To my precious one<4> (emika side)
私が飾りつけた部屋を見て涙がでるほど笑ったクローは、そりゃあもう、とても楽しそうだった。
私としては、そこまで笑うか!? と、かなり本気で拗ねてたんだけどな。
キスで許しちゃうとか、もしや私ってちょろい?
でも嬉しそうにニコニコするクローを見てたら、例によってもうどうでもいいやって気になっちゃったんだもんよ。
そうだね。キスで許したんじゃなくて、今日はクローが主役なんだからクローが幸せならいいやって思ったんだよ。きっとそう。
脳内で誰かに言い訳しつつ、食事の準備を始める。といってももう全部できてるからスープを温めたら終わりだ。
鍋を乗せたコンロの魔石に触れると天板がジワジワ熱くなってきた。
まだ私がこっちの世界に来たばかりで調理は全部クローにお任せだった頃、我が家にコンロはなく料理のすべては彼の魔法によって作られていた。
加熱なんてクローなら手のひらに鍋やフライパンを乗せて魔法を発動するだけであっという間だ。
本来なら時間のかかる煮込み料理だって、蓋をして上下から両手で挟んで魔法を使えば三分もかからない。おそらく圧力鍋効果のある魔法だと思われる。
そんな便利魔法の使い手であるにもかかわらず、彼は今生活スタイルのほとんどを私に合わせてくれている。
つまり、『これは私の仕事だ』と決めたところに彼が手を出す場合、そこに魔法が使われることはほぼないってことだ。
私はオシャレ着や外套なんかのよほど洗いにくい衣装でなければ洗濯に『クリーン』を使いたくないし、お風呂代わりの『クリーン』もここ最近は滅多に出番がない。
だってお日様で干した洗濯物は気持ちいいし、お風呂だってやっぱりバスタブに浸かってこそでしょ?
そこんとこ私の主張をクローはちゃんと理解してくれていて、お手伝いのときも魔法を使ったりはしない。
ただクローが全面的に引き受けてくれてるお掃除にだけは『クリーン』の魔法がふんだんに活用されているのだけど、それだって私が、『こんなに素晴らしい魔法はないよ!』と褒めちぎったから解禁しているのにすぎないのだそうだ。
うん。
私が掃除を苦手としていることは否定しない。
それにこちらの世界にも掃除機的な魔道具はあるし、てことは当然うちにもあるんだけど、クローの魔法ならハタキも雑巾がけもいらないからね。
こんなありがたくもお素敵な魔法があるなら使わないテはないじゃん。
そのほかにありがたい魔法といえば、状態保存の魔法というのが真っ先に頭に浮かぶ。
いくらうちに冷蔵箱や冷凍箱があるといっても、それはごく一般的なサイズのもので、大人二人一カ月分の食料を保存できるほど大きいはずもないし、性能だってそこまで優れてるわけじゃない。
そこで我が家では、キッチン横にあるひと部屋を食糧貯蔵庫として、魔法をかけた野菜や肉の類を常備しているのである。
冷蔵箱に入れるのは冷やすと美味しいものとか、ここ二~三日のうちに使うつもりのもの、調味料の類い。あとは、たまに買うような食材で貯蔵庫に入れたらうっかり忘れそうなものだけ。
冷凍箱に至っては氷を作ったり、フルーツを凍らせてシャーベットを作ったりするためだけにしか使っていない。
田舎町の森の家にいた頃もそんな使い方だったから違和感はないんだけど、サザナンに来て冷凍箱はまだそんなに世間に普及していないと知り、あまり活用してないのがちょっと申し訳ない気がしている。
それ以外の魔法では、ドライヤーがわりに髪を乾かしてもらうのが気持ちよくて好きだな。
