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Happy new birthday〈2〉

大変お久しぶりですのに、読みに来てくださってありがとうございます。


久々にやってきたら何もかもがすっかり変わっていて、何がどうなってるの?とプチパニック笑


なので、今回のお話はまだ投稿するつもりではなかったのですが、ちゃんと投稿できるのか確認のために投下することにしました。


無事に投稿出来ますように!

そして願わくば、これで勢いづいて続きを書けますように( ̄▽ ̄;)

クラウスの話は、以前から仄めかされていた『あらむ』の製造中止がいよいよ本決まりになった、という報告から始まった。


クラウスの店で扱う洗濯箱には早い段階から『あらむ』が内蔵されるようになっている。なのに外付けの『あらむ』をずっと販売していたのは、内蔵される前の洗濯箱を使っている昔からのお客様に対してのアフターフォローとかサービスといった意味合いが強かった。

そして、せっかく来てくれたお客さまを差別するのはどうかって理由で他の工房の洗濯箱を使っている人たちにも同じように販売していたのだけど、クラウスの顧客にはほぼ完全に行き渡ったことから、これ以上は他の工房のお客さんへのサービスにしかならないと判断したらしい。

どのみち目端のきく工房は、新しい洗濯箱に同じような機能を組み込み始めている。

特許なんてない世界だから、これはいけると思ったら真似し放題なんだろう。


そんなわけで『あらむ』は製造中止が決定。

それで何がどうなるかっていうと、その分の魔石を他の用途に回す余裕ができるわけだ。


だけどね。

実は今の私は、何を隠そう以前よりも短い時間で、しかも以前よりも大量の魔石をごろごろと作れるようになっているんである。





一番初めにクラウスに指示され魔石の量産に取り組んだときは、十五分かけて一度に二十個作るのが精いっぱいだった。

それでもクローやクラウスにとっては信じられない驚きの技だったらしいのだけど、そのあと鬼のように魔石を作り続けていたあの二ヶ月の間に、どうやら私は魔力の注ぎ方のコツを掴んでしまったようなのだ。

いや、コツというよりは身体で覚えたって気もするが、例えて言うなら以前は霧吹きくらいのレベルだったのが、今は水鉄砲ほどの勢いだろうか。

この違いはかなり大きいと思う。

だって私はいつもと同じ要領でやってるだけなのに、気がついたらいつの間にか、以前の半分ほどの時間で見た目遜色ない魔石が出来上がるようになってたんだからさ。


但し、その時点では『見た目遜色ない』ってのは私の勝手な自己判断に過ぎなかった。私に魔石の微妙な違いは分からないからだ。

そこでその半分の時間で出来上がった魔石を『どう思う?』ってクローにも見てもらったのだけど、彼も自分の魔石ならともかく私のものに対しては、『いつものと同じに見えるけど、判断するのはクラウスだから』と至極もっともな答えしか返せない。

てことはつまり、クラウスのチェックを受けるまでは、勝手にそれらを完成品として納品するわけにはいかない、ってことだ。

だってさ、もし万が一その短時間で作ったやつを持ち込んだとして、全部が不合格になっちゃったとしたら最初からやり直しだよ? それって全然笑えないじゃん。


だからその月のノルマの分は、ちゃんといつもと同じだけの時間をかけて作りましょう。

そして納品の時に、半分の時間で試作した二十個の魔石も一緒に持っていって、ついでに見てもらうことにしましょう。


そんなつもりをしていた。



だけどさ、もしチェックしてもらったその試作品が合格になったとしたら、これからは単純計算で倍近くの量が作れることになる。

それって今後かなり、時間に余裕ができるってことだ。

魔石を作る作業は苦にならないけど、他にもしたいことはたくさんある。

台所にまだたくさん並んでいる謎調味料の使い方をリンダに教えてもらう約束もしてるし、ずいぶん前に大量にまとめて作り置きした手作りケチャップやマヨネーズも、そろそろ残り少なくなってきた。

刺繍もここ暫く全く進めていないし、若奥さんズで日帰り旅行に行く計画もあるらしい。

なんにせよ時間があるのに越したことはないんだから、ここは是非とも合格をいただきたいところだ。


などなど、取らぬ狸の皮算用でご機嫌に魔力を注いでいた私は、そのとき突然閃いた。

十個ずつ積み上げたふたつのナフタリアの塔は、いつもピタリとくっつけて置くようにしている。その塔と塔の間にほんの少し、──例えば立てた手のひらが通るくらい──三センチほどの隙間を開けてみたらどうなるだろう、と。

