261話「まず覚えてもらうこと」
「ローランド様、ここは?」
「オラルガンドにある俺の自宅の庭だ」
無事使用人たちをオラルガンドへと転移させた俺は、周囲の様子を窺っているソバスにそう返答する。一応だが、使用人全員の点呼を取り全員がいることを確認したのち、ひとまず俺は彼らの滞在先を作ることにした。
住居に関しては、購入した奴隷たちを住まわせるために何度か作ったこともあってか、三十分と掛からず新しい住居が完成する。
本来なら、自宅で滞在してもらう方がいいのかもしれないが、人数的にベッドの数も足りないため、新しく作ることにしたのだ。部屋は一人部屋で、それぞれが寝泊まりできる最低限の造りとなっており、一応男女別に風呂も付けている。
風呂自体は、魔石を使ってお湯を張り出すようにしており、少ない魔力でもちゃんと動作するように調整済みだ。
肝心のベッドについても、ストレージ内に貯蔵していた木材と、先日狩ったコッカトリスの羽毛や、他のモンスターの素材でベッドの部品をDIYして作り上げたので問題はない。
住居を完成させ、それぞれの部屋の割り振りを行った後、持ってきた荷物を部屋に置いてきてもらった後で再び集合してもらう。
「よし。では、まずみんなにやってもらうのは二つある。一つは【魔力制御】と【魔力操作】を覚えてもらい、各能力に合った属性魔法を習得すること。あとの一つは、同じく魔力を操ることで発動可能な【身体強化】も覚えてもらう。これができないと、ダンジョンに潜らせるのは危ないからな」
「はあ」
使用人の中には、ソバスやモチャなどの元からある程度の実力を持っている者もいるが、ルッツォやステラやマーニャ以外のメイドたちについては本当に使用人としてのスキル以外に戦う術を持ち合わせていない。
ちなみに、うちの使用人を紹介すると、まず執事であるソバスを筆頭にメイド長のミーアがいて、その下に正規メイドのステラ・モリス・ミレーヌ・タリア・リリアナの五人がいる。そして、メイド見習いにマーニャとニッチェとモチャがおり、あとは料理人のルッツォに庭師のドドリスの合計十二人だ。
この中で戦闘に秀でているのは、ソバス、ミーア、ステラ、マーニャ、モチャ、ドドリスの六人であり、残りの正規メイドとメイド見習いのニッチェと料理人ルッツォは非戦闘員だ。
まずは、必要最低限の戦闘力を身に着けさせるために、先に提示した【魔力制御】と【魔力操作】を覚えさせることにする。
この二つのスキルに関しては、魔力を持つ者であれば誰でも習得が可能であり、仮に鑑定系のスキルでスキル自体が表示されていなくとも発現する可能性がある。
さっそく、やってみることにしたが、すでにこの二つのスキルを持っている使用人もいるため、しばらくはスキルを発現させる組とスキルを鍛える組の二つに分けて教えることにした。
「最初にやることは、自分自身の中にある魔力を感じるところからだ。へその下あたりにある丹田という場所に意識を集中させてみれば、何か違和感のようなものがあるはずだから、それを意識して動かしてみるんだ。ソバスたちは、その感覚を掴んでいるから、体内にある魔力を動かしてみたり、形や大きさを変えてみたりして、それをスムーズに行えるようにできるようにやってみてくれ」
俺の教えに従ってさっそく使用人たちがスキル習得に向けて行動を開始する。しかしながら、そう簡単に習得できるのなら苦労はないわけで、一日を費やしてもスキル発現に至るものはいなかった。
一方、すでにスキルが発現している組は、現役でスキルを使用している者もおり、スムーズにスキルの熟練度を上げていっていた。結果としてスキル開発組に変化はなく、スキル発現組のスキルレベルが一または二ほど上がった程度だった。
朝からぶっ続けで行ったにもかかわらず、その程度の成果しかないのかと思ったが、よくよく思えばこの手のスキル発現は俺や弟のマークを基準としており、ごく一般的な才能を持った者を基準としていない。
