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To my precious one<5> (crow side & emika side)

多分……おそらくR15……。

すみません、もはや境目が行方不明です。

「……ねぇクロー、もしかしてさ、魔法で中を見「見ることなんてできないよ」


半信半疑といった表情で訊いてくるエミカの言葉が終わる前に、即座に否定した。

そんな覗き見の常習犯が喜びそうな魔法を使えると思われるなんて冗談じゃない。

過去、魔法使いが迫害されたという歴史だって、その辺りの偏見が発端の一部にあったという話だ。


異世界からきたエミカはよくわかっていないけど、そもそもそんな特殊魔法など存在しない。

この世界の大多数である魔法を使えない人々から見れば、僕ら魔法使いはなんでもできるように思えるのかもしれないけど、決してそんなこともない。

遠くへ行こうと思えば足を使うか乗り物に乗るしかないし、状態保存の魔法は生き物には使えない上にその効果も有限だ。

クリーンの魔法は便利といえば便利だけど、これを使うには適性がいる。相当純度の高い魔力を持つ魔法使いでないと難しい。


エミカは多分僕を基準に考えて、世間の魔法使いも似たようなものと思ってるんだろう。

だけど、この都会(サザナン)に出てきてさえ、僕はまだ自分よりも『黒』い魔法使いを見たことがなかった。



魔力の純度は、身にまとう黒を見れば大概わかる。

ちゃんと比較しようと思うならナフタリアに魔力を注ぐのが一番手っ取り早い。これは昔から魔法使いのランクを確認するために使われてきた方法で、透明に近くなればなるほど魔力の純度が高いということだ。


そして近年になり、この魔力を注いだナフタリアを利用した魔道具が開発されたことによって、魔法使いたちの立ち位置はグッと押し上げられていく。

今やひとつの魔道具も置いてない家なんて存在しないし、あの田舎町ならともかくここでは魔法使いたちも堂々と町を歩いている。



エミカの魔力の純度は、彼女が作った魔石を見ればわかるとおり相当低い。

その上制御もおぼつかず、未だ小さな炎ひとつ灯すのが精一杯だ。

髪は文句なく黒いけれど、一見黒い瞳はよく見れば虹彩が茶色っぽいからそのせいかもしれない。

或いはもっと単純に異世界人だから、なのかもしれない。



ただ、不思議なことに彼女には魔石の量産ができた。

質はともかくあれだけの数の魔石を作れるのはその魔力が潤沢だということで納得できるけれど、不思議なのは量産の方だ。

こんなにもたくさんの魔石をまとめて作れるなんて話、これまで一度も聞いたことがない。

それこそ異世界人だから……なんだろうか。


彼女が一度に二十個もの魔石を作るのを見て僕も試してみたけど、どう頑張っても一度に二つまでが限界で、しかも有り得ないほど効率が悪かった。

一つずつのほうがよほどマシだったから、結局僕は以前のままのやり方を続けている。

それなのに最近のエミカときたらナフタリアの積み方にも工夫を重ね、いつの間にか一度に三十個もの魔石を作れるようになっていた。二十個でも驚きだったというのに、だ。


十段ずつ積み重ねたナフタリアの塔と塔の間に僅かな隙間を作るのがポイントだそうで、しかも回を重ねるうちにどうやら魔力の注ぎ方のコツも掴んだらしい。

できあがりに要する時間がかなり短縮されている。


そうやって作った魔石の品質をチェックしたクラウスは、あとで種明かしされて目を剥いたのだそうだ。

そのときの様子がとても面白かったと教えてくれたエミカは 『今度四十個にチャレンジして、またクラウスにチェックしてもらおうかな』と言い出し、僕までも唖然とさせた。


だけどニコニコする彼女には勝算があるのだろう。

おそらく近いうちに実行されるであろうその時は是非とも僕も同席し、クラウスの呆けた顔を見学させてもらおうと思っている。



そんなふうにいつもご機嫌に魔石作りに取り組んでいるエミカは、時々鼻歌まじりで魔力を注いでいることもある。

でもそれは無意識らしく、ハッと我に返った時にこっそり僕の様子を窺ってくるのが可愛い。

素知らぬ顔で『どうかした?』って訊くと、慌ててなんでもないふうを装って全然違う話を始めるのも面白くて可愛い。

この反応を見るのが楽しみで、ずっと鼻歌に気づかないふりをしている。




僕は彼女のやることなすことのすべてが可愛くて可愛くて、笑顔はもちろん困った顔や拗ねた顔、怒った顔でさえもが愛おしくてたまらない。

今だって、ほら──。








なんてこったいっ!

私はリビングの床に膝をつき、がっくりと項垂れていた。気分はもう床下までめりこんでいる。


やっちまったよ──っ!

まだプレゼントを開けてもないのにローブローブって何回連呼しちゃってんだよ、最悪っ! せっかくここまでいい感じだったのに!

