2歳の春5
土の壁を壊すと丁寧に中から取り出していく、それは黒く炭化した炭であった。
炭焼き窯が完成し3日前に炭焼きを行い窯の熱が冷えた今日が初の取り出しの日であった。
窯に入れた時より少し小さくなった木材が1つまた1つと外に出されていく、窯の中の炭がすべて取り出されると残っている灰も箒で掃き出され新しく炭材が窯に入れられていく。
取り出された炭は水分が抜け元の重さの1割ほどと非常に軽くなる。
薪に比べ高温で燃え酸化鉄として存在する鉄鉱石の還元剤として鉄需要の増加とともに炭の需要も増えており、製鉄と鍛冶において必要不可欠な存在となっている。
できた炭は鍛冶師のバーザクの元に持って行き使われる。鍛冶師であるバーザクにとってこの村に来ての鍛冶仕事は壊れた鉄製品の修理が主な仕事となる。
今まで村に鍛冶師がいなかったため町の鍛冶屋に持って行くか新しく買いなおそうとすると、町まで3日ほどの距離にあるため不便であった。
鍛冶小屋から水車ハンマーのリズミカルなカンカンカンと音が鳴り響く。
それから何度か炭焼きを行い祖父を含めた数人が町に小麦や炭などを売りに行き村に帰って来た。
「今回はバーザクに言われていろいろな買ってきたぞ、鉄のインゴットにこの村では育ててない野菜だ」
「父さんインゴットはわかりますが、野菜の育て方はわかるんですか?」
「大丈夫じゃ、ちゃんと商会の奴に紙に書いてもらっておる。村の衆に説明して種を配ればすぐに栽培できるだろ」
「わかりました、村人たちには私から説明しときます。近いうちに第2村にも種と説明をしてきます」
インゴットとは精錬された金属を一塊とし保管するための物で型に入れて鋳造し、決まった重さを用いて商取引なんかに利用し鍛冶師はインゴットを様々な製品に加工していく。
今回買ってきたインゴットは直径5㎝長さ130㎝ほどで約2㎏の鉄の棒である。
今までと違って今回はいろいろな物を買ってきたのは町に住んでいたバーザクからこの村では町で新しく売っている物が無く不便であると指摘されたためだ。
バーザクの話ではこの数年でいろいろな物が売り出され、町では新しい料理なんかもあるとのことで食生活も大きく変わっているとのことだ。
今回買ってきた種は父が村人達に紙に書いてあることを説明し各家庭の菜園で育てる事となった。他にいろいろな話を町の商会で聞いてきたようで、後日村の主だった者達や祖父といろいろと話し合ったみたいだ。
「ハウンド男爵領の今後の方針について説明する現在この領内にはこの本村と第2村があるが、両村では森を切り開き耕作地を広げてきたが本村の開拓はここまでとして、第2村の開拓と新しく海辺に漁村を作ることとし次男のノヴァが村を管理するものとする。また本村をアキタ村、第2村をシバ村と命名する」
話し合いの翌日父が村人達を集めて今後の領の方針を説明した。
内容としてはアキタ村の耕作地の拡大はここまでとして20世帯ほどのシバ村の耕作地の拡大と新しく漁村を作り、村の次男3男以降の子供達の入植先を用意することだ。
漁村を作るということだが町で海で獲れる小魚を釜茹でし、茹で上がった小魚を絞れば魚油が採れ搾りかすは乾燥させ畑に撒けば収穫量が大きく増えると町で教わり領内でも漁をしようという話だ。
シバ村については農閑期に応援に行き耕作地を広げ、漁村については村に隣接する川を下り河口を候補地として調査を行う予定のようだ。




