都落ち
キール歴212年2月
設立して半年も経っていないセトラー商会の売り上げは焼うどんのフランチャイズ店やソースの販売は順調であり、今年からは本格的にボルドー液の販売も本格化する予定なので我が商会の将来に不安などなこの時は抱いていなかった。
2月となり今日は王都ライントラン商業ギルドの半年に1度行われる定例会議が行われており、普段の会議ではそれほど議題などはなく派閥間での小競り合いがほとんどで、無駄な時間を過ごす行事みたいなものと聞いていたが今日の会議では大きく違っていた。
「待ってください、それはいくら何でも無茶苦茶ですよ。そんな金額払えるわけないじゃないですか」
私がそう言うと、商業ギルドの会長であり木材を取り扱うウッディー商会を経営するスミス・ウッディーが私に視線を向け。
「セトラー商会さん発言するときは議長である私の許可を取ってください。次同じような事をすれば出て行ってもらいます。では決を採ります、この半年以内に新規出店をした店に金貨100万枚の税を課すことに賛成の方は挙手を」
出店半年以内の商会には100万Rの税を課すという無茶苦茶な議題は9割以上の賛成多数によって成立し、課税対象となる商会は全て店を畳むこととなった。
どうしてこのような事態になったのかというと、この王都の商業ギルドは長い間3つの派閥によって運営方針が決定され、派閥の利害関係によって邪魔になる商会は潰されてきた過去があった。
派閥に属する商会は派閥の傘下に入る為に今まで売り上げの何割かを支払っていた。
私はその慣習を知らず派閥に属するように交渉に来た使者達の高圧的な態度に腹を立て、3派閥いずれにも属することを拒否した結果がこのような事態となった。
3派閥に属する者達は長く王都に店を構えていたところに、田舎から出てきた私の様な若造が順調に売り上げを伸ばしていることにも不満があったみたいで、王都から排除する流れとなり今回の議題となった。
3月まで店を営業していればギルドに納税する必要があり、2月までに店を畳み王都から出ていけば払う必要はないということで私も店を畳む決意を固め他の町に移住する事を決めた。
「私は王都を去り別の町で新しく店を開こうと思うよ、エドや他の皆はどうする」
「僕はルークに付いていくよ、自分が今まで住んでいた町がこんなバカげたことするとは思っていなかったからね」
エドは私について移住することを決め、フランチャイズ契約を結んでいた焼うどん屋を経営していた者やエドの手伝いをしていた者は、家族がいる物は町に残り独身の者は私についてくることとなり5人で移住をすることとなった。
王都を去る数日前に教会に挨拶に行くと出来上がっているボルドー液を教会が全て買い取ってくれたため、資金に問題はなかった。
「まさかこのような形で町を出ていく事になるとは思いませんでしたよ」
「そうですね、自分も正直1年たたずに王都を去ることになるとは思いもしませんでしたよ。教会には無理を言って出来ているボルドー液を買い取って頂き感謝しています」
「移住地が決まれば近くの教会にでも連絡していただければ、行商人の方にお願いしてボルドー液を買い取らせていただきます」
「とりあえずバラクーダ男爵領に向かおうと思っています、男爵からは今回のギルドの方針が決まった後に商会に誘致の話があったので」
移住先を考え店舗の片づけを行っていた時に、ボルドー液を買い付けに王都に訪れていたバラクーダ男爵がセトラー商会の店に入り。
「この店にべと病に効くボルドー液があると聞いて来たのだが」
「すみません、ボルドー液は全て教会に売ってしまいこの店に在庫はありません。この店もあと数日したら閉店の予定です」
そう言うと理由を尋ねた男爵に訳を話すと。
「それなら我が領に来ないか?小さな領地ではあるがどうかね?」
男爵に領地の話を聞くと、町はなく村が複数ある程度の人口5千人ほどで隣にあるベルゲン侯爵領に農産物を売るなどしていたが、小麦の価格が下り収入が減っている状況で、べと病により特産のワインの生産量も減って困っていたが、私の話を聞き保存の効くソースの将来性を考え男爵領で作り他の領地に売らないかと誘われた。
まだ2月で風が冷たく寒い日であるが王都を去る日がやってきた。
馬車3台に荷物を載せ、王都から200kmほど離れたバラクーダ男爵領に着いたのは出発してから13日目の事だった。
まずは男爵の屋敷を訪れると。
「本当に我が領に来てくるとは有り難い、商会の方が泊まる家などは無いためこれから村の者達を使って早速建てさせましょう。何か希望とかはありますか?」
職人以外の人件費は安いため、1人につき銀貨数枚を配るだけでも男爵領の者達が建設作業に従事することとなり、短期間で私達の家やソース製造工場やエドの工房は完成した。
工場はベルゲン男爵領や他の町にソースを販売することを考え王都では瓶詰めを使っていたが、缶詰での生産を行い、ソースの濃度も複数用意し製造することとなった。
男爵に他にもベルゲン侯爵領までの道に隣接する形で木道の敷設費用をこちらで負担するので交渉をお願いするなどした。
木道に関してはベルゲン侯爵も初めて聞くもので、バラクーダ男爵領である程度敷設が完了すれば視察を行いベルゲン侯爵領での敷設を判断する話となった。
缶詰の生産は夏になりトマトの収穫が始まってからとなるため、ベルゲン侯爵領の町に行き缶切りや亜鉛メッキの特許も申請しておいた。