最初のとき、クラウスに指示され色んなやり方を試してみたあのときに、同じように隙間をあけて積んだ記憶はある。

でもあのときと、今の私の魔力の放出量は相当違うはずだ。結果もまた全然違うかもしれない。


新しいことを思いついたら試してみないと気が済まないのが私である。

ロスになるのを覚悟のうえでやってみた。

すると風通しがいいというか、なんとなくだけどほんのり効率が良くなった気がした。

それで今度は二つの塔を三つに増やしてやってみると、なんということでしょう! さっきよりも余分に時間はかかったものの、三十個もの魔石が十分そこらで一度に出来上がってしまったのである。

私もビックリしたけど、横で自分の魔石を作っていたクローも目をまん丸にしていた。いきなり積み木遊びみたいなことを始めたと思ったらとんでもないことになってた、とはその時のクローの談だ。


とはいえ、もちろんこれだってクラウスのチェックが必要だ。

こちらも二十個で作った分と同じく、私が勝手に出来たと思っているだけで、クラウスに見てもらったらアウトになる可能性もゼロじゃない。

私の野生の勘は『いける!』と叫んでたけどね。


そんなこんなで、そうやって試しに作ってみた魔石の小山を、他のとまぎれないようそれぞれ別の袋に取り分けてるうちに、早く結果が知りたくてたまらなくなってしまった私は、翌日にはノルマそっちのけでクラウスの店まですっ飛んでいき、素知らぬ顔でそれらを取り出した。


だけど、よほど私が挙動不審だったのか、それともクラウスにも野生の勘が備わっていたんだろうか。

突然予定外の魔石を持ち込んだ私を非常に胡散臭そうに見たクラウスは、ここしばらくはサクサクとこなしていた確認作業を、まるで最初の頃のように生真面目に丁寧に時間をかけてしてのけた。


もちろん結果は見事に合格判定である。

そこで私は初めて得意げに、『実はこの三十個は一度にまとめて作ったんだよヘヘン』とネタばらししてやったのだった。

期待を裏切らず目を剥き驚いてくれた奴を見て笑っていたら、すぐさまその場で実演して(作って)みろって言われたけど、そんなことになりそうな気がしてたから、魔石にする前の養殖ナフタリアも三十個ちゃんと持参していたあの時の私はとても気が利くお利口さんだったと自画自賛している。

ちなみに目の前で作ってみせたとき、十分で三十個もの魔石が出来上がったのを見た奴は、時計が壊れているのではないかと執拗に疑った。それでお昼の鐘がなるまで店で時間を潰す羽目になったのだけど、鐘の音と時計の針がピタリと合っているのを確認したクラウスがポカンと口を開け間の抜けた顔をしたので、私はもう一度大笑いしたのだった。


クラウスは魔石を眺め悔しげに唸っていたが、合格判定は覆らなかったので、それ以降の私はずっと一度に三十個のペースで作り続けているのだ。



それが今からひと月ばかり前──まだクローの誕生日プレゼントを何にしようかな、と考えていた頃のことなのである。





──ところでさ。

まだ多分(・・)の話なんだけどさ。四十個でもいけそうな気がするんだな、感覚的に。

今、三つに積み上げてる塔を四つに増やして、時間もその分少し増やさないといけないだろうけどね。


でももし上手くいったら、きっとまたクラウスは目を剥いて驚くだろうねー、と何の気なしにチラッと口にしたらば、それを聞いたクローは思いのほか食いついた。

『そのときはぜひとも同席したい』って実に楽しそうな笑顔で言うもんだから、私もなんだか楽しみになってきてね。

一度に四十個積み上げるのも、時間を計ってああだこうだと試行錯誤するのも面倒だし、またそのうちでいいやって思ってたんだけど、再来週あたり──お祭りの準備が始まる前には納品しに行くってクローが言ってたから、それに間に合うように一度チャレンジしてみようかな、と密かに考えてるんだ。




でもまあそれは置いとくとして、今現在、より一層の大量生産を可能にした私は、以前ほど魔石作りにあくせくしていない。

だから『あらむ』の分の魔石を交換用魔石に回したところでそんなに有難いわけでもなく、それくらいなら何か『あらむ』に替わる新しい魔道具を開発できないかな、ってのが本音だ。

