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便利なタブレット

作者: 海 潤航

政府は高齢化対策の為にタブレットを使う政策を打ち出した。


山間部や過疎地のおじいさん、おばあさんの為にタブレットを配り、買い物や病気の時の連絡方法に使おうというのだった。


この政策を受けて、厚生省は民間から優秀な人材を集めてチームを作る。


そのチームのチーフがヒロシ君だった。


ヒロシ君はこれまで工学系で研究を続けてきたのだが、努力の成果が実り、今回の事業のチーフに抜擢されたのだった。



「大体試作品が出来たぞ」


ヒロシ君は、大きく深呼吸をする。


助手のノボル君も興奮気味で話す。


「チーフ、すごいタブレットが完成しましたね。今回の苦労は、映像のフォノグラム化でしたが、見事クリアーしました。すばらしい」



「そう、今までのタブレットは映像だけで、テレビ電話と変わりなかったのですが、今回は映像がフォノグラムとなって、タブレットの前に現れるのですから、おばあさんなどは喜んでいただけると思います」


「そのとおりですね。一人暮らしのおばあさんなどは、いい話し相手になると思いますよ。それでは、この試作品をどうしますか」


ヒロシ君は少し考える。


「そうだ、私の母さんも山の中の過疎地で一人暮らしなのだ。まずテストケースに、私の実家で使ってみよう」


「わかりました。すぐ手配します」


助手のノボル君は、いろんな所へ手配を開始した。




福島の山の奥にある過疎地の村にヒロシ君は着いた。


「おかあさん、ただいまー」


奥から腰の曲がったお母さんが出てきた。


「あれまあ、ヒロシ。よく帰ってきてくれたねー」


お母さんは、大喜びだった。


ヒロシ君は高齢出産でうまれた一人息子だ。なのでお母さんは、もう70歳を超えていた。


「懐かしいなー、高校を卒業して18年間の間、一度も帰ってこなかった。ごめんなさい」


ヒロシ君の目には涙が浮かんでいた。


「いいんだよヒロシ。電話も手紙ももらっていたし、勉強や仕事が大変なのは良くわかっていたからね」


「今日来たのは、お母さんにプレゼントを持ってきたんだ」


そういうと、かばんから薄いタブレットを取り出した。




一通り説明をして、お母さんの前においた。


「操作は簡単さ。具合が悪い時は、このお医者さんの絵のついたボタンを押してください」


お母さんは言われるままに、ボタンを押す。


ブーンと音がして、タブレットの前にお医者さんのフォノグラムがあらわれた。


「はじめまして、医師のタナカです。具合はどうですか」


本物の医師の立体的な映像は、かなり鮮明だった。


「あれまあ、魔法みたいな機械だね」


「そのとおり。医者だけではなく、スーパーの店員さんも、カウンセラーのお姉さんもすぐに呼び出せるんだ」


「ヒロシが発明したのかい。えらいねー」


誉められて、ヒロシは得意になった。


「これで、僕も安心できるよ。お母さんも年だから心配なんだよ」


「そうかい、ありがとうね」


そういって、お母さんは嬉しそうにヒロシ君の手を握ったのだった。




それから、テストをつづけて不具合を改良して言った。


お母さんは言いつけどおり、ボタンを押して身の回りの困った事を解決してくれていた。


「ヒロシチーフ、実験は順調ですね」


「そうだなノボル君。


ただ時々故障ボタンが押されて、何度か実家に戻った。だけどその故障の原因がわらないんだ。


もうすこしテストを続けて研究を続けよう」


首をかしげながら真面目なヒロシ君と助手のノボル君は研究室に入っていった。





テストの成功をマスコミが記事にするため、記者がヒロシ君の実家のお母さんの所にやってきた。


中年の女性の記者はお母さんにインタビューをする。


「息子さんが大変便利な機械を発明されましたね」


「はい、ありがとうございます。とっても便利で助かります」


「これで一人暮らしでも安心ですね」


「そうです。魔法のような機械でみんなが助けてくれるんです。そればかりか、息子も時々会いにきてくれるんです」


「えーっ、フォノグラムでなくて実際の息子さんもですか」


「はい、この赤いボタンを押すと息子が会いに来てくれるんです。


私はそれが一番嬉しくて・・」



記者がタブレットを見ると、赤いボタンが表示されており、緊急用故障ボタンと書かれていた。


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