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頭おかしいシリーズ

力を授けてきた神が味を占めて悪徳オプションを勧めてくる

作者: としぞう

※「力が欲しいかと神が囁いてきたけれど、多分相手間違えてますよ」(https://ncode.syosetu.com/n1675gf/)の続編です。

 前作は上のシリーズ一覧から飛べる……筈……

 その日、俺は人生で一番のピンチを迎えていた。


「ぐっ……うぅ……!?」


 全身が痺れ、熱い。

 身体の中心……より下、下腹部からくる痛みに俺の身体は蝕まれていた。


(も、漏れるぅ!!!)


 腹痛――から来るアレによって。


 学校で行っておけば良かった、さっき通ったコンビニで借りておけば良かった。

 色々な後悔が頭を過る。しかし全て過ぎ去ってしまった過去だ。


 猛烈に、加速度的に俺の身体を蝕む便意はよりにもよって周囲にトイレの当てのない、ここから家に行くのが一番早い状況で猛威を振るってきていた。


『おいおい、大丈夫か?』


 脳内に響く声。そいつはやけに呑気で、無性に腹が立つ――おっと、ステイステイ。興奮するな。興奮は便意の大親友。野球に誘われた男子小学生の如く、我先にと外に出てきてしまうんだ。


『人間も大変だな。生きるためには飯を食わなくちゃいけない。飯を食ったらクソをしなくちゃいけない。なんて不完全な生き物なんだ』

「完全だろ。むしろ完全だろ。自分で食って、自分でいらないもん出してるんだぞ。自己完結してるんだぞ」

『む……確かにそうだな』


 声の主……自称神は納得したような声を漏らす。漏らすとか言うな。誘発されるだろうが。


 よりにもよって目の前には長い赤信号。

 そして、こちらの事情なんて何一つ慮ってくれない自称神。こいつ、俺がクソ関係のトラブルに見舞われている時に調子良くなるんだよな。

 初めて会った――会ったでいいのか分からないけれど、この糞神様が声を掛けてきたのもトイレトラブルの時だった。


「なぁ、神様よぉ。あんたって男? それとも女?」

『む、いきなりなんだ? ていうかお前が我に興味を持つなんて珍しいじゃないか!』


 なんだか神様嬉しそう。

 俺は横断歩道の前でその場ステップを踏むという、昔のRPGのキャラクターみたいなスタイルをばっちり決めつつ、そんなことを思う。


 けれど今更ながらに中々大きな問題だ。もしもこの糞神様が糞女神様だったら、俺は自慢のサムシングをばっちり見られていることになって、色々と恥ずかし――いや、どうだろう。この脳内ストーカーに恥ずかしいという感情を抱くのは果たして正解なんだろうか。


『我に性別という概念はない!』

「へー」

『興味無さげだな、オイ』

「こっちはそれどころじゃないんだ」


 ステップが荒くなっているのを感じる。落ち着け落ち着け。便意は友達、怖くないよ。

 お前から聞いたくせに……とぼやく神様を無視し、赤が青に変わるのを待つ……待つ……変わった!!


「今だっ! ゴーゴーゴ――ッ!?」


 青になったのをしっかり見届け横断歩道へと足を踏み入れた、瞬間。

 ギュイインと凄まじい轟音を掻き鳴らして目の前を横切る車……!? 俺があと数秒でも勇み足を踏んでいたら轢かれていたぞ!?

 くそ、これだから運転手って生き物は嫌いなんだ。これには神様もご立腹のご様子で、あぶねぇなぁとか言っていた。まったくその通りだ。呪われろ。お前もクソみたいな神様に取り憑かれて朝昼晩プライベートのない暮らしを送れってんだ。


『というか、お前』

「ん」

『今のでビビって漏らしたとか言わないよな?』

「…………」


 言われた瞬間頭が真っ白になった。恐る恐るお尻に手を当てる。温もりは………………無い。


「せ、セーフだ……!!」

『おおおっ!!』


 何故か盛り上がる俺と神。

 いや、油断するな。今ので寿命が縮んだのは確かだ。

 これ以上は一刻の猶予も与えられていない。


 俺は信号が赤に戻ってしまう前に、極力ケツに刺激を与えない素敵ステップを繰り出し、最速かつ最小限のロスで渡り切る。

 ふぅ……なんとか上手くいったぜ、という達成感に浸ることも許されない。ふぅ……という溜め息でケツからもふぅ……しちゃうかもしれないからな。引き締めろ。気持ちも穴も。


 と、余韻に浸ることも許されず、常在戦場の戦士のような心持ちで歩いていると、不意にポケットのスマホが震えた。

 馬鹿……! 今は、微弱なバイブレーションでも刺激はご法度……!!