であるからして、スキル発現が遅いと感じてしまうのは仕方のないことだったかもしれないという結論に至った俺は、もう少し長い目で様子を見ることにしたのであった。
翌日もスキル発現と熟練度を上げてもらおうと思ったが、今回の遠征は使用人たちの社員旅行も含めているということで、今日一日はお休みとし自由行動にした。
「観光費は出した方がいいか?」
「いいえ、ローランド様のお陰で皆十分な給金をいただいております。使用人の中には故郷の家族に仕送りなどをしている者もおりますが、それを差し引いても十分な蓄えがございますので、これ以上ローランド様から費用を出してもらうのは忍びなく……」
「そうか。なら、滅多に来られない場所だ。羽目を外しすぎないよう楽しんできてくれ。念のため単独行動ではなく、ある程度固まって行動するようにな」
「かしこまりました。ところで、ローランド様の予定はどうなっておりますでしょうか?」
「俺か?」
そうソバスに問われてあることを思い出す。何かといえば、王都の連中にオラルガンドに出掛ける旨を伝えていなかったということだ。
今回の社員旅行でどれくらいの期間オラルガンドに滞在するのがわからない以上、一度王都に戻ってその旨を伝えておいた方がいいと考えた俺は、そのことをソバスに伝えた。
「左様ですか。それではいってらっしゃいませ」
「ああ」
ソバスに見送られながら、俺は一度王都へと戻り速攻で各所にしばらく王都を離れることを伝えた。それぞれの反応は以下の通りだった。
国王:「わかった。ティアラにも会って行ってくれ。最近お前に会えないことをいたく寂しがっていた。(だが断る!)」
マチャド:「まだレミールちゃん(一番人気の娼婦)を奢ってもらってないんですが? あいてっ(金貨の入った皮袋を投げつけてやった)」
奴隷たち『ご主人様、いってらっしゃいませ!!(だから、ご主人様ではない)』
リリエール:「唐揚げのレシピは売ってくれないのでしょうか? (それは戻ってきてから要相談ということで)」
ララミール:「じゃあ、行ってきますのキスをしましょ――。(では、これにて失礼する) ……あぁん、また逃げられちゃった」
ヘドウィグ:「……(時間が掛かりそうだったので、置き手紙を残しておいた)」
メリアン:「またのお越しをお待ちしております。(一番まともな挨拶をしてくれたな)」
といった具合だ。
ちなみにだが、ファーレンとティアラにはこのことは伝えていない。なんとなくだが、この二人に伝えると自分たちも付いてきそうな予感がしたからだ。こういった時の勘はよく当たるので、その勘を優先した結果、今回二人には黙っておくことにしたのだ。
一通りの挨拶も済み、再びオラルガンドへと戻って来ると、留守番をしていたのはソバスとドドリスだけであった。
「おかえりなさいませ」
「ああ、今戻った。他の連中は?」
ソバスから他の使用人の動向を聞くと、メイド組は揃って観光へと出かけて行き、珍しい組み合わせだがルッツォとモチャの二人で市場へと出ていったそうだ。……ああ、モチャは食べ物に釣られただけか?
「ドドリスは行かないのか?」
残っている人間のうち、俺はドドリスに話し掛けた。すると庭師の彼らしい答えが返ってくる。
「ローランドの坊っちゃん。わしは庭師ですぞ。そして、今目の前には手入れの行き届いていない庭がある。だったら庭師のわしがやることは一つでさぁ」
「あまりこっちに帰ってくる機会がなくてな。手入れが疎かになっているのは否めないから助かる」
「いいってことでさぁ」
そんなやり取りがあった後、俺がグレッグ商会に顔を出すと言うと、俺が関わっている商会だからかソバスには珍しく「お供します」という言葉か返ってきた。特に断る理由もないため、そのまま彼を伴って俺はグレッグ商会へと向かった。
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