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273話「ランク昇級」



「というわけで小僧。今日からお前さんの冒険者ランクをSSとする。言っておくが、異論は認めんからそのつもりで」


「開口一番に何を言うかと思えば、いきなり過ぎるだろ。訳を言え、訳を」



 使用人たちのオラルガンド遠征が始まって早半年以上が経過した。いつの間にか俺の年齢も十三歳となり、確実に年を取ってきている。



 この期間で変わったことといえば、若干ではあるが女性に対しての興味が出てきたようで、少しは体が反応するようになったことくらいだ。

 しかし、常に一緒にいるはずのモチャやウルルなどには反応を示さないことから、俺の周りにいる女性陣はこう言っては何だが、あまり魅力的な女性はいないらしい。



 そして、ダンジョン攻略もいよいよ五十階層のボスをクリアし、これでAランクで攻略可能な階層をすべて回ったことになる。



 だが、ここで俺は一計を案じることにした。それは、五十階層のポータルを使用せずに街へと帰還したのだ。



 説明すると、ダンジョンにある転移ポータルは、使用するとギルドカードにその使用した痕跡が残る。それによって、冒険者がどの階層までクリアしたのかという明確な証拠として判断されるのだ。

 逆を言えば、その痕跡を残さないようにすることで、実際は攻略した階層でも攻略していないと判断され、冒険者の実力をある程度はごまかすことができるというわけだ。



 このシステムを利用して、俺は使用人たちの攻略階層を四十九階層までだと冒険者ギルドに錯覚させ、これ以上ランクが上がらないように調節しようと試みたのだ。



 当然、五十階層のボスである【キングミノタウロス】の素材は、ギルドに提出できないため、俺が預かっている状態で、いずれ換金して使用人たちに還元するつもりだ。



 ちなみに、五十階層のボスはAランクの【キングミノタウロス】というファンタジーに登場するモンスターとしてよくいる二足歩行の牛の頭を持ったマッチョな奴だった。



 Aランクということで苦戦するかに思えたが、上位の魔法を連発し、瀕死になったところを物理で斬る殴るという力技で、あっけなく倒せてしまったのである。

 しかも、俺がこのダンジョン攻略で掲げていた“Aランクモンスターの単独撃破”という目標をいとも簡単に成し遂げ、圧倒的な強さを見せたのだ。



 そして、そんなことがあってからすぐにお呼び出しがかかり、部屋を訪れて最初の一言目が冒頭のイザベラの台詞だった。

 どうやら、彼女というか冒険者ギルドには俺たちが五十階層を攻略したことが何故かバレており、その偉業を成し遂げた功績としてソバスたち使用人をSランクへと押し上げる動きがあったらしい。



 今回のダンジョン攻略というイベントの主催者であり、実力的にも彼ら彼女らより上位にあたる俺が、いつまでもSランクに甘んじているのはどうかという意見が上がり、再び各地のギルドマスターたちが話し合った結果、ランクを一つ昇格させるという結論に至ったとのことだ。



「なんで俺たちが五十階層を攻略したことを知っている? ギルドカードには四十九階層のポータルを使った痕跡しか残っていなかったろ?」


「ふん、あんなド派手に五十階層のボスを蹂躙しておいて、他の冒険者に気付かれないとでも思ったのかい? お前さんらが攻略するダンジョンの階層が三十後半に差し掛かった時点で、その動向を探るよう他の冒険者たちにそれとなく通達しておいたのさ」


「なるほど、そこは盲点だった」


「尤も、そんな指示を出さなくとも、この短期間でメキメキと攻略階層記録を伸ばしているお前さんらは冒険者たちの間で注目されていたし、毎日お前さんらの話で持ち切りだったからね。小僧たちが五十階層を攻略した情報は、いずれ嫌でも耳に入ってただろうね」


「ちっ」



 イザベラのしてやったりな顔を見て、俺は隠す気のないしかめ面と舌打ちをかます。いつの間にやら、冒険者の間で俺たちは有名な攻略グループとなっており、その動向は逐一チェックされていたようだ。



 確かに、ある頃から駆け出し冒険者が弟子入り志願をしてくることが多くなった時期があったが、すげなく断っていた。まさか、その頃から注目されていたのだとすると、かなり前から目を付けられていたことになる。