──というのでわかるとおり、私は別にクローに魔法を制限させるつもりはないのである。
洗濯やお風呂に関しては私にも多少のこだわりがあってそれを通させてもらってるけど、それ以外のことには魔法を使っても全然構わないと思ってるし、ましてやお掃除の魔法なんて羨ましすぎて、自分が使えないのが悔しいくらいだ。
つまり魔法で家事をすることに、忌避感や嫌悪感があるわけではまったくない。
なのにクローはなぜかほとんどの家事から魔法を排除しようとしていて、それが不思議に思えたから聞いてみたこともあるんだけど、クローは笑って『僕がそうしたいから』と言うだけなんだ。
もちろん彼も何から何まで魔法禁止にしてるわけじゃなく、重いものを運ぶ時や高い場所の窓の開け閉めなど、それ以外にも臨機応変に使っているようで、だったらクローが決めたことに私が口を出すこともないかな、とは思ったんだけどね。
そう。たったひとつを除いては──。
そのたったひとつ。
私が『お願いだから魔法を使って』と懇願したそれが、いわゆるお料理なのだった。
強制送還の前、クローが様々な魔道具を準備してくれたあの頃から、朝食と夕食を作るのは基本私の仕事だった。
但しクローはなかなかにマメな性格である。
どちらの担当とも決めてなかったお昼ご飯はもとより、私が忙しいときや寝坊したときなど、朝食だろうが夕食だろうが関係なくキッチンに立ってくれるのはしょっちゅうだ。
じゃあいったい何が問題なのかというと、その調理方法だったのである。
思い起こせば、あれは私がこちらの世界で初めて料理に挑戦しようとしたときのこと。
知らないレシピを知らない調味料で作るわけで、下ごしらえの仕方から味付けの順序と、クローから教わるべきことは多かった。
だけど彼が魔法を使ってする調理法はまったく私の参考にはならないし、今さら包丁の扱いを練習する必要もない。
当然のように最初から包丁を握った私は、久しぶりなので手始めに、と野菜を洗って刻みだし、ついつい夢中になった挙句大きなキャベツを半玉全部千切りにしてしまった。
そしてザルにてんこ盛りになったとんでもない量の千切りキャベツに焦って、ふと隣を見ると、クローが目を丸くして固まっていたのである。
そのときの彼はこう言った。決して大量の千切りキャベツに驚いたわけではない、と。
一心不乱に黙々と、ひたすらキャベツの千切りを生産し続ける私の、その華麗なる包丁さばき(誇張あり)にびっくりしたのだ、と。
私にしてみれば、包丁を使わないまな板もいらないクローの調理法のほうがよっぽど驚きなんだけどね。
ただ、ソレを初めて見た時の私は色々な感情が麻痺した状態だったから、内心ワースゴイ(棒読み)としか思わなかったし、麻痺から回復した頃にはもう日常の光景と化してたから、びっくりするタイミングを失ってしまっただけなんだよ。
ともあれクローにとっては、目の前で見る熟練の光速包丁さばき(誇張あり)のほうが、魔法よりも遥かにびっくりで唖然とする光景だったのかもしれない。
余談ではあるが、そのときのクローは普段の人形めいた美貌が嘘みたいな親しみやすさで、私がそんなレアな表情にお目にかかれたのは、初めて名前を名乗ったときの笑顔以来だった。
そして、その姿にまたしても私の目が釘づけになったのは、言うまでもないことだったのである。
さて、そこで何が問題なのかという話に戻ると、ここまでの彼の様子から察していただけるかと思うが、クローは包丁の扱いに全然、まったく、慣れていなかったのだ。
