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275話「提案と模擬戦」



「「里帰り?」」


「そうだ」



 俺はウルルとガルルの兄妹にある提案をする。それは、ウルルを一度家族の下へと帰らせるというものだ。



 ガルルがここへやってきたのは、無理矢理連れ去られたウルルを取り返すためであって、今は状況が少し変わってしまっている。自らの意志でこの場に留まりたいというウルルの思いがあり、それは決して誰かに強制や強要されているものではない。



 しかし、親元や家族に何も告げずに故郷を離れている以上、安否確認をしておくことは必要なことである。尤も、故郷を追い出されるよう自らの意志で仕向けた俺が言うのもなんだがな。



 とにかく、家族に自分の無事を伝えるということは大切なことである。そのため、一度故郷に戻って家族に自分の無事を伝え、改めて自分の意志で故郷を旅立てばいいというのが、俺の提案だ。



「そうすれば、ガルルのウルルを取り戻すという目的も達成できるし、そのあとでウルルがここに戻ってくればいい。彼女の無事が確認できれば、そのあと自分で故郷を出ていくのはウルルの勝手だろ?」


「そ、それはそうだが」


「なら決まりだ。というわけで、ウルルしばらく暇を出すから、一度故郷に戻って家族に会って来い」


「ご主人様がそう言うなら」



 こうして、俺の提案によってひとまずは一連の騒動は幕を閉じたかに見えたのだが、ここでウルルが我が儘を言い出した。



「ご主人様。ご主人様も付いてきてくれませんか?」


「俺もか?」


「な、何を言い出すんだウルル! そんなちびっこい子供がウルグ大樹海の長旅に耐えられる訳がない。一体何日掛かると思っているん――がぐあっ」



 ウルルの言葉に強い口調で反論するガルルだったが、ここで再び殺気を纏った彼女がガルルの懐に潜り込んだ。そのあまりのスピードに反応が遅れたガルルに構うことなく、ウルルの拳が彼の鳩尾にめり込む。



 圧倒的な膂力から繰り出された拳の衝撃がガルルの体を通り抜けると同時に、彼の体が宙へと投げ出される。その勢いはとどまることを知らず、そのまま壁へと叩きつけられた。

 幸いというかなんというか、ウルル本人が手加減をしたのかは不明だが、木造の壁をぶち抜くという惨事は避けられ、ガルルが壁にぶつかることで吹き飛ばされた勢いもなくなった。



「う、うぅ。な、なにをするんだ妹よ!?」


「ウルルは言った。ご主人様を馬鹿にするのは許さない」


「はぁ? こいつが子供であることは事実だろう」


「なら、戦ってみればいい。ガルル兄なら小指だけで殺される」



 などという会話が繰り広げられているが、俺はウルルの兄と戦うつもりもましてや殺すつもりも毛頭ない。ウルルの勝手な独断で決められても困るのだが、ガルルとしても俺が自分よりも強者であるということが信じられないということと、獣人特有のものなのか強い者と戦いたいというどこぞの戦闘民族のような感性を発揮し、結果ガルルと模擬戦をすることになってしまった。



「見せてもらおうか、お前の実力とやらを」


「お前はどこぞの少佐か!」


「……お前は一体何を言っているんだ?」



 そんなこんなで、あれよあれよという間に俺とガルルが戦う話が進んでしまい、気付けば冒険者ギルドの修練場にやってきていた。サコルに事情を放すと、いつもの連絡網経由でイザベラがやってきて自ら審判を買って出てきた。……奴め、絶対に楽しんでやがる。



