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222話「お茶会に向けて」



「さて、始めるとするか」



 城から戻ってきた俺は、とりあえずセバスたち屋敷の使用人にこのことを伝えるため、招集を掛けた。すぐに使用人たちが食堂に集結し、俺は開口一番にこう宣言する。



「王妃と第一王女を客とするお茶会が開かれることになった。お茶会会場はここ、俺の屋敷でやることになるから、各々準備を怠らないように」


「ロ、ローランド様? 今なんとおっしゃいました?」



 俺の突然の宣言に、使用人一同呆然とするばかりで、思考がうまく回っていないようだ。執事のセバスですら俺に聞き返してくるほどなのだから。



 確かに国賓並みの待遇とはいえ、平民の屋敷に王族がほいほいやってくることなど通常では考えられないだろう。残念だが、どうやらうちは通常ではないらしい。



「王族を来賓とするお茶会が開かれる。各々準備を怠るな。王妃サリヤには準備に時間をもらいたいと伝えているから焦る必要はないが、できれば数日で準備を整えたい。サーラたちの世話で大変な時期に悪いが、頑張ってくれ」


「……ローランド様、私はあなたに仕えることができて幸せでございます。これだけの大役を任せていただけるとは、使用人として誉れ高く思います」



 セバスの言葉に他の使用人たちも頷いており、特に貴族家からやってきた使用人たちは泣き出してしまう者まで現れる始末だ。



 とにかく、お茶会といえど王族を招待する以上は失礼があってはならない。そのための準備を進めるのはいいとして、問題は人手が足りるかどうかだ。



「ソバス。お前たちだけで準備をした場合、完了するまでにどれくらいの日数が掛かる?」


「そうですな。夜会ではないということで、その分準備するものは少なくて済むと思いますが、やはり四日は掛かると思います」


「わかった。人手は足りそうか?」


「正直申し上げれば、少々不足かと……」



 今回のお茶会はただのお茶会ではない。この国のトップに君臨する国王の妻である王妃と、その娘である第一王女がやってくるのだ。生半可なお茶会では駄目だろう。



「なら人を集めてくる。お前たちはさっそく準備を進めておいてくれ」



 それだけ言うと、俺はある場所に向けて瞬間移動したのだった。





     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~





「よ、久しぶりだな」


「兄さま!」



 俺がやってきたのはマルベルト男爵家にいる我が弟マークの部屋だった。今回のお茶会で人手が足りない旨をソバスから聞いて、マルベルト男爵家から人を何人か借りられないかと思ったのだ。



 出奔した俺としては、できればここを頼りたくはないのだが、弟にはこの家を守ってもらう義務を押し付けてしまった手前、ある程度王族に顔を売っておいた方がいいと考えたのだ。



 まだマルベルト男爵家の当主は俺の父であるランドールだが、いずれはマークに当主の座が移るため、今のうちにいろいろなことを経験させておくのも悪くはない。



「ロランお兄さま! やっぱり戻ってきてたのですね!!」



 ここに来た目的をマークに話す前に、どこからか俺の存在を嗅ぎつけてきたローラがノックもなしに部屋の扉を開け放ち、高らかに声を上げる。というか、どうやって俺が来たことを察知したんだ我が妹は……。



「お兄さまぁー!」


「おっと。ローラよ、いつも言っているだろう。人に飛び込むのは危ないと」


「えへへ、ごめんなさいです」



 俺の注意もなんのそのとばかりに顔をにやけさせるローラ。そのあとはお決まりのクンカクンカタイムが始まってしまい、さり気なくローラを引き剥がしつつ、マークに今回の用向きを伝える。



「今回はちょっとした催し物があってな。人手が足りないから、マルベルト家から出してもらえないか父上に頼みに来たんだ」


「そうだったのですね。わかりました。父さまのところへ案内します」


「わたくしも案内します!」



 俺が父ランドールに会いに行くことを告げると、二人とも案内を買って出てくれた。二人とも十歳ということでまだまだ子供なのか、俺の手を取って歩いて行く。別に嫌ではないので好きにさせておいたが、もうそろそろこういったこともしなくなるだろうと思うと、今のこの時期は貴重なのかもしれない。



「父さま、兄さまが頼みたいことがあるということで連れてまいりました」


「連れてまいりました」


「マークとローラか。ロランが俺に頼み事だと? ……まあ、とりあえず入れ」



 執務室に入ると、そこには忙しそうに書類整理に追われる父の姿があった。あのままこの家を出ていかなかったら、将来はアレを俺がやらされる羽目になっていたのかと思うと、つくづくこの家を追い出されたことを良かったと実感できる。



