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287話「ダークエルフの誘惑」



 セイバーダレス公国の大公アリーシアに依頼達成の報告を行ってから数週間が経過する。ようやく、シェルズ王国王都ティタンザニアにSSランク冒険者たちが集結したとの一報が寄せられた。



 元々、ウルルの帰省やセイバーダレス公国のスタンピード調査に関しては、このSSランク冒険者が王都に集結するまで一月の期間が掛かるということであったため、その期間を利用して暇つぶしのついでにやってしまおうということで急遽入った予定だった。



 しかしながら、今思えば道中は飛行魔法&転移魔法によるショートカットが使えるため、実質的に調査するための期間の方が長かったりする


 俺としては、彼ら彼女らとの繋がりはなく別に会いたくもない相手だが、冒険者ギルドの決まりとしてSSランクになった冒険者は、例外なく他のSSランク冒険者と顔合わせしているため、俺だけ例外にするわけにはいかないのだろう。



 テンプレが起こらないことを祈りつつ、冒険者ギルドへと向かうと、さっそくシコルルが話し掛けてきた。



「ローランド様、いらっしゃいませ。お待ちしておりました」


「……随分と他人行儀だな。というか、そんな喋り方ができたんだな」


「それはちょっと酷いんじゃないですかぁー!?」


「あ、元に戻った」



 どうやら、SSランク冒険者を出迎えるということで無理をしていたらしい。……シコルルよ、人間無理をすると碌なことにはならないのだぞ?



 などと、心の中でそんなことを思いつつ、復活したシコルルの話を聞いていると、冒険者たちのひそひそ声が聞こえてきた。



「おい、あれが噂のSSランク冒険者か? ただのガキじゃねぇか」


「そう見えるが、実力は確かだ。なんてったって、あの伝説のSランク冒険者パーティー【レジェンズ】のメンバーたちを育てたっていう実績があんだからよ」


「それって本当なのか? にわかには信じられねぇんだが」


「なら、喧嘩売って来いよ。そうすりゃあ実力がわかんだろ?」


「馬鹿言え! 二つ名持ちに喧嘩なんか売れっか。ましてやSSランクの冒険者だぞ?」



 などと、冒険者たちの間でひそひそとささやかれているが、元々声のデカい粗野な連中ばかりが集まっている集団なため、嫌でも声が聞こえてくる。そんな中、聞きたくない嫌なものも含まれている。



「あの子がSSランクかい? なかなか可愛いじゃないか」


「あ~んっ、食べちゃいたい」


「何よ、あたしが目を付けてたんだからね」


「そもそも、あたしたちなんかを相手にするわけないでしょうよ。あの【レジェンズ】の師匠よ」



 一部の女性冒険者から艶めかしい視線を向けられているが、残念ながら彼女たちの言う通り知らない相手にそういった感情を抱くことはないため、それらをガン無視する。それよりも、彼ら彼女らの話の中に度々出てくる【レジェンズ】という単語が気になっていた。



 そのことについてシコルルに聞いてみたところ、驚いた様子で「知らなかったんですか?」と言われてしまった。どうやら、冒険者の間では有名な話のようだが、この数週間碌な冒険者活動をしていなかったため、そういった情報に疎いのだ。



 シコルルの説明では、破竹の勢いでオラルガンドのダンジョンを攻略していく俺の使用人たちを、まるでかつて史上最高到達階層である八十六階層まで踏破したといわれている伝説となった冒険者パーティーにちなんでいつしかこう呼ばれるようになった。【レジェンド】と。



 日々階層数を伸ばす【レジェンド】の活躍は、いつしかオラルガンドのみならず王都や他の都市にも響き渡り、今ではシェルズ王国全土にその名前が轟くほどにまでになってしまったのだ。



「と、とにかくですね。ギルドマスターのところへ案内します!」



 俺の的確な指摘から逃れるように、シコルルがギルドマスターのところへ誘う。部屋に入ると、そこには相変わらずの妖艶な姿をした一人のダークエルフが待ち構えていた。



「あら~、待ってたわよんローランドくん」


「お前も相変わらずだな」


「あらあら~、それって新手のデートのお誘いかしら~?」



 俺も一つ歳を取ったことで、女に対する興味や好奇心が芽生えているため、ララミールの誘惑は正直言って魅力的なものではある。だが、そんな彼女に関して躊躇われることがある。



