずだ。



 部屋に入ると、神妙な顔をしている両親とベッドに横たわるローラの姿があった。それだけでなんとなくだが状況を把握する。



 どうやら、ローラが何かの病に罹り医者でもどうしようもない状態となっているといったところだろう。



「おお、ロランか」


「ロランちゃん」


「父上、母上お久しぶりです。それでマーク、この状況はどういうことだ?」


「じ、実は、僕たちにもわからないんだ。気付いた時にはローラがこんな状態になっていて……」


「そうか、ならちょっと見てみるか」



 そう呟くと、俺はローラが寝ているベッドへと近づく、その気配に気付いたのかローラが目を開ける。その姿は元気だった頃の面影はなく、やつれて今にも死にそうな雰囲気だ。



「ロランお兄さま。来てくださったのですね」


「妹が急病と聞いては来ないわけにはいかんだろ」


「来てくれて嬉しいです」



 そう言いながら儚げに笑みを浮かべるその様子は、まるで命の灯が消えようとするほんのわずかな刹那の様相を呈していた。雰囲気的にヤバさを感じた俺はすぐに超解析を使ってローラの状態を調べるとステータスの状態の一覧に衰弱(極大)と白血病(発症)という文字が表示されていた。なんと、ローラは白血病に罹っていたのだ。



 彼女の病の原因はわかったが、果たして白血病が魔法で治療できるかどうかがわからない。試しにヒールを使ってみたが、特に変化は見られない。



「ふむ、ならば……【イルネスピュリフィケーション】」



 以前マルベルト領で流行り病が蔓延した時に使った病気を治癒させる魔法を使ってみるが、多少の効果があるだけで、ローラの病状が回復することはない。大事な妹の一大事であるのは理解しているが、ここで俺は思ってしまった。“小賢しい”と……。



 今までこういった窮地は何度も潜り抜けてきたが、今回は自分の命の危機ではなく家族の危機だ。いつもの状況と少し異なる。だが、まだ打つ手がなくなったわけではないため、次の手を打つことにする。



 身近にこういった重病を患う人間がいなかったため、病の治癒に関する魔法はそれほど研究はしていない。だからこそ、今回の件についてはちょうどよかったとも言える。



「妹よ、少々辛いかもしれんがこの兄に命を預ける覚悟はあるか?」


「もちろんです。もとより、わたくしローラの身も心もロランお兄さまのもの。お兄さまの好きにしてください」



 この歳になってもまだそんな不穏なことを言っているのか。これは病気が治ったらいろいろと洗脳を解く必要があるようだな。尤も、ローラの場合誰かに洗脳されているなどというわけではないから解けるかどうかはやってみないとわからないがな。



 本人の許可もいただいたところで、日頃試していなかったことをいろいろとやらせてもらうとしますかね。おっと、妙なことはするつもりはないのでご安心を。



 まずは、イルネスピュリフィケーションの上位版となる【ハイイルネスピュリフィケーション】を使用する。だが、多少効いているものの完治には至らない。



 その他にも【ハイヒール】、【エクスヒール】、【パーフェクトヒール】など回復魔法のオンパレードを掛けるが衰弱(極大)が衰弱(小)になった程度でこれも効果は見られない。エクスヒール辺りから両親の顔が引き攣っているようだったが、妹の命が掛かっているため、ここは自重なしの全力でいく。



「浄化せよ。【レイプラズマイト】」


「うぅ」



 もはや病気の治療目的という固定概念ではなく、不浄なるものを浄化させるという行為に頭を切り替え、通常であればアンデッドなどに使う魔法をそのまま病気治療のための魔法として応用する。ローラの体内にある悪くなった細胞を浄化させるイメージで使ってみたが、ここで初めてローラが苦しい表情を浮かべる。どうやら、効果が出ているらしい。



「いくぞローラ」


「は、はいっ! もっときてくださいまし!!」



 どこでそんな言葉を覚えてくるのだと小一時間ほど問い詰めたくなる衝動に駆られながらも、その思いを封殺しさらに浄化効果の高い魔法を使用していく。全力と言いつつも、俺の全魔力をぶつけたら存在そのものが消滅する可能性があるため、ある程度力をセーブしつつ魔法を使っていくことを心掛けた。



「ふん」


「あんっ、そ、そんなっ。ロランお兄さまの手がわたくしの胸を鷲掴みに……」


「……」



 さらに直接魔力を送り込もうと俺がローラの胸に手を当てたところ、突如として艶めかしい声を出し始める。俺以外の家族もどこか気まずい雰囲気を醸し出しており、はっきり言ってなにかの罰ゲームをさせられているような気分だ。



 そして、ローラよ。お前の胸は鷲掴みにできるほど育ってはいない。だから、俺がお前の胸を鷲掴みにすることはないぞよ?



「あんいやんっ、こ、これが情事というやつなのですね。これからわたくしはお兄さまに初めてを――あいたいっ」


「どうやら治療の必要はいらないようだ。このまま、病人として帰らぬ人となってもらおうか?」


「そ、それだけはご勘弁を!」


「なら、少し黙ってろ……」


「……はい」



 あまりにうるさい――音量とは別の意味で――ので、ローラの頭をぽかりと小突き、どすの利いた低い声で脅しをかけてやったら途端に大人しくなった。さすがに馬鹿でも死にたくはないようだ。



 それから、固定の魔法というよりかは浄化するイメージで魔力を送り込む方が効果があると判明し、途中からローラの体に光属性に変換した俺の魔力を直接体内に流し込む方法にシフトすることにした。



 その一方で、俺の脅しが効いた様子のローラだったが、声は出さないものの顔が発情した雌のような艶のある顔をしており、俺の治療行為に性的な興奮を感じていることは明白だったが、妹を救うためには現状これしか方法がないということで、家族たちに見守られながら妹の胸を触り続けるという羞恥プレイに耐え続けた。



 ローラの体調に気を遣いながら、なんとか白血病(潜伏)の状態にまで抑え込むことができた。だが、潜伏状態ということはいつまた発症するかわからないということであり、しばらく経過を見る必要がある。



 そのことをその場にいた家族全員に伝えると、ひとまずローラが一命を取り留めたことに安堵していた。約一名感無量といった具合にトリップしているアホがいたが、できる処置は終わっているので放っていくことにした。



「というわけで、しばらくここにいることになったからよろしく」


「「やったぁー!!」」



 こうして、なんとか一命を取り留めたローラだったが、まだ完治していないため、油断できない状態が継続するのだった。

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