 と、ここで俺はスマホを見ずに二度と振動など立てれぬよう握り潰し破壊するのが正解だったのだ。

 しかし俺は愚かにもスマホをポケットから出し、電源を切ろうと画面を見てしまう。それが運の尽きだった。どこまでもトイレに向かうために他の全てを捨てられない俺の甘さの表れだった。


「こ、これは……!?」


 衝撃。メールの主は通称ツンちゃん。デレないツンデレと評判の美少女であり、俺の“同業者”だ。非常に不本意ながら。


――鬼が出た。私ひとりじゃ無理。助けて。


 ツンちゃんのくせに、珍しく殊勝なメール文から切迫した状況だと分かる。俺も切迫してるんですけどね。


 この鬼っていうのは、俺達の敵だ。

 俺は今俺にとりつく神様から年末ワゴンセール並みの大盤振る舞いで授けられた最強(苦笑)の力を有していて、否応なしに、人知れず、鬼とかいう化け物共と戦う宿命を背負わされてしまった。


 ちなみにこの鬼、初めて出会った奴以降鬼らしい鬼には出くわしておらず、鬼っぽいわけじゃない。

 けれどなぜ、俺達が鬼と呼ぶかというと……単純に呼びやすいからだ。平仮名換算なら二文字。日本人だからスマホの変換でも簡単に出てくる。これが変にモンスターなどと言えば五文字必要だし、他の漢字の名前だと変換ミスする可能性も出てくる。合理的なのだ。世の中は合理的にできている。


 そして、ツンちゃんは俺が嫌々鬼退治をしている時に出会った同業者、仲間ってわけだ。


『おい、どうするんだ人間。鬼を倒すのはお前の使命だぞ』

「勝手なことを言うな。俺は今別の鬼と戦ってんの。俺の身体から今か今かと出ようとしてる最強の鬼と戦ってんの」

『まさか無視するなんて言わないよな? ツンちゃん、死んじゃうかもしれないぞ』

「無視……したかぁ無いけど、俺だって社会的な死を目前にしてるわけ! 高校生にもなって漏らしてみろ! 明日からの渾名は“おしりガバガ虫”だぞ!?」

『人間、結構余裕あるよね。そんなクソしょうもないこと考えるくらいだし』


 神様に呆れられてしまった。クソイベントの時にテンション上げるハエみたいなやつのくせに……!!


『やれやれ仕方ないなぁ人間くんは』

「なっ……そんな便利アイテムを出す前振りみたいな……!?」

『しょうがないからこの我が現状を覆す素敵な力を分けてあげてもいいよ』

「マジですか、神様……!!」


 まさか俺の便意を解消し、ツンちゃんを助け出す素敵な力が……!?

 欲しい! 欲しい欲しい!


『その力の名は……“アレテレポート”!!』

「アレテレポート……!?」

『簡単に説明すると、お前のアレの穴にワープゲートを作り出す能力だ』

「ぬぬぬっ!?」

『そして、そのワープゲートは、お前の自宅のトイレに繋がっている……ここまで言えば分かるな?』


 つまり、俺がワープゲートを開いておけば、今クソをバーストさせたとしてもズボンは汚れず、家のトイレにクソが浮かぶだけ……そういうことか!?


「なんだ、その素敵な能力は……今限定って感じがするけど」

『今必要だと分かっているだけ優しいだろ? いつ使うかも分からない能力を売りつけようってわけじゃないんだ』

「確かに……って、今お前、売りつけるって言った?」

『うん』

「有料?」

『……うん』

「ばっか! お前ばっか! お前お前お前ー!!」


 この神、足元見てきやがった!!

 今俺に宿る最強(泣)の力と未来永劫鬼と戦い続けなければいけない宿命とやらはただで押し付けてきたくせに!!


『だって、これは絶対必要ってわけじゃないし』

「必要だろ……今必要だろ……!!」

『前に人間に上げた力は、謂わば世界を救うための研究予算とか、どういう感じの、お金が出て当然の力だったわけ。でも今回のは違うよ。ソシャゲのガチャ並みに不要なやつだから』

「ばっ……ふざけんなっ!! ソシャゲのガチャは空気みたいなもんなんだ! 引いて当たり前、引かなきゃ死んじゃうんだぞ! それに、運営会社はそのガチャで飯食ってんだ!」


 ガチャを馬鹿にしやがって……ガチャはなぁ、ガチャはいいんだぞ! 楽しいんだぞ!

 だから寄こしなさいよ! つべこべ言わずアレテレポート寄こしなさいよ!!


『こっちだって商売だからねぇ~? まぁ、最初の力は基本プレイ無料の範疇。快適にしたかったら課金してねってハナシ』

「ぐぅ……基本プレイ無料とユーザーを抱き込んでおきながら事実上課金キャラ必須のソシャゲ運営の本音みたいなことを……!」

『でも、ちゃんと対価を払えば必ず欲しいものが手に入るんだよ? 優良じゃない?』

「ぐぅ……課金石限定最高レアキャラ交換チケット、あるいは天井システム……!!」


 こいつ、ユーザーを廃課金に落とすためのアレコレを色々と握ってやがる……!

