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293話「もう一つのアレ」



「な、なな、なんですかこれわぁぁぁぁああああああ!!」



 ルリアンに案内された応接室で、俺は身分の証であるギルドカードを提示する。そこに刻まれたSSランクの肩書を見て、彼女が絶叫に近い大音声を上げる。



 当然、こうなることを予想して室内の音が漏れないよう内側から結界を張っているため、彼女の無駄にデカい声を他の人間が聞きつけることはない。



 そのまま、呆然と立ち尽くすルリアンが復活するのに十数分の時が掛かり、その間俺はストレージから木材を取り出し、木工人形の加工を行う。今回はマンティコアに挑戦しよう。



「ろ、ろろろ、ローランド君? あなたってSSランク冒険者だったの?」


「そうだが」


「……」



 俺がそう肯定してやると、再び沈黙する。……胴体の枠組みはこれくらいにして、後は四肢のディティールを掘り出していこう。ヘッドパーツも鬣の部分はこだわるべきだし、なかなか掘りごたえがあるな。



「あの、ローランド君。何をやっているのかしら?」


「お前が落ち着きを取り戻すまでの暇つぶし。そんなことよりも、ギルドマスターに報告した方がいいんじゃないか? 俺は言ったよな。ギルドマスターに会わせろと」


「わ、わかりました! ただいま呼んでまいります!!」



 そう言い残すと、ルリアンはすぐさま部屋を後にする。それから、数分と経たずして部屋のドアがノックされ、ルリアンと共に初老の男性が姿を現す。



 精悍な顔つきは、かつて現役の冒険者として名を馳せたことが窺えるほどに覇気に溢れ、鍛え抜かれた肉体は彼がまだ現役の戦士であることを物語っている。



「お初にお目にかかる。私はこの街の冒険者ギルドのギルドマスター、アイゼンといいます。以後お見知りおきを」


「ローランドだ。よろしく」



 そう短く自己紹介を終えると、さっそくアイゼンが要件を窺ってくる。そりゃあ、いきなり現時点での最高ランクであるSSランクの冒険者が訪ねてくれば何事かと思うのが普通だが、正直なところ特に用はない。



 強いて言えば、このセコンド王国にSSランク冒険者がやってきたことを国内の冒険者ギルドに通達しておくことが目的だ。



 兵士の時と同じく幻術を使って自身のランクを偽ることもできそうだが、そういった偽造の類に対する対策はあるだろうし、それなら事前に告知しておいた方がいいということで、俺の身分を公表することにしたのである。



 冒険者ギルドについては、国とは別に独自の情報網を持っており、冒険者ギルド間でその情報が共有されることも珍しくはない。故に、新たにSSランク冒険者が誕生したことも当然共有されており、それはギルドの間では周知の事実であった。



 もちろん、冒険者ギルド以外の組織でもSSランク冒険者の情報は行きかってはいたが、どういった人物かなどの詳しい情報は未だわかっていないという場合も少なくはなかった。



 その中でも、各国の王家についても他の組織と同様詳しい話はそれほど伝わっておらず、ましてや結界で他国との外交を封じられたセコンド王国に至っては、新たにSSランク冒険者が誕生した情報を得ているかすら怪しいところだ。



 そんなわけで、いずれはバレるのであれば下手に隠さずに身分を明かしておいた方がいいという判断から、敢えてこちらから出向いたという訳だ。



「というわけで、特にこのギルドに用はない。俺がこの国に入ったという事実だけを知らせたかっただけだ」


「左様でございますか。ところで、現在このセコンド王国の現状は理解しておりますかな? どうやってあの結界を抜けてきたのですか?」


「あの結界が作用する条件は、俺には当てはまらない。だから、やってこれた。それだけの話だ」


「そうですか」



 特にこれといって話すこともないため、今回は顔合わせという形で終わった。最後におすすめの宿をルリアンから聞いた俺は、さっそくその宿へと向かうことにした。そう、もう一つのアレを確認するために。



「いらっしゃい、ようこそ【和やかな風見鶏亭】へ」



 ルリアンに紹介されてやって来た宿は、【和やかな風見鶏亭】という名の宿だった。その名の通り、和やかな雰囲気を持った内装と受付にいる女将が暖かく出迎えてくれる宿だ。



 その女将というのは、言わずもがな例のアレの一人であることは明白であるが、念のために自己紹介をする。



「俺はローランド。冒険者をやっている」


「いらっしゃい、わたしはセサーナ。この宿の女将をやっているわ」


「なるほど。ちなみに娘の名前はセーナか?」


「よくわかったわね」



 やはりというべきかなんというべきか、ここの女将はセサーナで娘の名はセーナといういつものパターンだったようだ。



 改めて、セサーナの姿を見るとその妖艶さが伝わってくる。成熟した果実ほどその甘味は極上なものというのが相場であるが、まさに彼女はこの上ない程に熟成されていた。



 目鼻立ちの整った端正な顔と、男好きするむっちりとした体つき、そして何よりも今まで出会った女性の中でもダントツに自己を主張する二つの果実は、男であればその視線を釘付けにするのは自然の摂理といっても過言ではない。



「一晩世話になりたい。食事付きでいくらだ?」


「なら小銀貨三枚ね」


「ん」



 ひとまずは今日の宿を確保するべく、一泊だけ部屋を取ることにする。提示された金額を支払い鍵を受け取ると、俺は二階にある部屋へと移動する。



 階段を上り、左手に伸びている廊下を進んでいると、部屋のある一室から声が漏れ聞こえてくる。その声は、昼間には相応しくない男女の声であり、まさに秘め事の真っ最中であった。



「もっと、もっと~」


「こうか、こうか! ここがええのんか!!」


「……やれやれ」



 昼間からお盛んな二人の男女に呆れながらも、俺は一番奥の部屋に向かい、受け取った鍵を使って部屋に入った。



 部屋の内装は特に変わった様子もなく、一人用の丸テーブルと椅子、備え付けのベッドが一つという実にシンプルな作りをしている。とりあえず、今後の予定をどうするか考えるべく、ベッドに腰を下ろして考えに耽る。



 目先の目標として、セコンド王国にやってきた目的は主に観光であるため、都市の様子を見て回ったりするのがメインとなる。



「となってくれば、まずは市場とかに行ってみようか」



 この街のアレも確認できたということで、俺は再び街へと繰り出す準備を始めた。

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