34話「狩りから帰ると、またあの二人が喧嘩をしていた」
さらに森の奥へと進んでいくと、フォレストウルフの出現頻度が高く群れている数も多くなっていく。
あまりに頻繁に遭遇するため、血抜きの作業ができずそのまま魔法鞄に突っ込んでしまっているのが現状だ。
「茸や薬草もそこそこ採れてるな」
森ということもあってか、木の根元などには茸類や薬草が自生していることが多く、中には貴重なものも含まれていた。
森に中に入ってから一時間が経過した頃、フォレストウルフの討伐数が十を超えていた。
「もうこれ以上は入らないな」
ウルフの出現頻度が高くなったと言っても、精々二十分に一回の遭遇割合だったものが十分に一回程度になっただけなので、実際に討伐した数はそれほど多くはない。
しかしながら、森に入る手前の草原でもダッシュボアを討伐しているため、持っている魔法鞄にそれほど多くは入らなかったのである。
「とりあえず、今回はこれで一区切りだな」
入りきらなくなったフォレストウルフの死骸を見下ろしながらそうつぶやいた俺は、身体強化を強く発動させもと来た道を素早く戻った。
すぐに草原へと戻って来ると、人気のない適当な場所に即席の解体場を作り、魔法鞄に入れておいた未解体のモンスターたちを解体していく。
最初の頃はうろ覚えだった作業も、何十回もやっているとさすがに慣れてくる。目を瞑ってもできそうだという言葉があるが、それに近いくらい上達した気がする。
割合的にフォレストウルフの方が数が多いが、それでもすべてのモンスターを素材にするのに三時間も掛からなかった。
購入したばかりの魔法鞄を使ってもすでに物足りない感が出てきてしまっている。早く新しい魔法鞄を手に入れなければ……。
解体した素材を魔法鞄に仕舞って解体場の後片付けをしたあと、そのまま街へと帰還する。
時刻はすでに夕方の時間帯になっており、空が茜色に染まっている。
冒険者たちが依頼の報告をする時間帯と重なってしまっているが、持っている素材の鮮度を優先させるため、すぐに冒険者ギルドへと向かった。
「やっぱりこの時間は混むみたいだな」
ギルドへとやってくると、やはりというべきかギルドは混みあっていた。
受けた依頼の報告をしているようで、ほとんどの受付カウンターに列ができている。
そんな状況に辟易しながらもこの列に並ぼうとしたその時、男の大声が響き渡る。
どことなく聞き覚えのあるその声に視線を向けると、そこには見知った顔があった。
「あの坊主は解体の仕事が性に合ってるんだ! だから解体の仕事をさせるべきだ」
「いいえ、ローランドさんは冒険者が天職なんです。それに本人も冒険者として活動していくことを望んでいる以上無理強いはできません!」
そこにいたのは、解体場の責任者であるスキンヘッドのボールドとギルド職員のニコルだった。
どうやらまた俺のことで争っているらしく、その勢いは前回の比ではなかった。
お互い一歩も譲らず、何かビームのようなものがぶつかっているような幻覚が見えているのは気のせいではないだろう。
二人の傍らで困惑した表情を浮かべるミリアンの姿もあった。
「困ったわねー。今忙しい時間帯なんだけどー?」
間延びしたような声を出しながら、まるで困っていない雰囲気でミリアンが呟く。
その間も二人の喧嘩を他の冒険者が傍観し、ちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。
ある者は迷惑そうな顔をし、ある者はどちらかを応援する。その中には、どっちが勝つか賭けをしている者までいて、それを好機と見た商魂たくましい酒場の店員が冒険者に酒を勧めている姿もあった。
(うわー、これ今俺が行ったら間違いなく面倒臭くなるやつだなー)
本音を言えばこの場からすぐに去りたい気分だったが、持っている素材を売らないことには宿に帰れない。
あの二人の間に割って入りたくはなかったが、この事態を収拾しないことには依頼の報告や買い取りの手続きもできないと諦め、二人に近づいていく。
「おう坊主、帰ってきたか」
「ローランドさん、お帰りなさい」
「なんなんだこの騒ぎは?」
俺の姿を目敏く見つけた二人が、にこやかな挨拶をする。そんな姿を呆れた目で見ながら俺は二人に質問する。
まあ、質問をしたところで返ってくる答えは、予想通り俺のことで争っていたというものだ。
「おっさん、俺は解体の仕事は断ったはずだ」
「だが、お前のその腕は貴重なんだ。だから俺と一緒に解体の仕事をしよう」
「まったく話になってないじゃないですか。いい加減に諦めてください」
俺の言葉に耳を貸すことなく、ただ解体の仕事を勧めてくる。そんな態度にニコルも呆れ顔でボールドを諭す。
「こうなったら、直談判だ。坊主、こっちにこい!」
「あっ、おい! どこ連れてく気だおっさん!?」
突然俺の腕を掴むと、ボールドは俺をどこかに連れて行く。どうやら、依頼報告と買い取りは後になりそうだ。
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