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閑話「帰還した一輪のフリージア」



 ~ Side サーラ ~



 私は名前はサーラ。ただの魔族……であることを願った一人の少女です。



 私の周りの環境は他の魔族とは違ってとても特殊なのです。周りの者は私のことを褒めてくれたり、ちやほやとしてくれる。それはそれでただ罵られて嫌な気分になるよりかはいいのだけど、どこか見えない壁のようなものがあって、私との間に物凄い隔たりがあります。



 それは私の立場上そうでなければならないことはわかっているのですが、それでも気兼ねなく話せる相手がいないというのは寂しいものです。



 少し脱線してしまいましたが、ようやく魔王都に帰ってくることができました。まさか、本当に帰ってこれるとは思っていなかったので、自分でも驚きです。ローランドさんには感謝しないといけませんね。



 今回私が魔王都からあのような遠い場所にいたのかといえば、おそらくですがあの人の差し金ではないかと考えています。ここで私の身の上話をさせていただきたいのですが、私には二人の姉がおります。



 一人は上の姉であり、落ち着いた温厚な雰囲気を持つサーニャお姉様と、もう一人が少し気が強いサニヤお姉様です。



 これでも美人三姉妹なんて呼ばれておりますのよ、おほほほほ。……と、まあ冗談はこれくらいにして、今までは三人姉妹で仲良くやっていたのですが、ある日を境にそれが一変したのです。



 事の発端はほんの些細なことでした。二人でお茶を楽しんでいると、急にサニヤお姉様が大きな声を上げてサーニャお姉様に言い放ったのです。



「どうも納得がいかないですわ」


「どうしたのサニヤ?」


「あなたの何もかもが気に入らない。サーラあなたもね」


「サニヤお姉様……」



 まるで人が変わったかのようなサニヤお姉様に、私もサーニャお姉様も困惑するばかりで、ふんと鼻を鳴らしてその場を後にするサニヤお姉様の背中を見送るしかありませんでした。



 一体お姉様の中でどんな心境の変化が起こったのか、それはわかりません。ですが、あまりの態度の急変に私は何者かがサニヤお姉様を操っているのではと考えるようになりました。



 それから事あるごとにサニヤお姉様は私たち二人を目の敵にするようになり、そしてとうとうその一線を越えてしまったのです。突如サニヤお姉様に呼び出された私は、久しぶりに会えるお姉様に喜び勇んで会いに行きました。ですが……。



「まずは一人目。これで邪魔者は消える」


「サニヤお姉様!?」



 私を見るサニヤお姉様の表情は、昔のような気が強くても何かと気に掛けてくれる優しいお姉様のものとはかけ離れていました。気が付けば、私は鳥型のダガールというモンスターに連れ去られてしまっていたのです。私がダガールから解放された時には、すでにどことも知れない辺境に飛ばされていました。



 そんな状況の中、私は元の場所である魔王都に戻ろうとしたのですが、そこにオーガキングが現れ、逃げ惑っているところをローランドさんに助けてもらったのです。



「まさか、ホントに一週間でここまでくるなんて……」



 改めて、これほどの驚異的な速さで魔王都に帰還できるとは思っておらず、彼が規格外の存在であるということを思い知らされる。最初出会ったときは人間であることに驚きましたが、今は感謝してもしきれません。



 私だけだったら、魔王都はおろか最初に立ち寄った集落にたどり着くことなく、その生涯に幕を閉じていたことでしょう。



「こんなことを考えている場合ではないですね。戻らねば」



 まだ私が飛ばされてそれほど時間が経っているわけではありませんが、私をこんな手を使って貶めるサニヤお姉様が、サーニャお姉様に何もしていないはずはありません。急いで戻らないと。



 大通りをまっすぐ進み、とある建物に到着しました。そこで見張っている男の人に「テリアを呼んでほしい」という旨を伝えます。ちなみに、今の私は魔法を使って本来の姿を偽装しているため、見張りの人は私が誰か気付いていません。



 しばらくして、やってきたテリアが怪訝な表情を浮かべますが、すぐに目を見開き驚いた表情を浮かべます。ですが、すぐに元の冷静な顔に戻ったと思えば、男の人に「ご苦労様です。この方の対応は私がやりますので、あなたは仕事に戻って下さい」と言って私を案内します。



 案内されたのは、私が見慣れたある部屋でした。そこは私が幼少の頃からずっと使っている部屋で、私が今まで生きてきた中で一番長く過ごしている部屋でもあります。



「サーラ様!」


「テリア、心配を掛けましたね」



 部屋に着くなりテリアは私に抱き着き、私の無事を喜んでくれました。私を心配してくれる者が家族以外にもいるということを嬉しく思いますが、今はそんな場合ではないことに思い至り、テリアに私がいなくなってからの状況を聞きました。



「それが、今から三日ほど前にサーニャ様が謎の病に倒れ、今も目を覚まさない状態なのです……」


「な、なんですって!? サーニャお姉様が!」



 テリアから語られた内容に、私は目を見開いて驚きます。私の件といい、今回のサーニャお姉様の件といい、そうは思いたくはないのですが、やはりサニヤお姉様が関わっている可能性が高いです。



 これは、うかうかしていられない状況だと、なんとか打開の一手をと考えていたその時、テリアの口からとんでもない内容が語られます。



「サーラ様、落ち着いて聞いてください。サーニャ様ですが、医者が言うには不治の病だそうで、治療の方法がわからないそうなのです」


「そう……」


「それだけならいいのですが、このままの状態があと二日以上続いてしまうと、もうサーニャ様が目覚めることは二度とないと……」


「そ、そんな!!」



 治療の方法がわからないなら、時間を掛けて見つければいいと思っていた矢先の宣告に、私は目の前が真っ暗になります。あの優しかったサーニャお姉様と、二度とお話しができなくなることに私の心臓は脈打ち焦りに似た感情が浮かんできます。



「そ、そうだ! あの人なら……」


「サーラ様? 一体、なにを……?」



 テリアの呼びかけにも答えず、私は引き出しから一枚の便箋とペンを取り出します。焦るのを抑えつつ、できるだけ丁寧な字で手紙の内容を書き綴ると、それを封筒に入れ手紙が完成します。



 それをテリアに差し出すと、訳がわからないといった様子で手紙と私の顔を交互に見てきますが、今は時間がありません。手短に用件だけを伝えます。



「この手紙をローランドという少年に渡してください! 急いで!!」


「ローランドですね。承知しました」



 理由はわからないが、とりあえず私が急いでいるということを感じ取ったテリアが、訳も聞かずに部屋を出ていきました。誰もいなくなった部屋で私はぽつりと呟きます。



「ローランドさん、お願いします。今頼れるのはあなたしかいない……」



 そう言われたら、間違いなく嫌な顔をするぶっきらぼうな物言いをする少年の顔を思い浮かべた私は、そのあまりの清々しい嫌な顔を思い浮かべてしまい、緊急事態だというのに思わず声を出して笑ってしまいました。



「テリアお願い。早く、早くローランドさんを連れてきて……」



 自身の願いを乗せた手紙を持つテリアに向かって、私は祈るようにそう呟きました。

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