episode05.
Episode05.
「叶夢、どうしたの?!さっきいきなり姿消えたからびっくりしたよ!」
叶夢が体育館前に行くとまだ始まってはいなかったようで体育館前で叶夢の同級生達が緊張した顔でザワザワとしていた。まだ人で溢れかえっているというのに星海は直ぐに自分がいないことに気がついたのか、探し回っていたらしい。実に星海らしく、ほんの少し苦笑を零した。
「……ごめん、星海。ちょっと体調悪くなってふらついちゃって」
「えっ?!怪我は?!」
「そんなに心配しなくてもないから。安心して。……倒れる前に助けてくれた人もいるしね」
叶夢がそう言うと少し安堵したように胸をなでおろした後に複雑そうな表情に変わった。叶夢は彼の気持ちは彼から直接聞いていなくとも、十分に伝わっていた。もちろん叶夢にもそれがどうゆう意味なのか分かっていた。しかし、恐らく叶夢の好き、と星海の好きは多少ズレが生じているだろう。叶夢は彼の気持ちを幼馴染として、だと思っている。だからこそ、“幼馴染として”そばにいれなかった、幼馴染なのに自分の体調の変化に気がつけなかったことを悔いているのだと思っていた。実際は全く違うと言うのに。
「そっか……。ならよかったよ。でも、次からは俺を頼って欲しいなって。それに、すぐ叶夢は、無理するから俺心配で……。どんな些細なことでもいいから少しでもいいから、頼ってよ……」
「……わかったわかった。ちゃんと音哉兄さんとかにも頼るよ」
(…………。音哉兄さんよりも確かに俺は頼りないかもだけど……少しは頼って欲しいなぁ)
叶夢が折れたように2人に頼る、と言うとほんの少し星海の顔が暗くなる。それと同時に聞こえた少し苦しげな声。彼女にはなぜ、彼がそんなに苦しげな声をしているのかが分からない。不審に思われない程度に首をかしげながら星海のことを見つめる。星海は暫く困ったように笑う。救いを求めるようにあたりを見渡す。
「……あ、列が動きはじめたから式が始まったみたい、だね。俺そろそろ列に戻るよ」
その救いを求める視線に答えるように丁度入学式が始まるらしく、前方の列が動き始める。それを確認するなり、星海は慌てたように自分の列に戻っていく。叶夢はその背中を軽く手を振りながら見送る。とはいえ叶夢も出席番号順ではそれなりに前の方だ。あとで座る場所が変わると言ってもそこそこ後半の方だったはずだ。そんなことを考えながら列を進んでいくと、いつの間にか次はとうとう自分の番で「おぉう……」と軽く呟く。
自分の番が回ってきて軽く体育館の中を見渡す。思ったよりは全校生徒の数は多くはなかった。そのお陰なのか分からないが思っているよりは頭がぐらぐらしないことに安堵しながらもやはり気を強く持っていないと人の思考にのまれそうになる。入学式が終わるまでは乗り越えよう、と思い気を強く持つために深呼吸をあまり目立たないようにする。とはいえ、周りの人は叶夢が新入生代表の言葉をやる事を知っているのか、大して気にとめることはなかった。いや、むしろ周りは緊張していてそれどころじゃなかったのかもしれない。しかしむしろ叶夢にとってそれはとても都合が良かった。
「これより20××年、××年度第×回フォルクス学園入学式を始めます。新入生ご起立下さい」
最早、テンプレートどうりに入学式は進んでいく。校長挨拶が終わって、PTA会長の祝辞と挨拶―――。式はたんたんと過ぎていき、気がつけばもう、フォルクス学園生徒会会長の挨拶だった。
次だと言うこともあり、叶夢は壇上に目を向ける。
「皆さん、こんにちは。ただいま紹介にあずかりましたフォルクス学園生徒会会長獅堂翔也です。数ある高校の中から我が校をお選びいただき、誠にありがとうございます。皆さんにはこれからも沢山の試練が訪れ、時にはつまずくことだってあるでしょう。しかし、この学園の先生方や先輩方とともに試練を乗り越え、ともに成長していきましょう!ようこそフォルクス学園へ!……えっとこれで代表の言葉すを終わらせていただきます」
そう言い終わると獅堂はほんの少し恥ずかしそうにしながら自分の席へと戻っていく。恥ずかしそうに歩いていたため、足元への注意がおろそかになっていたのか獅堂は躓いてしまった。幸いにも近くの生徒や周囲の生徒は入学式で精一杯で気がついていないようだったが、叶夢は緊張もしていなかったため、見てしまった訳なのだが。彼は少し恥ずかしそうにしながら後ろにあるであろう席へと戻っていく。彼が席に座った事を確認した進行役である教頭が「次は新入生代表泉堂叶夢さん、お願いします」とアナウンスを流す。それを聞いてから叶夢は立ち上がると「はい」と軽く返事をしてから壇上へと向かう。
「うららかな春の日、今日私達計440名はフォルクス学園に入学することをここに誓います。どうか先輩方、先生方、ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いします」
叶夢がそういった後にお辞儀をすると、拍手が起こる。入学式や卒業式、その他諸々の場面でおこるやつだ。しかし、叶夢はその余韻に浸ったりする余裕はなかった。限界だったのだ。叶夢が席に戻ると同時に新入生退場、と言う誘導のアナウンスが会場に響く。ようやく終わるのかと思うと、少し気が楽になる。入学式が終われば狂はあともう帰るだけだ。帰りは少し気が引けるが星海に方を借りて帰ろう―――。そう思いながらアナウンスにみみを傾け、自分の番をまった。とはいえ、叶夢のクラスは最初から数えても早いし、出席番号的にも後ろよりは前寄りだ。遅くない内に外に出れるだろう。星海のことだ。ちょっと先で待っててくれてるんだろうな、なんて思いながらふらつく足を踏ん張りながら体育館から出て行く。
ようやく外に出られた、と思う都同時にぷつりと、糸が途切れたかのように体が倒れそうになる
「あっぶないなぁ、大丈夫?叶夢」
「……う……み、あんまり、良くない……吐きそう……」
「あぁ、もう!すぐ無茶するんだから……。一人で歩ける?」
「ん……、大丈夫……。帰り、肩貸してくれれば」
「……貸すに決まってるじゃん。当たり前でしょ……。それに、言ったでしょ、いつでも俺を頼ってって」
叶夢が倒れそうになると同時に星海が支える。叶夢が顔を上げると彼の心配そうにしている顔が目に入る。叶夢がか細い声で答えると、やっぱり、と言う顔をしたあとに母親のような口調で頬を膨らますと、体を支えながら叶夢の体を起こす。星海が1人で歩けるかと問いかければ白い顔のまま大丈夫、と告げ帰りに肩を貸してと言うと少し悲しげな顔をしながら当たり前だ、と言いながら彼女の手をとると、「教室に行こ」と声をかける。叶夢はまだ白い顔で頷くと覚束無い足取りで教室までの道を歩くのだった。