そしてどうやらクラウスも同じように思っていたらしく、要するに何か新しい『小型家電』のアイデアがあるなら聞こうじゃないか、ってのが今回呼び出された本当の理由なのだった。



「つっても『あらむ』の代わりだからな。お前の魔石一つで事足りるようなもんがあればいいんだが」

「だよねー」


いくら更なる魔石の大量生産が可能になったとはいえ、ここでまた新たに複数の魔石が必要な『小型家電』を作るのが拙いってことくらいは分かる。

だってそのせいでもし万が一にも交換用魔石が足りなくなってしまったら、一番困るのは私じゃないか。

なにしろこの低品質低価格な魔石は私にしか作れないのだ。

そんなことになったらあの大忙しの日々が再び繰り返されてしまう。


お財布が潤うのは嬉しいが、自由な時間も欲しい。つまり、『あらむ』の代わりに作るのなら『あらむ』と同じように魔石一つで使えるもの、ってのが大原則なのだ。


そこまでは私でも理解していたから、実は『あらむ』の生産中止を仄めかされて以来、何かいいものはないかなってずっと考え続けてた。

そんなわけで幾つかの候補は頭にあるんだけど、それが採用されるかどうかは聞いてみないとわからない。



「時計、はダメかな?」

私は店の柱にかけられたアンティークっぽい装飾の時計を見上げ、言ってみた。

先日クラウスから疑いの眼差しを向けられた気の毒な時計である。

これは私の中では一番ナイスな案だと思っているのだけど、但し採用される確率は低い、とも思っていた。





私たちの家では、こういった装飾のついた置き時計を居間と寝室に置いている。魔石を嵌め込んで使う、いわゆる高級品だ。

ちょっと小洒落たお店なら店内の目立つところに当たり前のようにそういった時計が飾られているし、中には時間が来ると仕掛けが動き出すような凝った作りのものも多い。だから私はこの世界の時計とはこんなものなんだと思いこんでいた。

そんなことはない、と知ったのは先日久しぶりにリンダの家に遊びに行った時のこと──。




魔石作りに追われていた間すっかりご無沙汰になっていたリンダの家のいつもの居間に、その日は見たことがない時計が置いてあった。

木目を生かしたシンプルなフレームにシンプルな文字盤の時計は、これまでこの世界で私が見ていた装飾過多な時計に較べ、とてもセンス良く思えた。


それで、へぇーこんなのもあるんじゃん! と、興味津々で眺めてたらリンダが言ったんだ。

『朝、うっかり合わせ損ねちゃったの。ズレてるかもしれないからお昼の鐘で確認しようと思ってここに持ってきたのよ』


『?』


キョトンとする私にリンダも首を傾げた。

『時計を合わせるのはご主人の担当なの?』

そう。リンダの家にあったのは、ネジ巻き式の時計だったのである。


田舎町でもそうだったけど、ここサザナンでも一日に五回、時間を報せるための鐘が鳴る。

ただの習慣かと思ってたら、みんなその鐘の音に合わせて時計のネジを巻いていたらしい。ものすごく生活に根ざしていた。

世間でごく一般的に流通しているのは魔石を使用しないネジ巻き式の時計であり、手間がかかるため大抵の家では一個、多くても二個程度しか所有していないということを、私はそのとき初めて知ったのだった。






「あー、時計か……」

同じく壁の時計を見上げたクラウスは難しい顔をした。

「アレは魔石を使ってるけど厳密には魔道具じゃなく、装飾品って扱いになる。だからうちの店でも売り物としては置いてねぇ」

「でも、ネジ巻き式のシンプルなやつもあるでしょ? それを私の魔石で動かせないかと思ったんだけどさ。そういうのも装飾品になるの?」

往生際悪く聞くと、「ああ、そっちか。けどどっちにしても時計は管轄が違う。汎用タイプにお前の魔石を使うのなら安価で済むし、いちいちネジを巻く必要もなくなるから便利だとは思うが、それを扱うのは装飾雑貨店かその系列だ。うちの工房では作れんし、店にも置けんな」

