2歳の春
キール歴198年3月
「お爺ちゃん、お馬さんがいっぱいあれはなにしてるの?」
「あれは麦の種をまく準備のために、ああやって馬で牽いて土をほじくり返しとるんじゃ。重たくて力がいるから大きな馬たちで牽いとるんじゃよ」
寒い冬が終わり少し風が冷たい春の日差しが降り注ぐなか目の前に映る光景は大麦を蒔く準備のために6頭牽きの重量有輪犂で耕起し大きな土塊があれば男達が鍬・鋤・鶴嘴などの農具を手に持ち砕いていく。
重量有輪犂とは複数頭の馬に牽引され農地を掘り起こし耕起する農機具で、従来の犂と比べると重量が増し両側に車輪がついてるのが特徴で従来のものに比べると深く掘り起こせるように改良されている。
従来のものに比べ複数頭の馬で牽くため小回りが利かず広大な農地を必要とするため農家が共同で運用していく方式になっていった。
2歳になった俺はそんな光景を先代男爵である祖父にいろいろと説明を聞きながら一緒に眺めていた。
祖父が幼い俺にいろいろと説明するのは領内の事に関して父が主に仕事をしており、家の中を歩けるようになった俺があれこれ調べていた時に近くにいた祖父に
「お爺ちゃん、あれ何?」
「お爺ちゃん、これはどうやって使うの?」
祖父にいろいろと聞いていたら暇を持て余していた祖父が説明しているうちに祖父が自分の世話をする事が多くなり一緒に行動する事が多くなった。
しばらくして村内の他の場所を見て回っていると荷車をロバに牽かせて移動している10歳ぐらいの二人の少年がいた。
荷台には甕が載っており彼らが運搬している物の中身は井戸から汲んだ水で、甕を各家庭に運搬しておりそれが彼らの仕事だと。
領内では7歳ぐらいから家畜の世話などの村の仕事などを手伝いが子供達の役割で15歳になると成人として迎えられると祖父が教えてくれた。
前世でアフリカの子供達は何時間もかけて水を運ぶため勉強をする時間が無いって聞いたことがあるが、あれを見たときに荷車に乗せたら一人で運べるだろと思っていた。
この村では頭の上に物を載せて運ぶような非効率なことはせず、ロバ車を使用して運んでいるようだ。
前世でも90年代にはヒッポウォーターローラーという名の転がすことのできるタンクが発売され頭に乗せていたころの4倍の水を転がして運べるようになっており非常に効率は良くなっていた。
またしばらく歩き村人の住居の近くに来ると女性が小さな畑を鍬で耕していた。
村人は住居の近くに家庭菜園を持っており、菜園で野菜などを家庭の食事の材料として育てている。
菜園には鶏やひよこが歩き回っており抜いた雑草や耕された土にある雑草を食べている。
村内では鶏は放し飼いにしており小屋などは雨風をしのぐ用に簡易なものがあるぐらいだ。
「歩き疲れて喉が渇かんか?井戸まで行って水を飲もう」
「うんちょっと喉が渇いた」
井戸に行き祖父に釣瓶を使って水を組んでもらう。
井戸は石積みのの井戸で木製の釣瓶が設置してあり、井戸にはゴミが入らないように木板で蓋がしてあった。
前世では井戸の水なんて飲んだことは無いどころか、井戸なんて写真やテレビでしか見たことない気がする。
井戸の水は冷たかったが前世で飲んだミネラルウォーターどころか水道水よりも美味しくはなかった。
祖父に子供でも簡単に水が組める方法がないか聞いてみたら、あると答えられた。
詳しく聞くと鉄製の手押しポンプか古くからあるのだが、お金がなく節約のために釣瓶を使っているのだと。
内政チート定番の手押しポンプについて前世調べた事があるが、構造自体は簡単で紀元前3世紀ぐらいには発明され日本では大正時代に全国的に普及したと記憶している。
戸水を飲み終わり村から近い川に行くと父と兄の2人と村人数名が羊毛を鋏で刈る方法を兄を含めた子供達に教えていた。
ハウンド男爵家では人出が足りず貴族家当主である父も村人たちに交じって領内の作業を行っている。
大人たちは手馴れたもので20分程で1党の羊の毛を刈り、慣れない子供達はいろいろと注意されながら苦戦しているようだ。
刈った羊毛は湯の入った樽に入れて洗われ何回か湯を交換して湯に浸けたまま一晩おき翌日干して乾かすのだと。
湯に浸けた羊毛からは酷い匂いがしたが、回数を重ね洗っていくうちに羊毛が白くなっていくのがわかる。
現在村では生まれたばかりの子羊を除いて約200頭の羊を飼育している。
1頭から2㎏ほどの羊毛が採れ羊毛は一家に4kgほど配り、残りは町に売りに行くため村にとっては重要な産物なんだと。




