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312話「商会作り」



「俺たちに仕事をくれるっていうなら頼む」


「わかった。交渉成立だな」



 食事を済ませた後、すぐに話し合いを再開する。腹も膨れ、今自分たちの置かれた状況を冷静に分析した結果、俺の言っていることが本当であれば願ってもないことだという結論を出したらしい。



 仮に嘘だったとしても、今の生活を続けるよりかはマシだというのもまた事実であり、どちらにせよ今のろくでもない生活から抜け出せるのなら何でもいいといった具合だ。



「俺はローランドという。お前は」


「俺はジャックだ。この中で俺が一番年上だからリーダーみたいなものをやってる」


「そうか。まあ、とりあえず、まだ商会が完成してないから明日の朝に迎えに来る。じゃあ、今日はこれで」



 そう言って、ジャックたちと別れた俺は彼らの姿が見えなくなったところで瞬間移動で商会の敷地に移動する。次の目的は、商会の建物と従業員たちの住居の建設である。



 建物自体はすべて魔法で何とかなるだろうが、いろいろとやることが多い。ひとまず手を付けられるところから付けていくことにし、敷地の周囲を結界で覆ってから作業を始めることにした。



 ちなみに、周囲を結界で覆ったのは、周囲の人間に魔法で建設しているのを悟らせないためだ。できるだけ大事にはしたくないという理由からだが、トールやトーネルなど事情を知っている者からすると、短い時間で建物が出現したことに驚くのは想像に難くない。



「まずは商会からだな」



 基本的に街の建築物は石製のレンガのような建材を使って建設されており、耐久性としては木造よりも高いが、かといって特別高いものでもない。だが、今回使用する魔法で作った建物は通常の建材よりも耐久性が高いため、少なくとも百年以上は同じ形を保ち続ける。



 敷地の約四割ほどのスペースを使い、俺は魔法で商会となる建物を建設する。建設様式は二階建ての建物にしておき、売り場を平民向けと貴族などの富裕層向けに分けておく。入り口自体も二つに分けておくことで、平民と貴族が出くわすなどというトラブルも避けられるよう考慮する。



 この世界では貴族などの選民主義にまみれた人間が存在しているため、そういった人たちとそうでない人たちを分ける必要性が出てきてしまう。そういった人たちの相手をしなければいいだけの話だが、大抵の富裕層はそういった王侯貴族であり、ある一定の稼ぎを出そうとするならば貴族を顧客とすることは避けては通れない。



 かくいう、グレッグ商会やコンメル商会でも貴族相手の商売を行っており、平民と貴族の稼ぎでどちらが商会に貢献しているのかと問われれば、半々だったりする。



 店の稼ぎにおいて五十パーセントを占めている貴族を無視することはできないため、商会は平民と貴族とを分けて考えることもしばしばあるのだ。



 商会の外装はクリーンなイメージを持たせるべく、白を基調としたぱっと見神殿のような雰囲気を醸し出しており、信心深い人間であれば本当に神殿と間違えて入ってきそうなほどだ。



 内装については、買い物をする客と会計を済ませようとする客が混同しないよう、入り口から入って最終的な到達点を会計する場所にすることで、できるだけ混雑を避けようという造りにした。



 目玉商品となる木工人形やぬいぐるみなどは、店の中でも目立つ位置に配置できるようにし、その他の商品についてもわかりやすく手に取りやすいように配慮する。



 そして、会計手前には手頃な値段で手に入る商品を設置し、思わず手に取ってそのまま会計してしまうような置き方になるように各棚を作製していく。すべて前世の頃にスーパーなどで見たことのある光景を再現しただけだが、それは確かなノウハウであり、この異世界でも十分に通用する技術であると考えている。



「あとは、細かい家具なんかは後で買い揃えるとしてだ。大体こんな感じでいいだろう」



 ひとまず、商会の外装及び内装と設置する棚や会計する場所などの大まかなものが決定し、後は必要に応じた家具や設備を追加で購入すれば問題なく営業が可能となる状態になった。



 次に俺が作る予定の建築物は、商会と隣接するように建設する従業員たちの住居だ。これについては商会との違いを出すために木造によるアパートのような建物を作ろうかとも思ったが、食堂も作ろうと考えており、火の不始末による火事が怖かったため、結局商会と同じく石製の建物にすることにした。ただし、商会と違い色はよく使われている土色の石材であり、これといって特別なものではない。



 住居を建築するにあたって、少し悩んだことがある。それは商会の従業員となる女性たちと裏方での商品作製をやってもらう孤児たちを同じ場所に住まわせるかどうかということだ。



 子供と大人とはいえ、他人同士が一つ屋根の下で暮らすのに抵抗がまったくないわけではなく、なにかと大変になりそうだったので、人材派遣商会の女性たちはアパート風の住居に住んでもらい、孤児たちは少し離れた場所に孤児院風の建物を新たに作ることで別々の居住で住んでもらうことにした。



 こうしておけば、新しく人材を迎え入れた時もわかりやすいだろうし、孤児たちが成人すれば新しく住居を作ってそこに移住するという選択肢も取ることができるだろう。



「とりあえずは、アパートと孤児院だけ作っておいて、時間が経った時に商会が新たに建てるか俺が作ればいい」



 そう呟きつつ、俺は従業員が住む予定の住居と孤児たちが住む孤児院を作っておく。さらに自給自足ができるようにアパートと孤児院の間に畑を耕すスペースを作っておき、そこで孤児たちや女性たちに自分たちの食糧を育てさせる選択肢も作っておいた。



 先ほどまで更地だった敷地内に、僅か一時間という短時間で三つの建物が建設された。さらに驚愕なのは、その建物らが魔法一つで簡単に出来上がってしまったということだろう。



 通常であれば、職人が一月や二月、場合によってはそれ以上の月日を掛けて作り上げるそれらを、たった一時間で作ってしまった。職人がそれを聞けば商売あがったりもいいところである。



 何はともあれ、今後必要となる施設の建設を完了させた俺は、外から人が侵入してこないよう結界を調節し、その日は宿に戻って出直すことにした。

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