……つか、クローも何やってんの?


床と睨めっこしている私の頭のてっぺんをツンツンしてるのは、もちろんクローしかいない。


「何?」

口をへの字にしたままこころもち顔を上げ、私の前にしゃがみこむクローを上目遣いで見ると、楽しそうな彼の笑顔があった。

「目の前に可愛いつむじがあったから、つい」


つむじに可愛いもくそもねーよ。


すっかりやさぐれた私は立ち上がり、クローに喰ってかかった。

「だいたいクローもややこしいこと言うから! 中身もわかんないプレゼント見て、なんでそれが『欲しいもの』だってわかんのよっ!」


そしたらしゃがんだまま私を見上げたクローは、少し困ったように笑った。

「ごめん。中身は関係なくて、ただ誕生日にエミカからのプレゼントっていうのが嬉しかったんだ」



……はい!? 誕生日にプレゼントってのは鉄板じゃないの? こっちのバースデー常識を、事前にリンダかクラウスに確認しておくべきだった?

うろたえていると、スっと立ち上がった彼は覆い被さるように私を抱きしめ、耳元で囁いた。

「ねえエミカ。僕は誕生日がこんなに幸せな日だなんて初めて知ったよ」


そんな大袈裟な、と内心思う私にクローは続ける。

「華やかな飾りつけにご馳走。大きな丸いケーキ。その上プレゼントまで」

「……ええと、それが欲しかったものでクローの幸せなの?」



ちょっと子供染みているとは思うけど、こういうのが私の持つ一般的な誕生日のイメージだ。確かに色々頑張りはしたが、そこまで手放しで喜んでもらえるほどのことをしたつもりはない。クローの幸せって、なんだかお手軽すぎやしないか?

前にもクローの幸せのハードルって低そう、とか思ったことがあるけど、こんなんで幸せになれちゃうんじゃ、もしかしてクローって誰と結婚したって幸せになれるんじゃない?


街なかに一緒に出かけるたびに、クローにチラチラと浴びせられる熱視線。

それが『私といるとき限定』だってのは理解したし、スルーする技能もちゃんと身についている。

もちろんクローが浮気するかも、なんて疑うつもりはサラサラない。


なのになんでだろう、なんだか急に不安になってきてしまった。


だって世の中には万が一って言葉があるじゃないか。

たとえば私が隣にいないとき、何かの弾みで彼の眉間のシワがとれたとしたら? 横に邪魔な女()がへばりついていないのだから、たちまちクローはモテモテになるはずだ。

そこでもし熱烈にアピールされたら、クローだって周りに目を向けるようになるかもしれない。


世の中には私より可愛くて優しくて家庭的な適齢期の女性なんか山ほどいるんだし、その中にはきっとクローと相性ぴったりの人もたくさんいる。

てことは、もしや嫁が私である必要ないんじゃね? 何も好きこのんで出自も怪しい異世界人と結婚する必要なんて、どこにもないじゃん?


うっかり思いついてしまった恐い考えが次々あふれてきて呆然としていると、クローが耳元で嬉しそうに囁いた。

「もちろんエミカが祝ってくれるっていうのが大前提だけどね。他の人にお祝いしてもらっても別になんとも思わないよ」


──いつも通り、安定の溺愛モードでした。

クローの一言でたちまち浮上する自分がちょっと単純すぎて哀しいけど、そんなもんはどうでもいい! よかった──っ!


ホッとして少し力が抜けた私の身体を軽々と支えてくれるクロー。

はおっていただけのグレーのコートは半分ずり落ちて腕に絡まり、それまで耳元で囁いていた唇が熱い吐息とともに首すじを這う。

チロリと舐められる感覚に肌が粟立ち、彼にしがみついたまま座りこんだ。腕に引っかかったままのコートが邪魔。

一緒に膝をついたクローも同じことを思ったのか剥ぎとるようにコートを脱がされ、床に広がったスカートの裾から乾いた指先が忍び込んでくる。

のけぞるように上を向くと、視線が絡んだ。


漆黒の瞳に、隠しようもなく滲む熱。

甘く揺らめくそれに煽られ、たまらず彼の首に腕を回し、引き寄せ、私から唇をあわせた。


この愛おしさは、いったいどこからくるんだろう。彼の喜ぶ顔を見るためなら、なんだってできそうだ。


驚いたように動きを止めたクローは次の瞬間私をかき抱き、貪るような深いキスが続く。

やがて唇を離した彼は目を細め、うっとりするような笑顔で言った。

「ねぇ、エミカ。腹ごなしの運動は、別に散歩でなくてもいいんじゃない?」


うん、そう言われるような気がしてた。

返事の代わりに、クローにギュッと抱きついた。


私たちはまるで何かに追いたてられるように、もつれあってソファーに倒れ込む。

まだ開けられてもいないまま放り出されていたプレゼントが、足に当たってぼすんと音をたてるのに目をやり、顔を見合わせて苦笑した。

そのまま再び唇をあわせた私たちは、蜜の時間を過ごしたのだった。




さて、腹ごなしの運動を終え、ソファーの上でぴったり引っついて微睡んでいた私たちは、遠くから聞こえてくる夕刻の鐘の音にびっくりして飛び起きた。既に出かける時間ギリギリである。大慌てで、最近は滅多に使わないクローのクリーンの魔法で身支度を整える羽目になった。


