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心の灯  作者: 朔良
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episode04.

 Episode04.


 その後、入学式の入場アナウンスがうっすらと聞こえ、ヘッドフォンを外すと、視線をあげた。そのとき星海と目が合い、へらりと笑いながら小さく手を振ってくるので、叶夢はため息を吐いた後に小さく手を振り返す。

 その後すぐに列が動き始めると、星海はあわてて追いかけ始める。叶夢は周りの歩調に合わせることなくゆっくりと歩き始めた。と言うのも、あまり気分が良くなかったからだ。

『だるい』『めんどくさい』『新入生だからってめんどくさいよねぇ』

 と、様々な心の声が聞こえてくるからだ。頭に響くように聞こえてくるため気分が悪くなるのだ。特に人が集まっている場所では。なので叶夢自身も人の集まっているところにはあまり行きたくなくて、けだるさが体をおそった。一瞬、上下左右が分からなくなり、眩暈がしたのだ、とわかった時には地面に倒れる寸前だった。このまま倒れるのだろう、そう思って静かに叶夢は目を閉じた。

「だ、大丈夫ですか?」


 そんな声とともに、倒れるかと思った体は何者かに、支えられ、床の冷たさではなく、人の温もりを感じる。ゾロゾロと叶夢達を人々が抜かして行ってしまう。

 誰だろう、なんて思いながら、顔を上げると見知らぬ男子生徒の顔で、叶夢のことを心配気な顔で顔をのぞき込まれていた。顔を上げたことにより、彼の目と視線が絡み合う。その瞳は動揺で揺れていた。なんでそんなに動揺するほど、心配されているのかわからず、思わず首をかしげかけた時、不意に心の声が聞こえる。(顔真っ青だ、大丈夫かな、心配だな)と。心の奥底から心配されてしまい、そんなことに慣れていない叶夢は目を見開く。なんだか、ムズ痒くも感じる。暫くそのまま真意がわからず、じっと見つめる。

「え……っと。あの……」

「……あぁ。私なら平気です。……ちょっと貧血気味で。……えっと……」

「な、ならよかった、です。あ、俺の名前はさかき 祈里いのりって言います」


 彼のほんの少し困惑した声で、現実へと引き戻され、頬がほんのり赤く染まっていることに気が付き、心の中もだいぶ動揺していたのもあり、すぐに見つめあっていたことが原因だと分かる。大丈夫だ、と言いながら身体を起こす。お礼を告げようと思い、名前を知らないことを思い出す。一度言葉を詰まらせると、よかった、と告げた後に察したのか、名前を告げてくれる。別にそんなことをしてもらわなくても読んでしまえば分かることなので、困りはしないのだが、読む手間が省けたのは助かることだったのは確かだったので、礼を述べたあとに自分も名乗った方がいいと思い、名前を告げた。

「……ありがとうございました。榊くん。……私は泉道 叶夢です。」

「叶夢ちゃんね、うん。俺もう覚えましたよ!ほら、手を貸しますので、体育館に行きませんか?入学式遅れてしまいますよ」


 彼に言われた通り、確かに少し急がないと入学式が始まってしまいそうだ。まだ廊下の奥の方に生徒の最後尾が見えるが、恐らくあれより遅くなってしまってはいけないだろう。

「……そうですね、もうそろそろ始まるみたいですね、体育館の中もざわついてるんで」

「……ここから分かるんですか?」

「そりゃね。この学校の広さくらいなら聞こえるよ。みんなの心の声。さっきも榊君の心の声聞こえたしね」


 話しているだけで、彼はいい人だと痛感させられる。叶夢は少し悩んだ後にわざと印象が悪くなるように口を開く。これ以上自分に関わらせて、彼に嫌な思いをさせたくなくて。現に、ちらりと彼の顔を見ると、かなり動揺していたし、聞こえてくる心の声も(え……?なに、これ何かの冗談……?)と、かなり動揺しているのがわかる。

「信じてない?冗談なんかじゃないよ。こんな下らない冗談なんて言わない。わかったら榊君も私と距離置いたら?……それに……、心の中なんて読まれたくないでしょ?」


 彼の心の中の疑問に答えるように煽るような笑みを浮かべながら踊るように一歩、二歩、三歩と前に出ると煽った目線で榊を見上げる。心の中を読まれたくないでしょ?と言いながら彼の心臓部分に人差し指をとんっ、と軽く叩くように置いた。目線は煽ったまま。

 心の内に秘めていた質問に答えられた榊は目を見開き、瞳を揺らした。嘘じゃないことがわかったからだ。あまりに信じ難いことだったのか、榊は叶夢から目を逸らし、口元を手で抑える。言うべきかいうまいか、悩んでいたのだ。

 それを読み取った叶夢はそっと彼から離れ、先ほどの挑戦的な笑みを引っ込めると無表情のまま、ポツリと告げる。

「……分かったでしょ?榊くん私といたらこんなふうに見境なしに心読まれちゃうからね。近付かない方がいいよ。……私、先に体育館行ってる。先生には私から報告しておくよ」


 そこには、感情なんてこもっていなかった。ロボットが言葉を紡いでるかのように。その声で、榊はハッとする。傷つけてしまった。そう思った榊は慌てて叶夢の後を追い、優しくそれでも引き止めるように腕をつかむ。その刹那、叶夢の心に流れ込む。感情(ごめんなさい)が。叶夢は一度驚いたように目をほんの少しだけ動かした後に榊に向き直る。

「……待ってください!」

「……榊くん。言ったよね、私に関わらないでって。傷つくのは榊君だから」

「────っ?!……れも……」

「……え?」

「実は、俺霊感持っているんです。昔から……で」


 榊は、叶夢から向けられた瞳に一瞬、たじろいだ。明らかにその瞳には先程と違い、敵意が込められていたからだ。それも束の間。言わなきゃいけない────。今言わなければ、後悔する気がして気がつけば、榊は叶夢に、いつの間にかずっと隠していたこと、みんなには言っていないことを口にしていた。

 ちらりとそちらを見やれば、相も変わらず無表情だった。

「……だから、何なの」

「……ごめんなさい。それだけ、何です」

「嘘は言ってないって分かってる。そんな悲しそうな声にならないでよ、口の中がしょっぱくなる」


 叶夢の声は冷静で、何も感じていないようで、それが榊には酷く悲しげに見えた。だから、彼女に寄り添いたかった。幽霊が見えるのだって本当だし、昔幽霊が見えるだのお化けがいるだの、変なのがいるだの言って、忌み嫌われたり、気味悪がられたり、何度も病院に連れていかれた。その時は理由がよくわからなかったが、今は分かる。ここは人に合わせて頷いて生きていくしかないのだ、と。見えているものを見えないふり。

「叶夢ちゃん、僕も人に理解されなくて……」

「私はわざと気味悪がられるようにしてるの。どうせ、私の力を知った時、離れていくんだから。……急がないと本当に入学式に遅れるよ。私、遅れられないの。悪いけど本当に先に行かせてもらう」


 叶夢の声は、その時ばかりは本当に悲しげに聞こえた。無表情だったというのに榊には泣いているように見えた。実際には泣いてはいないのに、叶夢の声はほんの少し悲しげだったからなのだろうか。どうせ離れていく。その感情は今までの経験からなのか。真意は全くもってわからない。

 彼女は話しすぎた、という顔を少しした後に、逃げるように榊から離れて、体育館へと向かっていった。榊は今度はそれを止めることなく見届けるのだった────。

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