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序章【記憶】

 私の人生における友人は少ない。その内の一人に、明確な名も持たず、生も死も分からず、今後、再び会えるのかどうか分からない者がいる。女性だ。私という弱く頼りの無い存在を、いつ頃からか分からない時から支えてくれ、道を照らし、生きることを放棄させなかった存在。


 人間は皆、各々の環境でそれぞれの日常をそうとは知らずとも必死に生きている。そこには楽と苦、快と不快、希望と絶望、歓喜、憤怒、悲哀、恋情、希求、言葉では言い表し切れ無い程の数多くの感情、事情、過去と未来が含まれている。それは地球上の物質の全てを砂粒に変えた数よりも、きっと遥かに多いのだろう。踏み付けることも容易い、砂粒のように小さく儚く、そして紛れやすい、いわゆる人生というものを、当時の幼い私は私なりに懸命に生きていた。懸命に生きていることにも気付かぬ程、その年齢は小さな数で、ただその数を大きくしたいと漠然と希いながら、置かれた環境という箱の中で私は生きていた。呼吸をしていた。


 その私を支えてくれた存在。彼女とは、まるで呼吸のように共にいた。いつからか分からないまま、息をするように自然に二人、そこにいた。そう、私にとってそれは、ごく当たり前のことで自然なこと。だから私は誰にも彼女のことを告げたことは無かった。


 息が出来る。一般的であるその事象を、敢えて人に言うようなことをするわけが無い。ゆえに私は、長い間、気付かぬままだった。それが、誰もに起こり得ることでは無いと知るまで、私には多くの時間が必要とされた。だが、それは私が彼女の存在と本当の意味で出会った当初から換算した場合の話で、二度目の出会いから考えれば、さほどの時間は要されなかった。そして、彼女との会話を記憶し始めたのは、その二度目の出会い以降になる。


 名を持たない彼女は聡明で、物事を冷静に見据え、正しさと芯の強さの下で言葉を放った。反面、時に我が儘でもあった。彼女は成人した女性のようでもあり、永遠の少女のようでもあった。その内包された相反する性質が彼女を彼女たらしめ、私を救い、私を困らせた。私は彼女に憧れると同時に敬意をも持ち、最も近しく親しい友人としての付き合いを続けていた。


 ――私は、名を持たない彼女に名前を贈った。「小さな姫君」と。


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