バタバタしつつ改めて渡しなおしたローブは、予想以上にめちゃめちゃクローに似合っていて格好いい。

いや、正直に言うとクローにはなんでも似合うと思ってるんだけど、ここまでくるともはや眼福ものだろう。

しかも、格好よすぎて見惚れてる私の前で、クローは嬉しそうに腕を上下させて自分を見下ろしたりし始めた。


格好いい上に可愛いだなんて、まさか私を殺しにかかってるんじゃないだろうな。



それからクローが戸締まりの確認をしに行き、先に玄関に向かった私は棚の上に置いたクラウスからの包みを見てようやく思い出した。

これって、なんだろう?


包みは簡単に封がしてあるだけで、すぐに外せた。

中には、今度は丁寧に包装された包みとメモ書きのようなものが一通。その二重包装を見て、さっき私がクローに渡したプレゼントみたいだ、と思いつつメモ書きの宛名が私になっているのを確認し、二つ折りのそれを開いた。


『クローへの誕生日プレゼントを用意した。どうせなら驚かせたいので、悪いがお前あてにして預けておいた。お前からのプレゼントを渡すついでに渡してやってほしい。

何を喜ぶか考えたが、お前関連のものしか思いつかなくて、けどそれを俺が買うのも変だろう? だから二人の役に立ちそうなものにした。ほら、先日クローに渡したのと同じやつだ。

あと、それとは別件で話があるから、近いうちに顔を出してほしい。

じゃあ、仲良くやれよ!  Kraus 』


ちょっと待て──っ!


私はメモ書きを手に固まった。

『別件』の話は予想がつくから別にいい。問題は、その前だ。

『先日クローに渡したのと同じやつ』って、もしや結婚披露パーティーの時の(アレ)か!?

サイズの割りにずっしり重い包みは、この前のアレだとするとどうやら数本は入っていそうだ。

めくるめく大人の世界へと(いざな)ってくれるアレ(・・)

クラウスのメモ書きの最後の一文。『仲良くやれよ』が『ヤれよ(・・・)』に見えてくる。


動揺しきっていた私は、クローの足音が聞こえてきた途端、咄嗟にその包みを棚の置物の後ろに隠してしまっていた。


今日という日はまだ何時間もある。別に今すぐ渡す必要はないはずだ。

でもアレ……。渡さないといけないのかな?

クラウスからのプレゼントなんだから、渡さなきゃダメだよな。

渡したらきっとまた使うんじゃないかな。

使うのはいいんだけどあとで恥ずかしいんだよね。なんか自分が自分じゃないみたいになるしさ。もちろんクローが喜ぶんなら別に構わないと思ってはいるよ。いるんだけど、だとしてもいったいいつ渡すべき?

今夜?

そしたらさっそく今夜使うのかな。でもさすがに今日はもう満腹(・・)なんだけど。


もわもわと考えてしまった私は、せっかくのディナーの味もあまり分からなかった。でもクローが美味しいって言ってたからきっと美味しかったんだろう。


もちろん、そんなふうに上の空だった私にクローが気づかないわけもなく、家に帰って早々に白状させられたのは言うまでもない。

そして隠していた罰として、なぜか歌を歌わされることになった。


音痴じゃないとは思うけど、人に聞かせるほどの自信もない。だからこっちの歌なんて知らない! ってごねて逃げようとしたんだけど、珍しくクローも引かなくて『何でもいい』って言うからさ。今日はクローの誕生日だし──と仕方なく、向こうでは誰でも知ってるあの定番お誕生日ソングを、一人で、アカペラで──。

いったいなんの羞恥プレイだよ。



だけど、クローの理想のお誕生日にはどうやら歌も必要だったらしい。


やけくそ気味に歌った私にクローはとびきりの笑顔を見せ、「これで完璧」と満足げに頷いたのだった。

これで『クローのお誕生日編』完結です。最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!


幾つか伏線張りっぱなしなのは、エミカの誕生日に回収したいと思います。

でもいつ頃投稿できるかは謎。申し訳ありません(-_-;)

一時間ばかり前に午前様で帰宅致しまして、これでようやく今年は仕事納めです。そして元旦から初仕事……。

いつになったら時間ができるのでしょうか。




それでは、一年間ありがとうございました!

来年もカタツムリのようにノロノロと更新していくつもりですので、また読みに来て下さったら嬉しいです。


よいお年を!


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