ずっと何もかも魔法でやっていた弊害だと思うのだけど、あれはもはや『慣れてない』というよりも『刃物を触ったことがない』に近いのかもしれない。
料理を教わる代わりに包丁の扱いを教える羽目になった私が、そのあまりの危なっかしさに怖くて見てられなかったレベルだったのである。
あの頃のクローがなぜそんなに魔法を使わずに料理する、ってことにこだわってたのかは分からないけど、別に魔法で作った料理が手作業の料理より劣るってわけじゃないからね。クローの作る食事は私の口に合って美味しかったし、だったら今までどおり魔法で作ってくれたって全然構わないって話だ。
私の場合はあくまで使える魔法がしょぼすぎて役に立たないだけなんだから、できるものなら私だって魔法で料理してみたいくらいだよ。
そこまで言って、ようやくクローが魔法を使わない料理を諦めたのは、各種魔道具がやって来て一週間ほどが過ぎた頃だった。
それ以来、我が家のキッチンでは再び食材が宙に舞い、勝手に皮が剥けてカットされていく目を疑うような光景が日常的に繰り広げられることになる。
さらには加熱にも以前同様魔法が使われている。
クローがコンロを使うのは加熱しつつほかのこともしたいときとか、一度に複数の料理を加熱したいときなんかだ。
以前はコンロがなかったから一つずつ順番に作ってたみたいだけど、せっかくあるんだから使えば便利だもんね。
クローが食事を作ってくれるときは大抵具だくさんのスープが出てくるけど、煮込むのにコンロを使ってるところはよく見かけるよ。大概はその横で同時進行で違う料理も作っている。
だけどクローにとっては、やっぱり慣れた魔法の方が加熱温度とかも調節しやすいんじゃないかな。
こんなふうにただスープを温めるだけなら、彼の魔法の方が時間もかからないし、絶妙にいい温度に仕上がるもんね。
私もクローみたいに火や熱を操れたらなと思わないでもないけど、私の魔力では悔しいことにマッチ程度の火しか出せないし、これじゃ点火以外の役には立ちそうもない。
煙草とか吸う人ならこんなレベルでも便利だと思うのかな?
前に、ライターを失くした篠先輩が給湯室のガスコンロで苦労しながら火を点けていたのを思い出した。
あと三十分も待てばライターを持ってる誰かが帰ってくるのに、それが待てなくて前髪焦がして大騒ぎしたんだよ。
そういえばこの世界って煙草はないんだろうか。吸ってる人も売ってるのも見たことないや。
とりとめなく考えながらスープが煮えるのをぼーっと待っていると、いつの間にか隣に来ていたクローが私の手からお玉を取り上げ、火を弱めた。
そのまま柔くホールドされ、「どうしたの?」と見上げれば、なにやら途方に暮れたような表情とぶつかる。
えーっと……!?
ついさっきまであんなにご機嫌に笑ってたのに、この数分でいったい何があった?
「──もしかして、お腹がすいて待てなくなったの?」
まさか、とは思ったものの訊いてみたら、クローは唇をキュッと結びキリッとした顔つきになって、「絶対見つけるから、もう少し待ってて! エミカ」と、なんだかよく分からない決意を表明してくださった。
……見つけるって、何を……?
意味がわからず呆気に取られている間に、クローはさっさとスープの準備をして運んでしまい、そのあといくら尋ねてもなんの話だったのか教えてはくれなかったのだった。
何か私の大事なものをなくしたとか?
でもそういうのは引き出しにしまってあるし、クローは勝手にそこを触ったりしない。
じゃあ、私がクローにプレゼントした何かをなくした?
