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301話「突然の奇襲」



 それは、突如として襲ってきた。ブロコリー共和国の首都カフリワで宿を取り、大事を取って就寝してからしばらく経った頃、不穏な気配を感じ目が覚めた。



 仰向けに寝ていた俺は、その気配の出どころを探ろうとするも、気配がするもどこにいるのかは感じ取れず困惑していた。



(大した奴だ。尻尾を掴ませない完璧な絶だ)



 前世の漫画にあった、人生で一度は言ってみたい台詞ランキングベストテンのうちの一つを言おうとしたが、言葉を発することができないことに気付いた。それどころか、体すらまともに動かせず、所謂金縛りの状態になっており、動くのは目だけといった状況だった。



「ふう~、ようやく術にかかりましたか~」


(誰だ? いや、この口調は今日聞いたあいつのものだ)



 話し方に特徴があったため、声の正体があのハーフエルフであることに気が付く。しかし、依然として思うように体が動かせず、抵抗を試みてはいるものの彼女の拘束から逃れられないでいる。



 すると、俺の目の前に浮遊した姿で現れたのは、やはり冒険者ギルドで出会ったあの不敵な笑みを浮かべたハーフエルフだった。ギルドで会った時とは異なり、表面積の少ない服を身に纏っており、ハーフエルフというよりかは男の精気を吸い取るサキュバスなのではないかと思わせるほどだ。



「ふふふ、さぁ~て。久しぶりの上物をいただきますか~」


(なんだ? まさか、本当にサキュバスだってのか?)



 今までこちらを見下したような笑みを浮かべていた彼女の表情が変化し、それはまるで獲物を追い求める野獣のような笑みだった。だが、彼女の妖艶な姿と相まってとてつもないほどの色香を醸し出しており、一瞬彼女の瞳に吸い込まれそうになる錯覚を覚える。



 胸元の開いた服からは、今にもこぼれ落ちそうなほどの大きな膨らみがちらりと見え隠れしており、それは今まで出会った宿の女将たちにも引けを取らないほどだ。



 そんな彼女の顔が徐々に俺の顔に近づいていき、彼女が目を瞑り口をタコの口ように突き出してくる。あと少しで唇と唇が触れそうになるところで、あわや純潔を奪われる危機かと思った瞬間、突如彼女が何者かに吹き飛ばされた。



「きゃあ」


「なぁーに晒しとんじゃボケぇー! あ・た・し・のローランドきゅんの唇を奪おうとするとは言語道断! 万死に値する!!」


「……」



 そこに現れたのは、某特撮ヒーロー張りの蹴りの構えを取っているナガルティーニャだった。仮面なライダーよろしく名付けるなら、差し詰め【ナガルティーニャキック】と言ったところだろうか。



 などとなんのとりとめもない言葉を頭の中で浮かべていると、ナガルティーニャの攻撃によって俺の拘束が解かれたらしく、自由に動けるようになった。



「ローランドきゅん無事だったかい? 君のファーストキスの相手は、あたし――ぐぇ」


「ふむ、どうやら“コレ”は本物のようだな」


「ロ、ローランドきゅん。久しぶりの再会だからといって、女の子にいきなりアイアンクローをかますのは無粋というものではないかね?」


「あぁん? 聞こえんなぁー」


「や、やめてぇー! あたしの顔を握りつぶさないでぇー!!」



 サキュバスハーフエルフの拘束から解放された俺がまずとった行動は、ここに現れたナガルティーニャが本物であるかどうかの確認だった。



 未知の敵であるハーフエルフの彼女もまた脅威ではあるものの、今この場で確実な脅威はナガルティーニャだ。であるからして、突如として現れたナガルティーニャが本物であるかどうかによって、俺が取る行動が変わってくることは必定であり、一番に優先すべき確認事項なのだ。



 現在、俺の師匠でもあるナガルティーニャと敵対関係にはないが、仮に敵対関係となった場合、今の俺では彼女から逃げることはできても勝利することは不可能に等しい。



 今もこうして、俺のアイアンクローに痛みで不細工な顔となっているが、奴が本気を出せば俺を瞬殺できるくらいの実力があるのは確実で、未だにその底は見せてもらっていない。



 改めて、ナガルティーニャが本物だと確認した俺は、アイアンクローを止め彼女を解放してやる。すると、顔を押さえながらその場にへたり込み、弱々しく抗議の声が上がってきた。



「ひ、酷いじゃないかローランドきゅん。あたしの顔を何だと思ってるんだい?」


「ん? 掴みやすいちょうどいい大きさの顔」


「そもそも、掴むという発想が出てくること自体がおかしいんだけど……」


「な、何者ですかあなた? いきなり現れて」



 俺がナガルティーニャといつもの漫才に興じていると、復活してきたハーフエルフの彼女がナガルティーニャに問い掛ける。てか、俺この子の名前知らないんだが。



 いつも間延びしたような口調の彼女も、今回ばかりは焦った様子なのか、普通の口調で喋っている。というよりも、これが素の口調なのかもしれない。



 一方のナガルティーニャといえば、俺とのやり取りで見せていた柔らかい態度は鳴りを潜め、敵意の籠った視線を向けながら返答する。



「そういうお前こそ何者だ? あたしのローランドきゅんを手籠めにしようなんていい度胸をしているね」


「誰がいつお前のものになったんだ?」


「ローランドきゅん、今そこは突っ込んじゃいけないところだよ?」


「ここで突っ込んでおかないと、突っ込まなかったイコールそれを認めたって誇大解釈して図に乗るだろうが」


「……ちぃ」


「やはりな。油断も隙もない」



 奴とはそれなりに付き合いが長くなってきた弊害か、なんとなく奴の思考回路が読めるようになっていた。俺としては甚だ不本意な能力を得てしまったが、そのお陰で奴の言動の先読みができるので、この能力もまったくの役立たずという訳でもない。



 ナガルティーニャとは、あのお茶会の一件以来どこかよそよそしい態度を取られていたが、どうやら元の状態に戻れたようで、俺としてもどこかホッとする部分があったりする。



 だが、元に戻ったら戻ったでいろいろと鬱陶しい部分が出てきてしまっているところ鑑みれば、どちらがいいのかわからなくなってくる。まさに、あちらが立たねばこちらが立たずといったところである。



 完全にシリアスを決め込もうとするハーフエルフの彼女だが、俺とナガルティーニャが漫才を止めないせいで、どうにもコメディ感が抜けない雰囲気が漂っている。



 彼女としては、真面目に聞いているにも関わらず、まるでそこにいないかのようにぞんざいな扱いを受けていることが不服だったようで、とうとう怒り出してしまった。



「いい加減にしてちょうだい! 何なのよあなたたち!!」


「冒険者だが?」


「ただの魔法使いだが?」


「嘘つけぇー」


「「そもそも、お前の方こそ何者だ?」」



 などといった具合に押問答が繰り返され、真面目に質問してもまともに答えてくれないことに、とうとう泣き出してしまった。



 少しからかいが過ぎてしまったと反省しつつ、俺はすべての責任をナガルティーニャに押し付けた。



「お前が止めないからだぞ?」


「ローランドきゅんだって乗ってきてたじゃないか」


「ふえぇーん」



 そこからさらに三十分掛けて彼女を宥めすかし、俺たちはようやく彼女の話を詳しく聞くことにしたのであった。

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