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253話「冒険者ギルドからの呼び出し」



 クッキーの一件が落着して二か月ほど経過する。それほどの期間が経過した現在、クッキーは村落などの過疎部以外のすべての町や都市に行き渡り、シェルズ王国内でその存在を知らない者がいないほどになっている。



 あともう一月ほど経過すれば、未だ行き渡っていない村落でもクッキーが日常的に楽しめるようになり、ほぼシェルズ王国内全域にクッキーが周知されたことになる。まさに全国制覇である。



 これは余談になるが、俺が懸念した通りクッキーの独占を目論んだ権力者たちが、裏で動いていたようだが、事情を知っている国王やお茶会に招待していたローゼンベルク公爵家を筆頭に、クッキーを王国全域に拡散することに賛同する者たちによる妨害工作が功を奏し、最終的に彼らの目論見は脆くも崩れ去った。



 そして、この二か月であった大きなイベントといえば、サーラとサーニャの魔族の王女姉妹が魔界へと戻って行ったことだ。



 今から一か月ほど前に魔王から連絡があり、彼女たちのもう一人の姉妹であるサニヤも落ち着きを取り戻したということで、一度三人を交えて話し合いの場が設けられた。



 最初こそ謝り続けていたサニヤだったが、小さな頃から共に過ごしてきた姉妹だけあって、すぐにわだかまりはなくなり、和解することができたのだ。



 そこからはトントン拍子にサーラたちの送別会が開かれ、屋敷の使用人たちに惜しまれながらも、魔界へと帰郷して行ったのだった。



 さらにこの二か月で起こったもう一つの出来事といえば、あのロリババアことナガルティーニャのことだ。あのお茶会以来どことなく彼女がよそよそしい態度を取るようになり、顔を合わせれば「ぽっ」などと顔を両手で覆い隠し、花も恥じらう乙女のような言動を取るようになった。



 当然ながら、そんな気持ちの悪い態度を取られ続けるのに限界を感じた俺は、奴を強制的に亜空間へと引きずり込み、久しぶりに師弟としての戦闘訓練を行った。

 以前奴と戦った時よりもレベルアップしているとはいえ、まだまだ奴に致命傷を与えることはできないようで、結果的には俺の敗北という決着になったが、ひとまずはあの気持ち悪い言動を取らなくなったのでよしとした。



 そんなナガルティーニャだったが、クッキーの一件が落ち着いてからしばらくして再び旅に出ると言い出した。送別会を開こうとしたのだが、またすぐに戻ってくるので必要ないと断りながら転移魔法で姿を消したのであった。



 この二か月で起こったことといえばその二つくらいで、あとは孤児院や二つの商会と王都の屋敷やオラルガンドの自宅の管理をやっており、気が付けば現在に至るといった具合だ。



 そんな平和な日々を送っていた俺だったのだが、急に冒険者ギルドから呼び出しがあった。最近は、魔界やらお茶会やらクッキーやら自分の周りのことやらと忙しく、冒険者活動をほとんどと言っていい程に行っておらず、そのことについてのお小言をではないかと当たりを付ける。



「ともかく、行ってみるか」



 そんなことを思いつつ、俺は冒険者ギルドへと向かった。



 久しぶりに訪れた冒険者ギルドは特に変わった様子はなく、冒険者たちがちらほらといた。どうやら朝のピークは過ぎているようで、ほとんどの冒険者が依頼に出掛けていた。



 そんな様子をギルドの入り口から観察していると、不意に声を掛けてきた人物がいた。巨乳眼鏡お姉さんのメリアンである。



「ローランド君、やっと来てくれました」


「久しぶりだな」


「久しぶりじゃないですよ! 全然依頼を受けに来てくれないから困ってたんです」


「たかが、Aランク冒険者一人冒険者ギルドに来なかったくらいで、どうこうなる組織じゃないだろ?」


「それはそうですけど……。と、とにかくギルドマスターがお呼びですからこちらへ来てください」



 そう言われるがままに、俺はギルドマスターの元へと連行される。目的の部屋に到着すると、その部屋の扉をメリアンがノックする。



「メリアンです。冒険者ローランドをお連れしました」


「入ってちょうだい~」



 中に入ると、そこにいたのは褐色の肌をした妖艶なダークエルフがいた。ララミールである。彼女とは、オラルガンドの魔族襲来の際に王都で国王と謁見したあとに立ち寄った時に知り合ったのだが、相変わらずのほほんとした口調は変わらないらしい。



「んもう~、ローランドくんたら~、全然会いに来てくれないんだから~」


「そんなことより、話とはなんだ?」



 ララミールとの世間話もそこそこに俺は彼女に本題を投げ掛ける。すると、彼女は俺に向かって何かを投げ寄こした。咄嗟に受け取ったものを見ると、それは俺の名前が刻まれたギルドカードだった。



「これは?」


「前にも言っていたけど~、ローランドくんのSランク昇級が決まったわ~。それが新しいギルドカードだからよろしくね~」



 どうやら、以前言っていた俺をSランクに昇級させるための話し合いの場が設けられたらしく、満場一致で昇級が決定したとのことだ。

 しかし、あれ以来冒険者ギルドに顔を出すことがなかったため、ずっと手渡すことができなかったのだが、もう来るのを待っていられなかったようで、今回呼び出しということになったらしい。



「それで、さっそくで悪いんだけど~、指名依頼を受けてくれるかしら~」


「内容次第だな」


「わたしと気持ちいいことしな――」


「どうやら依頼はないらしいな。では、これで失礼する」



 ララミールの口から誘惑の言葉が出てきたタイミングで俺はすぐにその場を後にした。俺の後ろからは「次こそは逃がさないんだから~」という声が聞こえていたが、そんなことは知ったことではない。



 ひとまず受付カウンターへと戻った俺とメリアンは、さらに細かい手続きと今まで使っていたAランクのギルドカードを返却する。



「ところで、ローランド君。久しぶりに何か依頼を受けませんか?」


「Sランクに見合う依頼があるのか?」


「ええ、この中から選んでください」



 そう言って彼女が取り出してきたのは、いくつかの依頼が記載された紙だった。中には相当前に書かれたものもあるようで、古ぼけた依頼書もあるようだ。



 なんでも、依頼書の中には五年依頼や十年依頼と呼ばれるものがあるらしく、名前の通り五年に一度、十年に一度達成できればいいとされている依頼のようで、それこそ冒険者の中でも選ばれた者しか受けることができない依頼だと説明された。



「どれにします?」


「ふむふむ。ならこれにしよう」



 そう言って、俺は依頼の一つを彼女に差し出した。依頼受諾の手続きが完了すると、俺は依頼を達成するべく冒険者ギルドを後にした。

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