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163話「ローランド、罪悪感を覚える屈辱を味わう」



「ここが例の村か」



 ちょっとした面倒イベントをこなした後、俺はその日のうちにマンティコアの被害に遭っているらしい村へとやってきた。



 この村からサリバルドーラまでの距離は、馬車で四、五日程度の道のりだが、飛行魔法で空を飛べる俺からすれば日帰りできる距離でしかない。



 村の様子はそれほど変わったところはなく、寧ろ人気がなくなったのではないかと感じてしまうほどに静けさに包まれており、はっきり言えてしまえば不気味の一言に尽きる。



 まあ、マンティコアという恐ろしいモンスターがやってきて騒ぎを起こすような人間はいないと思うが、ここまで静かだと村人全員マンティコアの腹の中に納まってしまったのではないかと最悪の結末を思い浮かべてしまう。



「だ、誰だおめぇは!? この村に何の用だ!!」



 村の入り口付近まで近づくと、どこからか武装した村人が出てきた。よかった、ひとまず第一村人発見ということで、まずはコミュニケーションを取るべく、話し掛けてみる。



「この村にダーツが当たりまして」


「む、ダーツだって? 何おかしなことを言ってるんだ?」



 ああ、そうだった。世界地図にダーツを投げ、そのダーツが当たった場所を取材に行くという趣旨のテレビ番組はこの世界にはなかったんだ。……さて、ファーストインプレッションは失敗だなこりゃ。



「とりあえず、村長を呼んできてくれないか?」


「おめぇのような怪しい子供が、村長に何の用なんだ!?」


「この村がマンティコアの被害に遭った村だと聞いて来た冒険者だ。話を聞きたいから、村長を呼んできてくれ」


「おめぇのような小さい子供が、冒険者な訳がねぇ! 怪しい人間をこの村の中に入れるわけにはいかない。悪いが帰ってくれ」



 まいった。どうやら、コミュニケーションに失敗したばかりか、怪しい人間として認識されてしまったようだ。やはりダーツネタが駄目だったか……くそう、この世界にもテレビがあれば。



「何をしておるのじゃ!?」


「あっ、村長。子供が急に現れたと思ったら、おかしなことを言い始めたんだ」


「なんじゃと?」



 村の入り口を守っていた村人が、要領を得ないことを言い始めたものだから、村長も若干困惑しているようだ。ちなみに、村長は長髪白髪の老人で、いかにも村長ですといった感じの風貌をしている。



「この村の村長だな。俺はさるお方から、直接の依頼を受けてこの村にやってきた冒険者だ。マンティコアについて詳しい話を聞かせて欲しい」


「急に何を言い出すかと思えば、そんなことを言われて信じるわけがないじゃろう」


「これが俺のギルドカードだ。確認してくれ」



 村長の意見も尤もだと思った俺は、先に俺自身の身の証を立てるため、冒険者ギルドのギルドカードを提示する。カードを受け取った老人は書かれている内容に目を見開いて驚愕し、すぐに手のひら返しで態度を改めた。



「ま、まさかこんな子供がAランク冒険者様とは、長生きをしておると妙な出来事が起こるものですわい」


「それよりも、事情を聞かせてくれないか」


「承知しましたじゃ。わしの家に案内しますぞい」



 それから、村に入れてもらい村長の案内に従って村長が住んでいる家へとやってきた。他の家よりも少しだけ大きく造られている家が村長の家らしく、村の代表者が住む家としては実にわかりやすい。



「お爺ちゃん、おかえりなさい。その子は誰?」


「おお、メリル。今帰ったぞい。こちらは、マンティコアのことを知って駆け付けてきてくれた冒険者の……そういえば、あなたのお名前を窺っておりませんでしたな」


「そういえば、名乗ってなかったな」



 肝心なことばかりに気を取られ過ぎていたため、自己紹介をしていなかったようだ。……この村にあるという我が祖国のソウルフードである米のことを。なに? マンティコアの討伐じゃないのかって? 喋る猫などどうでもいい。今は米だ米。