けど、唯一の心当たりはちゃんと彼の胸で揺れている。
なんの謎かけだよと思いつつ、見つけたら教えてくれるっていうんだからもういいや、と頭を切りかえることにしたのである。
さて、リビングに戻った私たちは、早速昼食を食べ始めた。クローが一番喜んだのは、やっぱり本邦初公開のちらし寿司だ。
元々クローは酢飯が気に入っていたんだし、大人から子供までみんな大好きなちらし寿司が気に入らないはずはない、と思っていた。
「すごいね、これ。甘酸っぱいご飯と甘辛い具の一体感! 見た目も彩りよくて豪華だしなにより美味しい!!」と、大絶賛のクロー。
取り分けた料理をつつきつつ、その食べっぷりを生あたたかく見守っていたら、彼はこっちに目を向けて不思議そうに言った。
「エミカはあまり食べてないね?」
実は作りながら味見してたら、お腹が膨れてきちゃったんだよね。
これは内緒だけど、特にスープなんか美味しすぎて、味見でたっぷり一人前は飲んじゃってると思う。
「味見でなんかお腹いっぱいになっちゃって、このあとケーキもあるから少しだけにしておこうと思ってさ」
お腹の辺りをさすって見せながらそう言うと、クローはテーブルを見回し、嬉しそうに笑った。
「味見だけでお腹が膨れるくらい、たくさん作ってくれたんだよね。エミカの作る料理ってどれも色んな工夫があって、美味しいし見た目もきれいだし、毎日の食事の時間が楽しみになる」
いやいや、私の料理なんてただの家庭料理だから。
一人暮らしを始めた当初は節約のために自炊してて、基本的なところはお料理本のお世話になりっぱなしだった。当時はスマホもパソコンもなく、ガラケーは最低限の通話とメールのみにしてたから流行りのレシピ検索もできないし、頼みの綱は家から持ち出した古い料理本と記憶に残ってるお母さんの手料理。そしてたまに本屋で立ち読みして参考にしてた最新料理本のレシピくらいのもの。
このちらし寿司も、毎年三月三日にお母さんが作ってくれてたんだよ。
正社員で就職してからはたちまち料理をする時間が減って食生活も荒れていったけど、元々何かを作るのが好きで料理も苦痛じゃなかったし、こっちに来てからは私も毎日がとても楽しい。でもそれはきっと食事のたびに、クローが美味しい美味しいって喜んでくれるからだと思う。
好きな人のために料理するのってすごく幸せだよね。その人が美味しいって言ってくれたら尚更にさ。
それにね、私の料理の味つけはやっぱりお母さんの作る料理の味と一緒なんだ。ずっとそれで育ってきたんだもの。だから私の料理を誉めてもらったら、お母さんを誉めてもらったみたいですごく嬉しいんだよ。
きっとクローはそんなこと、考えてもいないだろうけどね。
多めに作ったつもりの料理は小一時間もしないうちにきれいになくなり、そのあらかたはクローのお腹に消えていった。
このあとケーキもあるんだから無理して全部食べなくていいよって言ったのに、「エミカの手料理を残すわけないでしょ」と言いながら本当に全部食べてしまったのだ。
その時私は、とある予感に戦慄した。
結婚したばかりの頃のクローはちょっと痩せすぎな感じで、精悍ではあるものの少し痛々しくもあった。
それが、あれから一年近くが過ぎた今は、以前とかなり近いくらいに戻っている。けどどっちのクローも格好いいって思ってる私は、結局クローならなんでもいいってことなんだろう。
でもさ、太りすぎは問題だよ。
見た目は別にどうでもいいんだ。むしろクローが今みたいに人目を引かなくなるなら大歓迎。
ただし、肥満までいくのは困ります。肥満は病気の素っていうからね。
これからは食事の量を控えめに管理することにしよう。
心の中で決意を固めつつ、でも今日は特別な日だからうるさいことは言わない。
そして──。
「じゃじゃーんっ!」
効果音を発しつつ私が冷蔵箱から出してきたのは、言わずとしれたケーキである。
せっかくの誕生日だから奮発してホールケーキにしてみた。生クリームに苺をたっぷり乗せたクローの好きな定番のやつだ。
ご近所の商店街のケーキ屋さんは普段ショートケーキしか置いてないから、一昨日のうちに注文していたものを今朝受け取ってきたんだ。
クローはホールケーキを見て目を丸くした。
たまにケーキを食べるときはいつもショートケーキだから、今日もショートケーキだと思っていたのかな。まさかホールケーキを見たことない、ってことはないよね。
「前に街なかのケーキ屋さんに行ったとき、ホールケーキも普通にショーウインドーに並んでたでしょ?」
あまりにも感動の面持ちでケーキを見つめてるから不思議に思ってそう言ったら、『夢中になってケーキを選んでるエミカが可愛いから、ずっとエミカばかり見てた』って……何だそれ!?