 迷宮都市オラルガンドでも珍しいSSランク冒険者の模擬戦ということで、その場にいた冒険者どころか、通りを行き交う通行人ですらギャラリーとして加わっている始末だ。



「いいかい、勝負内容は一本勝負。先に負けを認めるか戦闘不能になった方が負けだよ。それでは、試合……開始!」



 多くの人間が固唾を飲んで見守る中、イザベラの合図によって模擬戦が始まってしまった。だが、戦況が一気に動く出来事が起こる。ここでガルルが突っ込んできたのだ。



 ウルルと同じ獣人であるならば、スピードを活かした戦闘方法を取ってくることは想像に難くない。そのため、いきなりの突進は想定の範囲内ではあるが、逆を言えば未知の相手に対して不用意に近づくというのは、場合によっては悪手となり得る。



「ふっ」


「よっと。悪くはないが、俺には当たらんぞ」



 戦う前にガルルの戦闘能力を見るため【超解析】で調べてみたが、出会ったばかりのウルルよりも少し強い程度だった。具体的にはオールA帯といったところで、身体強化も上位である身体強化・改のレベル4と高めだが、俺には到底及ばない。



「おい、あの獣人の動き見えるか?」


「ああ、僅かだが見えてはいる」


「俺には見えねぇな」


「あの獣人、間違いなくAランククラスの実力を持ってやがる」


「それを涼しい顔して捌いてる【依頼屋】もバケモンだがな」



 などと、俺たちの模擬戦の評価をする冒険者たちの声が聞こえてくる。その後も果敢に攻めかかるガルルだが、圧倒的な実力差がある以上、彼の攻撃が当たることは万に一つもない。



 そうこうしているうちに、徐々にガルルの体力も底をついてきたのか、動きが鈍くなっていく。一方の俺は、まだまだ問題なく動くことができる。



 ガルルの攻撃を、俺は紙一重で躱しながら様子を窺っている。この紙一重とはぎりぎりで躱しているという意味ではなく、ぎりぎりのところで避けているという意味だ。

 言葉にすると似ているように思えるが、要は余裕なく避けているかそうでないかの違いということだ。当然だが、今回は後者の方である。



「おい! いつまでもちょこまか動いてないで攻撃してきたらどうだ?」


「ん?」



 自分の攻撃がぎりぎりのところで躱されているということを理解しているのか、焦った様子のガルルが見え透いた挑発をしてくる。こちらとしても、このような面倒なことをいつまでもやっているほど暇ではないため、その挑発に乗ってやることにした。



「なら、そろそろ終わらせるとするか」


「っ! なら、こちらも全力で行かせてもらう! 【野獣化】!!」



 俺がそう宣言すると、こちらの本気を悟ったのか獣人特有のスキルである【野獣化】を使用してきた。全身に毛が生え、さらにそれが逆立っている。耳や尻尾などもピンと張っており、まさに臨戦態勢といったところだ。



「いくぞ、これで終わりだ」


「こい!」



 一応相手に宣言してから俺は地面を強く踏みしめる。身体強化で強化し、瞬く間に数十メートルの距離を踏破する。光速に動きつつ、相手の懐に潜り込むと、俺は左手の小指をピンと突き出す。そして、その小指をグレッグ商会の応接室でウルルがやったように、ガルルの鳩尾を軽くつついてやった。



「ぐぼぁ」



 次の瞬間、弾かれたようにガルルの体が吹き飛ばされ、地面に何度も体を叩きつけられる。二度三度と地面をバウンドするもその勢いは止まらない。

 そして、ようやく地面に体を打ち付けられること九度目のバウンドでようやくその勢いが止まった。だが、既にその時点でガルルの意識はなく、地面に体をめり込ませたまま動かない。



「そこまで、勝者ローランド」



 ガルルの地面バウンドを見届けた後、淡々とイザベラが俺の勝利を宣言する。こうして、ガルルとの模擬戦は俺の圧倒的勝利のまま決着したのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] そろそろ手加減のコントロールがかなり繊細になってきた様子。 うっかりすると穴が空いたり、小指で突いただけなのに上下に分断しそうな勢い。
[一言] 場合によっては握手となり得る。 >>>仲良しかよ笑
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