2歳の春2
キール歴198年4月
「それじゃあ行ってくる」
「クルト、ノヴァ、爺ちゃんの言うことを聞いて一人で行動するなよ」
「「わかったよ父さん、行ってきます」」
兄達がそう言うと背に荷を積んだ10頭のロバを率い祖父と兄達の他に3人の村人達の1行は村の囲んでいる木の柵にある唯一の門から出て行った。
今日は先月採れた羊毛などを含めた村の産物を町まで売りに行くため、村を木の柵で囲んでいる唯一の出入り口である門に見送りのために来ていた。
今日は何をしようとか考え村の農地に来てみた。
数日前に耕起された農地では女性や子供達が麻袋に入った大麦を無造作に下手投げで土に蒔いていた。
前世の日本での農業のイメージと言えば耕作された土に畝を作り種を蒔き水をやるものだが、村の農地では畝などはなく種を無雑作に蒔くだけである。
日本は降水量が多く水はけが悪いため畝を作るのが基本だが、海外の多くの国では畝などは作らずその分の手間を省いている。
種を蒔くのも日本では土の中に種を入れ土を上から覆い被せることが多いが、広大な土地で農業しているアメリカなどでは飛行機で種をばら撒いていたりする。
種を土に入れることによって発芽率などが上がるがその分の手間がかかるため数で補うという考え方だ。
村では10a(10m×10m)あたり20㎏の種を蒔いているが前世日本では10㎏前後と倍の差がある。
発芽率の関係もあるが除草剤などの農薬が無いため密になることで雑草などが生える隙間をなくすためだ。
大麦は25ha(2500a)ほど耕作する予定で5,000kgほどを数日かけて蒔く予定だ
女性や子供達が種を蒔いている時に男達が何をしているかというと、木の伐採や馬を使って運搬をしている。
村では専属の木こりはおらず手の空いた男達が伐採を行い、運搬した木材は乾燥され燃料としての薪や製材して板などに使用する。
特にすることも無く幼い体で何か出来る事があるか考える、本来なら幼い自分は遊んで過ごすべきなんだろうがせっかく転生したんだ前世の知識を使い村や男爵領に貢献したいと考える。
思いつく内政チートの定番と言えば麹、高炉、石鹸、火薬、紙、印刷、ノーフォーク農法、船、コンクリートといったところか。
醤油や味噌を作るのに必要な麹は米から作る方法は調べたことはあるが、転生してから麦類しか見たことが無いから作れるのかどうかと独特の味が受け入れられるのかという問題。
高炉は前世でも古くは紀元前からあるような物だこの世界でも既にある可能性と、鉄鉱石と石炭の鉱山が近くにあるのかという問題。
石鹸は動物性脂肪から作れば臭いがあるため需要がそれほど高くなく衣類の洗濯には木の灰が使われ、12世紀には植物油のオリーブを使って大量生産されていたのでこの世界でも既に大量生産されている可能性がある。
火薬は戦ってる訳ではないので必要ないのと炭は手に入るが硝石と硫黄の入手方法が現時点はないが、花火を作れば売れるのかもしれない。
紙は羊の皮から羊皮紙を作って町に売りに行ってるのを確認しているが、植物から作った紙があるのかはわからない。村には羊皮紙で作った聖書ぐらいしかないからだ。和紙の作り方ぐらいしか知らないが原料となる繊維質の植物は大麻ぐらいしか見たことが無い。
活版印刷は印刷する紙が無いのと、印刷したところで使う場所がないから村では意味がない。
ノーフォーク農法は羊毛需要の増大にともなって冬に家畜を処分せずに家畜を維持するためで、よく勘違いされているが3圃式と比べた場合の穀物生産高は低く羊毛が換金できるから有名になったのだ。ノーフォーク地方では土中に泥炭層があり犂で何回も耕起することによって効果があるわけで、ただカブを植えればいいというものでは無く、6回以上犂を行いコストの回収に20年以上かかると言われている。
川はあっても船を使う場所が無く、領内は海に面しているが開拓がそこまで進んでなく現時点では必要ないが川を船を使って運搬する可能性もあるので将来的には必要である。
コンクリートは領内で石灰が採れないのと使用場所が特にない。建物に関しては土と粘土で十分であり灌漑水路は現在ないが将来的に欲しいが木板で十分代用できる。
今できることを私が考えたのは肥料作りだ3圃式農法によってマメ科のクローバーを放牧地で育てることによって、根粒菌の働きによって土中に窒素が固定され供給されるがその他の栄養分がないからだ。
肥料の3要素である窒素・リン酸・カリウムをバランスよく供給できる鶏糞で考えていこうと思う。
村では家畜の糞を集め耕起前の畑に撒いてはいるが集めた糞をまいているだけで発酵が不十分だと考えられる。
適切な肥料を行うことで収穫量の増大が見込め、特殊な技能や道具が無くても出来る事だ。
必要な物は家畜の糞・広葉樹の落ち葉・麦わら・もみ殻燻炭で、家畜の糞と落ち葉は簡単に入手できるがもみ殻燻炭だけが村にはないので作る必要がある。
とりあえず肥料作りを始めようと思い家畜の糞から集めることにした、村内に鶏糞が落ちてるので鶏糞を集めることにした。
その日の夕食で父に作りたいものがあるので必要な物を頼むことにした。
「父さん作りたいものがあるんで、麦わら・麦のもみ殻・古くなって底の抜けた樽が欲しいんだ」
「ルークが何かを頼むのも珍しい、何に使うのかはわからないがもみ殻は脱穀した時に捨ててるから無いぞ。わらと底の抜けた樽は倉庫に何個かあったから古いのは自由に使っていい。」
「もみ殻が無いなら製粉時に出るふすまでもいいんだけど」
「ふすまなら鶏の餌ぐらいにしかならないから持ってっていいぞ」
「ありがとう、樽は1個でいいからもっていくね」
次の日に倉庫に麦わらと樽を取りに行き、水車小屋にふすまを取りに行った。
ふすまは小麦を製粉する際に出るので水車小屋付近で捨てられることが多く鶏の餌ぐらいにしか使い道がない。
ふすまを回収し母に鍋で炒ってほしいと頼み、黒く変色したふすま燻炭を持って母に礼を言い移動した。
底の抜けた樽に家畜の糞・落ち葉・麦わら・ふすま燻炭を混ぜ合わせる。樽の中身を足で踏みたいが、幼い体ではできないため棒でつくことにする。水を汲んできて樽の中に水が下から出るまでかけ続けた。小さな桶に水を入れ何回も運んでいるのでこの作業が1番の重労働だった。
翌日は朝から肥料がどうなった見に行った。特に見た目での変化はなく近くまで掌を近づけてみると特に変化は見られなかったが2日後に熱を持ってることを感じ、しばらくは様子を見ようとこのまま触ることなく放置しておくことを決めた。