「俺はローランドという者で、冒険者をやっている」


「わしはこの村の長をやっているファガレスという者ですじゃ。こちらはわしの孫娘で、名をメリルといいますじゃ」


「メリルです」



 村長のファガレスの紹介で少女がぺこりと頭を下げながら自分の名を口にする。年の頃は十代前半で、栗色の短めの髪にくりっとした目が愛らしい見た目をしており、クラスで二番目に人気が出そうな女の子という印象を受けた。



 ちなみに年齢が年齢だけに胸部装甲も慎ましやかなのかと思いきや、田舎の女の子は発育がいい理論の通り、十代前半にしてEという数値を叩き出していた。……メリル、恐ろしい子。



 お互いに自己紹介が済んだところで、村長から詳しい話を聞くことにした。



「それで、米はどこにあるんだ?」


「コメ?」


「こちらでは、粒麦と呼んでいる穀物のことだ。あると聞いたんだが」


「あの、マンティコアの話を聞きに来たのではないのですか?」


「……そうだったな。じゃあ一応聞いておこう」



 ただのお喋り猫よりも今は米の話が大事なのだが、ここでファガレスの機嫌を損ねてあとで米を分けてもらえなくなっては本末転倒だ。RPGでも、まずは要求を提示するのではなく、村人の困っていることを解決し、そのお礼として改めてこちらの要望を口にすればいい。“米を寄こせと”な……。



 ファガレスの話を聞いたところ、突然現れたマンティコアによって村の一部の建物と畑、それに数人の村人が犠牲になってしまったらしい。



 そして、聞いていた通りマンティコアは村人を根絶やしにはせず、定期的に生贄として村人を差し出せと要求してきたそうだ。



「犠牲となった村人の中には、わしの息子夫婦もおりましての。その時何もできなかった無力な自分が悔しくて仕方がなかったですわい。こんなおいぼれが生き残ってしもうて」


「お爺ちゃん、そんなことを言わないで」



 悔しい表情を浮かべながら、手が白むほどに力いっぱい拳を握るファガレスを孫のメリルが慰める。だが、一番悲しい思いをしているのは他でもないメリル、彼女なのだ。



 ファガレスにとっては自分の息子とその嫁だが、メリルにとっては父と母なのだ。この若さで両親を亡くす悲しみは、大人になってから両親を亡くすよりも心に大きな傷を与えてしまう。



 増してや、病気や事故によって亡くなったのならまだしも、殺されてしまったという事実は、まだ成人していないであろう彼女に大きな傷としてこ残り続けることだろう。



(俺の馬鹿野郎が……アリーシアから村人が犠牲になったって聞いた時点で、この可能性を失念してどうする!)



 二人の沈んだ姿を見れば見るほど、先ほどまで自分が考えていたことに罪悪感が込み上げてくる。なにが、米だ。彼女たちは、かけがえのない家族を殺されているんだぞ。



 自分がいかに愚かなことを考えていたのか、ちょっと前の自分をぶん殴ってやりたい気分になってくる。……まあ、実際やると痛いのでやりはしないがな。



 二人に感じた罪悪感をほんの少しでも解消したくて、俺は二人に気付かれないよう自分の太ももを少し強めに抓った。……よし、これで自分が考えていた邪な思いに対する贖罪とする。



「大体の事情はわかった。で、奴はどこに行ったかわかるか?」


「この村から北に行くと小高い丘があるのですが、そこなら彼奴の巣として十分な場所になり得ますじゃ。おそらくは、そこじゃなかろうかと」


「うむ、了解した。だが、今日はもう夕方に近い時間帯になっているから、今日はこの村に泊まりたい。一晩泊まる場所を教えてくれないか」


「でしたら、我が家に泊まっていってくだされ。亡くなった息子夫婦の部屋がありますので、そちらでしたらすぐに使えます故」



 再び悲しい雰囲気になるファガレスの厚意を無下にすることもできず、俺は一晩だけ村長の家に世話になることにした。……待っていろマンティコア。俺に罪悪感を与えたことを後悔させてやる。

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十代前半でEって、気持ち悪い
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