「というわけでじゃ。冒険者ローランドのSSランク昇格をここに認める」


「それって拒否できるのか?」


「ふふふ、できると思っておるのか?」


「くっ」



 拒否できるのならば拒否してやろうかと思ったが、どうやらすでに冒険者ギルドの間では決定事項のようで、拒否することができなかった。



 こうして、ソバスたちの冒険者ランクはSとなり、俺は一つ上のSSランクとなることが決まってしまった。



「まったく、普通ランク昇格を言われて拒否する者などおりゃせんというのに……。そういうところも規格外というかなんというか」


「ところで、SSランクって俺以外にもいるんだよな。どんな奴だ?」



 SSランクに昇格したついでに、俺は他のSSランク冒険者がどういった人間なのか聞くことにした。



 そもそもの話だが、冒険者ギルドのランクは最高でSSSランクまであり、最高ランクに認定されている冒険者はいない。となってくると、事実上冒険者における最高ランクはSSランクで、それ以上のランクは望めない。



 イザベラの話によると、現在SSランクの称号を持つ冒険者は世界で三人と言われており、俺で四人目だそうだ。SSランクともなると、二つ名だけでなく名前自体も有名となっており、彼女から聞かされた名は以下の通りだ。




 【魔道を極めしマジックマスター マリーン・ガリバリス】



 【大戦士ベルセルク ガイモン・マルティネス】



 【秘宝探求者トレジャーシーカー マチルダ・インク】




「そして、最後にお前さん【依頼屋クエストブレイカー ローランド】じゃ」


「なんだそのクエストブレイカーって?」


「小僧、お前自分の二つ名も知らなかったのかい?」


「そんなものに興味はないからな」



 どうやら、俺にも新しい二つ名が加わっているようで、その由来は“いかなる依頼も達成し、今まで失敗した依頼は皆無。まさに依頼を壊す者……故に、依頼屋クエストブレイカー”ということらしい。



 今までの冒険者活動の中にある記憶を手繰り寄せてみた結果、確かに依頼を失敗したという記憶はなかった。なかったのだが、なんでこんな恥ずかしい二つ名を付けられなければならないのか、世の中とは理不尽なものだと改めて思い知らされる。



「そうじゃ。言い忘れていたことがある」


「なんだ」


「SSランクの冒険者は、姓を名乗ることが許されるから、近いうちに考えておいてくれ」


「はぁ? それって、貴族になるってことか?」



 冗談ではない。せっかく実家の次期当主から逃げてきたというのに、これでは同じことの繰り返しではないか。解せぬ、実に解せぬ。



 俺の尋常でない詰問に若干気圧されながらも、イザベラは俺の問いを否定する。どうやら、爵位などの貴族としての身分を与えられるというより、有力商人が国から姓を名乗ることを許される特典に近いらしい。



「本当だな? 本当に貴族じゃないんだな? 違ってたらぶっ殺すがよろしいか?」


「よろしいわけないじゃろ! 小僧が貴族嫌いなのはわかったが、お前さんが心配するようなことは何一つとしてない。ただ姓を名乗るだけじゃ。その証拠に、他のSSランクの冒険者たちには姓があるじゃろうが」


「なるほど。そう言われればそうだな」


「じゃから、その殺気を静めてくれ」



 そうイザベラに言われ、いつの間にか殺気を放っていたことに今になって気づく。慌てて殺気を霧散させると、張りつめた空気がなくなり、イザベラがふうと一つため息を吐く。



「まったく、少しは年寄りをいたわらんか」


「まだ全然死にそうにない人間を年寄り扱いする気はない」


「まあ、それはともかくとしてじゃ。お前さんには、他のSSランク冒険者に会ってもらうことになる」


「なに?」



 さらに詳しい話を聞くと、SSランクに至った者は国の重要人物に指定され、その動向を逐一チェックされる。それに加えて、他のSSランク冒険者との顔合わせをしておく必要があるらしいのだ。



 まあ、俺は元々ミスリル一等勲章を持っているからSSランクになる以前から国の重要人物ではあるので、前者については問題ない。問題は後者だ。



 こういった冒険者の中でも、上位に上り詰めた人間というのは、我が強く傲慢な態度を取る人間が多い傾向だ。そんな人間に時間を使うこと自体が無駄であり、会う必要性というのをまったく感じられないのである。



「ちなみに拒否権はないからの。SSランクになった時にやらなければならない通過儀礼だと思って諦めてくれ」


「わかった。だが、一つだけ言っておく。俺をそいつらに会わせたことで、どんなことが起こっても文句は言うなよ。例えば、殺し合いが起こったとしてもな」


「……お前さんが言うと、冗談に聞こえないんじゃが」



 こうして、SSランクに昇格が決定したと同時に、他のSSランク冒険者と会うことが決まってしまったのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、別にランク上げたいわけでもなし。 何かあったらランク返上でAくらいまで落としてもらえば(にこやか
[一言] 何時もワクワクしながら読んでいます。ありがとうございます。
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