「……そっか」

元の世界でも時計は時計屋で売っていた。家電量販店やDIYなら置いてるところもあったけど、せいぜい添え物扱いだ。

だからもしかしたらダメかも、と思ってたその予感は的中だった。


「じゃあそれはもういいや。次! 温石(おんじゃく)なんてどうよ?」

ダメならゴネてもしょうがない。よそに売り込みに行く気もないんだからさっさと第二弾に行こう、とばかりに別の案を出すと、クラウスは目を丸くした。

「お前にしちゃ諦めがいいな」


どんだけ粘着質だと思われてんだよ。







さて、温石というのは日本で言うところの使い捨てカイロのようなものである。ちょうど肌寒い季節になってきて思いついたのだけど、この世界では焼いて熱くした石を布で包み、懐に入れ暖を取るのがごく普通のやり方らしい。

ただし、手間はかかるし子供に持たせるには火傷の危険もあったりで、なかなかに気を遣う代物なのだそうだ。面倒で使わない人も多いと聞いた。

だったらスイッチひとつで適温になるカイロのようなものがあれば、みんな欲しがらないだろうか。

熱くするってことは『あいろん』と似たような作りになるんだろうけど、そこまで高温にしなくてもいいんだし、小さいものだったら魔石ひとつで出来るんじゃないかな。


──と考えたのだけど、クラウス曰く温石には『あいろん』にない構造的な問題が生じる可能性があるらしい。取り敢えずは保留として、近いうちにアミーさんと協議してくれるそうだ。

別に急ぐわけでもないからそれがダメならまた考えようってことになり、帰ろうとしたときにふと思いついた。

「ねぇその求人募集のポスターだけどさ。『従業員割引あります』とか書いてみたら?」

「従業員割引?」

首を傾げるクラウスに説明する。

「この店の従業員がここで魔道具を買う時は、通常価格よりも一定の割合でお安くします、っての。そしたらその辺の(・・・・)店で売り子(・・・・・)してるような(・・・・・・)姉ちゃんたち(・・・・・・)も喜んで来てくれるかもよ」

この世界にはどうやら信用販売(クレジット)ってものが存在しない。一括現金払いで買うしかない高額な魔道具が少しでも安くなるのなら、きっと喜ぶ人もいるだろう。


奴は私の言葉に口をあんぐりとあけた。

「お前、天才かよ」

「エミカ様って呼んでもよくてよ。つか、そういう制度ってそもそもないの? 前に私が特注した『炊飯器』もなんだかんだでかなり安くしてくれたじゃん。それにアミーさんたちが魔道具買う時はどうしてんのよ」

「チョーシのんなアホ。お前やクローのはアレだよ、お友だち価格ってやつだ。あとお前らの場合魔石は自前だろ? アミーたちは逆に魔石の代金だけはもらうけど、魔道具自体は自分らで作れるからな。新しい魔道具が欲しくなったら、試作品みたいな感覚で好きなように作ったりしてんじゃないのか?」


なるほど、手に職があるってのはそういうことなんだな。

──と感心しつつも、「天才でアホとか矛盾してんじゃないですかー?」と忘れずに突っ込んでおく。

「そーゆーとこがアホだっての」という奴の言葉は聞こえないフリでコートをはおり、ショルダーバッグを斜めがけにして帰る準備だ。


それにしても、異世界には福利厚生という概念もないのかもしれない。




早速テーブルに向かってポスターを書き直しているクラウスの背中に「じゃー帰るわ」とおざなりに声をかけ、「おーまたな、気ィつけて帰れよ」とおざなりな返事をもらって店を出た。


今から帰ったらお昼ご飯の支度にも充分間に合うし、向こうの商店街にも寄って帰ろうかな。

今晩は煮込みハンバーグを作る予定だから、ご飯よりパンの方がいいかも。家に状態保存の魔法をかけたやつはあるけど、もし焼き上がったばかりのがあれば買って帰ってもいいな。

そんなことを浮き浮き考えながら華やかなショーウィンドウの前を、行きと逆方向に通り過ぎる。



いきなり伸びてきた誰かの腕が私のコートを掴んだのはその時だった。



















玄関でいつも通り「ただいま」と声をかけると、クローが迎えに出てきてくれた。

結局商店街には寄ってないんだけど、それでも思ったより遅くなっちゃったから心配かけたのかもしれない。

こんなとき連絡手段がないって不便だよなと思いつつ、優しい笑みで「おかえり」と広げられた腕に「ただいまーっ」と飛びつく。


──と、私をギュッと抱きしめたクローの顔が瞬時に強ばった。

「エミカ、いったいどこで服を脱いできたのっ!?」


私の顔も強ばった。





……なんでバレた?

ここまで読んでくださって、ありがとうございました!

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