「何か感慨深い顔をしているが、頼みとはなんだ?」


「実はかくかくしかじかもちもちぺったんで――」


「なんだと!? 魔族の姫君を預かっていることをティアラ王女殿下に知られてしまい、お茶会を開くことになったから人手を貸してほしいと? しかもそのお茶会には王妃様もおいでになるというのか!?」


「まあ、そういうことだな」



 冗談交じりで使ってみたのだが、親子のテレパシーなのかハンニバルやナガルティーニャとは比べ物にならないほどに情報が伝わっている。これが血は争えないというやつなのだろうか? ……いや、少し違うか。



 俺の口からそのことを聞かされたランドールといえば、「こうしてはおれん。すぐに人を集めよう。男爵家程度の我が家では事が大き過ぎる。バイレウス辺境伯にもご助力願わねば!」と言いながら、どこかへ向かうつもりなのか部屋を出ていってしまった。



 一方残された俺たちは、ただ呆然とするばかりで、ランドールの勢いに負け思考が停止してしまっていた。なんとか、意識を元に戻した俺は、マークたちと共にランドールの後を追い掛けた。



「急ぐのだ! マルベルト家の誇りに賭けて今回の件成功させねばならぬ!!」


「父上」


「おお、ロランか。よくぞ俺に知らせてくれた。これで我がマルベルト家も安泰だ」


「マークにこの家を任せる以上この家は安泰だ。すでにマークには、子爵に昇爵するための方法を伝えてある」


「な、なんだと!? 本当かマーク?」



 マルベルト家は追い出されはしたものの、この世界での俺の実家であることには変わりない。簡単に潰れないようにマルベルト家を一つ上の爵位である子爵になってもらう予定だ。



 すでにその方法についてはマークに伝えてアあり、現当主の父ランドールが死んでマークが後を継いだ時に実行しろと指示を出してある。



「その方法は一体なんだ?」


「父上が知る必要はない。マルベルト家が昇爵するのは、マークが当主になった後になるんだからな」


「今からでも良いのではないか?」


「あなた、いい加減にしてください!」



 そこに現れたのは、俺の母親であるクラリスだ。相変わらず三人の子供を産んだとは思えないほどの美貌と体つきをしており、その美しさは絶世といっても過言ではない。



 そんな彼女が厳しい顔つきでランドールを睨みつけており、その勢いにランドールも腰が引けている。



「ク、クラリス。違うんだ。話を聞いてくれ」


「あなたの話を聞く必要はありません。ロラン、少々この人とお話がありますので、そこで待っていて頂戴ね。さあ、行きますよ」



 クラリスがそう言うと、ランドールの耳を引っ張りながら奥の部屋へと消えていった。部屋に入ってすぐにランドールの金切り声のような悲鳴が聞こえてきたが、クラリスにどんな目に遭わされているというのだろうか?



 しばらくランドールの悲鳴が続いていたが、ある時を境にピタリと悲鳴が止み、すぐにクラリスが部屋から出てきた。



「ごめんなさいね。あの馬鹿が勝手な真似をして。あの人のことは気にしないで自分の用事だけを済ませてね」



 先ほどの態度とは打って変わって、まるで慈愛に満ちた表情を浮かべるクラリスに空恐ろしいものを感じながらも、俺は彼女の言葉に頷く。……そうだな。ここは息子としてあまり甘えてこなかった借りをここで返しておこう。



「……? ロランどうしたの?」


「ありがとうママ。大好きだよ!」


「はぅ」



 俺は新たに息子モードのスイッチを作製し、そのモードでクラリスの腰辺りに抱き着き純粋な笑顔を張り付けながら彼女に甘えた。モードとしては、サーラにも見せた弟モードと似ている部分があったので、なんとかなったのだが、これがいけなかった。



「あぁ! ロランちゃん!!」


「ふぐぅ」



 俺の息子モードに感極まったクラリスが、俺を思いっきり抱きしめてくる。たわわに実った彼女の胸に埋もれながら、なんとか呼吸を確保する。前世のテレビ番組で、胸の大きな女性の谷間に埋もれた男性が窒息死するという内容のものが放送されていた記憶がある。それだけ女性の胸は恐ろしいのだ。



「あ、ごめんなさい。私ったら……」


「いや、大丈夫」



 それから、人手の確保をクラリスにお願いし、その後バイレウス辺境伯の領地に瞬間移動した。余談だが、これ以降クラリスの俺に対する態度が変化していくことをこの時の俺はまだ知らない。

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