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308話「やってきました商業ギルド」



「さて、これも久々だがやっとくか。……【貴族モード】発動!」



 ある建物の前へとやってきた俺は、ここで久しぶりに【貴族モード】を発動させる。背筋をピンと伸ばし、まるでモデルが花道を歩くが如くのスラっとした姿勢で仰々しく歩く。まさにそれは貴族然としており、誰が見てもいいとこのお坊ちゃんにしか見えない。



 そんな状態でやってきたのは、首都カフリワにある商業ギルドで、その目的は新たな商会の立ち上げである。



 シェルズ王国には、規模としては国一番と二番となる王都ティタンザニアと迷宮都市オラルガンドという主要都市にそれぞれコンメル商会とグレッグ商会を立ち上げ、ブレスレットやシュシュなどといった装飾品からぬいぐるみや木工人形という嗜好品などを中心にその勢力を確実に伸ばしてきており、最近クッキー販売という飲食業にも手を出したことで、シェルズ王国におけるこの二つの商会の名を同業者が知らないことはほとんどなくなっている。



 そこで新たな足掛かりとして、ブロコリー共和国にも拠点となる商会を立ち上げることで、シェルズ王国との行き来をしやすくする目論見なのだ。



 そのためには、この国の商業ギルドの代表と顔合わせを兼ねた取引を行わなければならないため、失礼のないようこうして本気の貴族モードを発動したということだ。



「お、おい。あれって……」


「ああ」



 ギルド内に入ると、さっそく俺の雰囲気に充てられた商人たちがこちらを窺う様子が見受けられる。見た目はまだ成人前だということはわかるものの、纏っている雰囲気がそうではないことを如実に物語っているというのが客観的に見た今の俺だ。



 そして、その雰囲気は同時にそのもの自身の余裕と貴族としての立場の高さを彷彿とさせ、それだけで商人たちはこう結論付けてしまう。“金のなる木がやってきた”と。



 だが、それは同時に手を出したが最後、何か問題があれば厳罰に処せられる可能性を含めた諸刃の剣であるということを意味しており、それがわかっているからこそ、商人たちは俺に声を掛けてこず様子を窺っているのだ。



「い、いらっしゃいませ。本日はどういったご用件でしょうか?」


「ギルドマスターに会いたい。取次ぎを頼む」


「しょ、少々お待ちください」



 そう言うと、受付嬢は慌てた様子で奥の部屋へと下がって行った。おいおい、商業ギルドのギルドカードの提示はいいんかい。マニュアルすっ飛ばしてんぞ?



 などと心の中で思いつつも、他の職員の案内で応接室へと通され、そこで待つこと数分後に四十代くらいの白髪頭の中年男性がやってきた。



 俺の姿を見た瞬間、すぐにキリリとした表情で右手を胸に当て恭しく一礼をしながら挨拶を始めた。



「お初にお目にかかります。私はトール・ネコールと申します。当ギルドのギルドマスターを務めております。以後お見知りおきくださいませ」


「だぁー、もういいや! 面倒くさい!!」


「え?」



 応接室にトールが現れた時点でもう貴族モードは必要ないと判断し、俺はいつもの平常モードへと戻る。やはりこのモードはとても面倒だ。



 いきなり貴族然としていた人間が普通の少年のようになったことで、呆気に取られているトールを余所に、俺は商業ギルドに来た用件を伝える。



「驚いているところ悪いが、俺がここに来た目的は二つだ」


「え、二つ?」


「一つは、あんたのギルドマスターのコネクションを使って、信用できる行商人を紹介してもらうこと。条件は二十代後半から三十代前半の行商人としてそこそこ歴のある人物だ。二つ目は、新しく商会を立ち上げたいからその手続きをしたい。商会の代表者は、一つ目に紹介してもらった行商人をと考えている」



 俺はトールに用件を伝えると、目を見開き驚愕の表情を浮かべる。見た目成人前の少年にしか見えない俺が、商会を立ち上げることに驚いているのかと考えていたのだが、実際は違っていた。



「失礼ですが、ローランド様でお間違いないですね?」


「俺を知っているのか?」


「それはもちろん存じております。人類で四人目のSSランク冒険者にして、ミスリル一等勲章所持者であり、シェルズ王国において破竹の勢いで急成長を遂げているコンメル商会、並びにグレッグ商会の出資者である大人物を知らない者など商業ギルドにはおりません」


「なら商会立ち上げと代表者の件は?」


「私にお任せくださいませ。ちょうど適任者がおります」



 まさか、トールが俺のことを知っていたとは、間にセコンド王国を挟んでいるとはいえ、人の噂というものはここまで広がるということなのだろうか。



 尤も、トールの口にした人物を聞いて、俺自身「誰だその偉業を達成した英雄は?」と思ってしまったが、よくよく考えれば俺だということに気付き、改めて俺がやってきたことがとんでもないことだということを思い知らされた。



 さらに非公式だが、国家間の戦争を誰一人の死傷者を出すことなく止め、国一つを結界で覆い、中にいる特定の人物たちを閉じ込め、さらにはスタンピードも何度か未然に防いでいる。……やりたい放題ですな。



 小さな男爵領の次期当主の座から逃げてきた俺としては、どうしてこうなったと言わざるを得ない。それ以上の面倒事を起こしているではないかと、今までの俺の行動を見てきた第三者がいた場合、そう突っ込まれること請け合いだ。



「商会の場所については、心当たりがいくつかございますので、後で実際に見ていただいて決めましょう。それから、商会の代表となる人物ですが……。正直申し上げれば、私の身内なのです」


「身内?」



 トールの言葉にそう疑問符を頭に浮かべる。身内ということは家族か何かだろうかと考えていると、トールがすぐに説明をしてくれた。



「はい、私の従弟にあたる人物で、名をトーネル・ネコールといいます。年齢は三十三歳で、しがない行商人をやっております」


「人柄は?」


「人当たりはいい方だとは思いますが、少し詰めが甘い部分がありまして、なかなか大きな仕事にありつけないでいます。親戚としては贔屓にしてやりたいという気持ちはありますが、ギルドマスターの立場上特定の商人を個人的に目をかける訳にもいかず……」


「なるほど。大体把握した。ひとまず、その男に会わせてくれ」



 こうして、商業ギルドのギルドマスターの親戚である行商人に会うことになった。

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