 俺はこのガチャ神様にとっては金を落とすカモでしかないってことか……!?


「ち、ちなみに値段は……?」

『うーん、そうだなぁ。半分でいいよ』

「半分? なんの……」

『寿命』

「バッ……!!」


 寿命半分!!?

 こいつなんで急に死神みたいな取引してきてんの!?

 ウンコを自宅にワープさせるだけで寿命半分取られるの、俺!?


『大丈夫。一度課金したら何度でもワープさせられるから』

「お前そういう問題じゃないんだよっ!!」

『安心して。削られるのは老いた後の寿命だから、突然老けたり、老ける早さが倍になったりもしないよ』

「そんなこと…………そうなの?」

『後、今なら自動おしり洗浄機能もついてくるよ。アレをワープさせるだけに留まらず、お尻を拭く必要もなくなるよ』

「うわ……それ魅力」


 つまり、俺とこのテレビショッピング神が出会ったきっかけの状況も今後一生回避できるということか……!!

 い、いや、でも、寿命半分はちょっと、流石に――


『じゃあ、仕方ないな。今なら1人分のお値段で、もう1人無料にしてあげちゃうよ』

「な……んだと……!? それって、料金が寿命の4分の1になったりは――」

『しない。あくまで別の誰かの料金をお前が肩代わりする形になる』

「くはーっ!!」


 商売上手!! 嫌になるくらい商売上手!!

 いや、でも、値段が値段だ。寿命の半分はデカすぎる。冷静に考えたらクソをワープさせるだけだぞ!? 俺がワープできるようになるならともかく――と、悩む俺を煽るように、再びスマホが震えた。


 またツンちゃんから――今度は着信だ。


「おい、大丈夫か」

『ごめん……もう、無理かも……』

「え? お、おい!?」

『アタシ、最後に……伝えたくて……』

「ま、待て。まだ希望を捨てるな!」

『アタシ……ずっと素直になれなくて、でも……ごめん……アタシ、アンタのこと――キャアアアッ!!?』


 凄まじい爆発音と共に、電話が途切れた。

 たらっと、嫌な汗が首筋を伝う。


『え、マズいじゃん……』


 神も電話を聞いていたようで、焦ったような声を出していた。


『ツンちゃん、助けなきゃじゃん。……しょうがない、ワープなんて自然の摂理を根本から破壊するヤバい能力なんだけど今回は特別に――』

「――寄こせ」

『え?』

「寿命の半分なんてやる! ここでツンちゃんの命が無くなるくらいなら……俺の寿命半分なんて安いもんだ!! だからさっさと力を寄こせ!!」

『あ、で、でも……』

「早くしろッ!!!」


 俺は住宅街のど真ん中にも関わらず腹の底から大声で叫んだ。

 アレももう出かかっていた。パンツくらいは濡らしているかもしれない。


 けれど、それを処理する時間も無い。


『わ、分かった。ほら! 今授けたから!!』

「ッ!! 来た、アレテレポート発動ッ!!!」


 俺の声に応え、尻にワープゲートが展開される。瞬間俺は―――――――






 その後、俺はツンちゃんのもとに駆け付け、彼女を今にも捕食しようとしていた鬼をぶっ殺した。

 鬼はエロ漫画に出てきそうな触手だらけの気持ち悪い体をしていて、ツンちゃんのあれやこれやをモゾモゾとさせていたが、なんとか貞操は守れたらしい。

 さようならR-18。もう一度その気配を見せたら顔面ボコボコにして違う意味のR-18にしてやるからな。


 ツンちゃんは俺に助けられたと知るとわんわん泣き出してしまった。

 そりゃあそうだろう。彼女は俺をライバル視していた。『いつか絶対アンタに追いついて……今度はアタシがアンタを守ってやるんだから! 覚悟しなさいよね、バカ!』なんて日頃から言ってきていたくらいだ。プライドはズタズタだろう。


 けれど、俺も手ぶらでやってきたわけじゃない。ワンワン泣く彼女を落ち着かせるように、頭を撫でつつ言った。


「なぁ、お前。クソを自宅のトイレにワープさせたくないか?」


 殴られた。思いきり殴られた。



 結果報告。


 俺は尻から出るアレを自宅のトイレにワープさせる能力【アレテレポート】を手に入れた。

 俺は【アレテレポート】を誰か1人に分け与える権利を手に入れた――現状まだ権利は残っている。

 俺は寿命の半分を失った。


 俺はエロ漫画出身みたいな触手お化けな鬼を倒した。

 俺はツンちゃんにさらに嫌われた。



 うん、世界は今日も平和だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 食事中に読んでも、セーフでした [気になる点] 食事中に読むものじゃないですね [一言] 主人公が不幸すぎます 救ってあげてください
[一言] 寿命半分は厳しかろうよw
[一言] 臭っw これだけ言いたかった
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