 それは、ララミールのスキル構成を覗き見た際、スキルの一覧に【絶倫】、【性豪】、【痴女】、【淫魔】という大人な夜関連のスキルが勢揃いしていたのである。



 つまり、ララミール……彼女は見た目通り性的な事柄については、それこそサキュバス並にヤバいということだ。そんな相手に一度でも体を許してしまったら、ガウルのように骨の髄までしゃぶられて、ミイラのように干乾びるまでいろいろなものを搾り取られてしまうことだろう。まさに、精も根も尽き果てるというやつだ。



「……そんなことより、早く案内をしてもらえないか?」


「うふふ、そんなこと言っちゃってぇ~。どこ見てるのかなぁ~?」



 俺が自分の理性を保ちつつそんな風に切り返すと、挑発的な笑みを浮かべながら煽るような言動をララミールが宣う。……くそう、バレていたか。



 確かに、俺が彼女の胸元を注視していたのは事実だ。だが、それは仕方のないこととも言える。考えてもみてほしい、目の前に体の線がモロに出るような……というよりも、大事な部分以外隠れていないような表面積の少ない服装を身に纏い、しかも敢えてそういった目的のためにそのような格好をしている女性に対し、そういった目で見るなという方が不自然であり、今の彼女をそういった目で見ない者がいるとすれば、同性である女性か男性にしか興味のない同性愛者のみである。



 そういった意味では、俺は極めてノーマルな人間であるという証拠になり、今のララミールをそういう目で見れているということは、自分が至って普通の性癖を持ち合わせているということを証明してくれているのだ。



 しかし、それはあくまでも俺サイドの意見であり、ララミールサイドからすれば、重要なのはそこではない。今までまったく自分に興味を示さなかった男が、時間の経過によって少なくとも女性に興味を持っているということがわかっただけでも彼女にとっては十分な収穫と言える。



「ねぇローランドくん~。別にローランドくんなら、ちょっと触ってもいいのよ~?」


「はあ?」



 そう言いながら、体をくねらせて徐々にその距離を詰めようとしてくるララミールに俺は呆れた視線を向ける。いくらそういうことに興味があるといってもTPOが重要であり、先ほどはそういう目で見てしまったが、今はそうではない。



「遠慮しておこう」


「そんなこと言わずに、わたしと一緒に気持ちいいことしましょ~」



 他の者がやれば確実に気持ちの悪い仕草であるのにも関わらず、彼女がやると様になっている。それが何とも腹立たしい。



 俺とララミールとの距離が、三メートル、二メートルと縮まるにつれて、彼女の呼吸が徐々に荒々しものに変化していく。そして、頬を上気させ発情した雌の顔に変化したと思ったら、突如として突撃してきた。



「あぁ、もう我慢できない! ローランドく~ん!!」


「へぶっ」



 至近距離まで接近され、ララミールの両手が頭の後ろに伸びて来たと思った刹那、そのまま頭を胸の谷間へと誘われる。



 彼女の興奮した呼吸と、甘い香りが鼻腔を擽り、その匂いと柔らかな感触が伝わってきて、まるでサキュバスに誘惑されているかの如き色香が襲ってくる。



「んー、んー」


「あらあら、暴れなくてもいいのよ~。全部わたしに身を任せて、すべて受け入れなさい」


「お前は何を言っているんだ?」


「え?」



 ララミールが視線を声のした方に向けると、そこには呆れた顔を張り付けながらジト目で睨みつける俺の姿があった。そう、今彼女の胸に抱かれているのは俺ではない。



 自分が抱きかかえている相手が、俺であることを疑わなかったララミールは、それの姿を見てきょとんとした顔をする。そして、次の瞬間ある疑問が浮かんだ。“自分が抱いている相手がローランドでなければ、自分は一体誰を抱いているのか?”ということだ。



「ギ、ギルドマスター。は、放してください……」


「シ、シシコル」



 ララミールが抱いていた相手が誰なのか、それはここまで俺を案内してくれたシシコルであった。

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