2歳の春4
今日も朝から試作肥料に特に変化が無いことを確認し大麻を使った糸作りを続けて正午を過ぎたころ、7日前に村を出た祖父達が村に帰ってきた。
町には6人で行ったのに帰ってきた人たちの数は7人で、父に似た知らない顔の人が増えていた。
「久しぶりだなセイム、今日から世話になるよろしくな」
「バーザク叔父さんこちらこそよろしく、領内には鍛冶師がいなかったから助かるよ必要な物があったら言ってくれ可能なら用意するから」
「おうわかった、必要な物は持ってきているが足りないものがあれば頼む」
増えてた1人は新しくこの村に来た鍛冶師のバーザクで、祖父の弟で父の叔父にあたる。
領内には鍛冶師がおらず必要な金物は町に買いに行っており不便な状況が長く続いていた、町で鍛冶師をしていたバーザクが去年妻を亡くし子供達も1人立ちしているためこの村に来て鍛冶師として移住してくれる事になった。
「そっちの小さいのはセイムの子か」
「初めましてルークです」
「小さいのに挨拶できるとは兄貴の孫にしては立派だな、他の奴らなんて鼻水垂らして走り回ってただけだからな」
「うるさいわいと言いたいが、ルークは小さいながらも人の話をよく理解していてわしの子や孫の中では珍しいほど利口じゃ」
そんなやり取りがあった後、今回町で買った物を倉庫に入れていく買ってきたものは農耕具や鍋などの鉄製品と岩塩である。
それから数日後、鍛冶には炭が必要ということで男達は炭焼き窯作りを行っていた。
ハウンド男爵領には広大な森が残っているが、他の領地では製鉄や造船のために木材を伐採しすぎて森林が減少し木材や炭の値が年々上がっているとバーザクが父に伝え村の産物として炭作りを行うと急遽決まった。
そんなある日、今日も糸作りをしている私にバーザクが寄ってきた。
「おっ懐かしい物を使っているな、家の手伝いか?そんな紡錘でするよりも糸車を使えばいいだろ」
「糸車?村では糸作るときは皆これを使っているよ」
「いつから売ってるのかは知らないが町では普通に売ってるぞ、あぁそうか町にはいつも男達しか来ないから糸車とかの道具には興味を示さなかったんだろうな。俺が糸車を作ってやろう」
それから3日後バーザクが糸車を作り私に手渡してくれた。
糸車とははずみ車と呼ばれる車輪がついており、ハンドルを回すとはずみ車が回転し外縁にあるベルトで動力が伝えられ紡錘が回転し撚られた繊維が糸となり紡錘に巻き付けられていく物だ。
早速糸車を試してみることにしハンドルを回し大麻を撚りかけていくと今まで何をしていたのかと思うほどの速度で糸が出来ていく。
「ありがとうバーザクさん、これなら今までよりも早く糸が出来るよ」
「おういいって事よ、村に糸車が無いなら何台か作ったほうが良いのかもしれんな」
「そうだね、あっでもこれだと片手しか使えないからクランクを付けて足で踏んで回せるようにしたら両手が使えて便利だな」
「なるほど足で使えるようにすれば両手が使えるか、しかしクランクを知ってるとはガキにしては物知りだな」
「水車小屋と製材所に行ったらあるからね」
前世でもクランク機構はいろいろな分野で使われているが13世紀トルコの発明家アル=シャザリが揚水機械に用いて最初にクランクシャフトを開発したとされている。
中世ヨーロッパでの製材は水車を用いて回転運動をクランクにより上下の往復運動とし鋸を動かした。
日本では楔を打ち込んで粗割りした物に斧や鉋を使用し仕上げていた。
その後14世紀に伝来されたとされる大鋸と呼ばれる大きな鋸を二人で用いていたが水車を動力として使う欧州とは製材速度が大きく違っていた。
しかし大鋸にも製材時に出る大鋸屑が少ないという利点はあった。
日本では明治に入るまではクランク機構が無く、明治に入り足踏み脱穀機や旋盤が登場していく。
後日足踏み式糸車を完成させたバーザクは村人に手渡したところ、今までと数倍の速度で糸が出来るとの評価で増産を依頼され男達も何人かが糸車製作を手伝うこととなった。