数あるケーキの中でクローがいつも苺ショートを指定するのは、それが好きだからではなく、どこの店にもある定番で選ぶ必要がないからなのか?
いや、それこそマサカだよね。この件は深く追及しないことにしよう。
そして今度からは私が選んだケーキをオススメしてみることにしよう。
その後、私とクローは苺のケーキを二切れずつ食べて、本気でお腹がいっぱいになってしまった。楽しい雰囲気のせいかいつもより美味しく感じたもんだから、私までついおかわりしちゃったんだよ。
でもさすがにもう無理! ってなって、これは私の手作りじゃないからクローも残すことに同意してくれたので、半分以上残ったケーキはクローの状態保存の魔法をかけた上で、冷蔵箱に収納されることになった。
これで二~三カ月は大丈夫。魔法ってホント素晴らしい!
でもクローのお誕生日はまだ終わらない。
実は今日の夕食は、町で今評判のレストランを予約してあるんだ。いつかクローに私の収入でディナーをご馳走する! という野望がとうとう現実になる日が来たんである。
ただ、一年に一度のお祝いだし、クローには私の作った誕生日メニューも食べてほしかったからそれをお昼ご飯にしようと頑張って作ったのだけど、今はちょっと張り切りすぎたと反省しているところだ。
なぜならば──。
お腹がいっぱい過ぎて、夕食を食べられる気が全然しないから。
この困った事態に私は頭を抱えた。
だって念願のディナーだよ? せっかくなんだからお腹を空かせて美味しく食べたいじゃない。
それで私たちは裏の森に、腹ごなしの散歩に出ることにした。主に私のためにね。
そして、そのついでと言ってはなんだけどプレゼントも渡しちゃうことにした。
夕食を食べに行くときに渡そうかなと思ってたんだけど、このローブを着てるクローを早く見たくなったんだ。
でもさ、考えたら強制送還前にペンダントを渡した時もこのパターンだったような気がするんだよね。もしや私って全然進歩してないのだろうか……。
外へ出るため、そして苦しいお腹を締めつけないためにチョイスした衣装は、生成のブラウスに臙脂のジャンバースカート。踝近くまであるその裾にはグルリと幾何学的な模様が刺繍されていて、その上から着けた丈の短いベストにも同柄の刺繍が施されている。
まるでどこかの国の民族衣装を彷彿とさせるこの服は最近のサザナンの流行で、ウエストの高い位置に切りかえがあるのと、ベストが目隠しをしてくれるため、今のようにお腹がふくれていても目立たないし苦しくないのが大変ありがたい仕様である。
リンダ曰く、本来は妊婦さん向けのデザインだったのが、可愛いと瞬く間に一般に広まったらしい。ぽっこりお腹に悩む女の子は多いからって話だけど、そういうリンダはスッキリ細身なのにちゃんと一着持っている。
鏡の前でひと回りして満足した私は、ぬくぬく素材の白っぽいグレーのハーフコートを羽織り、こっそりプレゼントも持ってきた。外側の包みを外したそれにはリボンがかけられていて、どこから見ても立派なプレゼントだ。
居間でいつものローブに袖を通そうとしているクローの服を引っ張り、キョトンとする彼に満面の笑顔で差し出した。
「改めてお誕生日おめでとう、クロー! これは私からのプレゼントだよ」
なぜかクローは目を剥いた。そして私の顔と腕の中のプレゼントの間でたっぷり二往復分視線を動かし、何やら呟いた。
「……う、……きに……と」
「……え!? 何?」
ほとんど聞き取れなかったそれを訊き返すと、クローは突然プレゼントごと私を抱き寄せる。驚く私の耳元で、彼の唇が囁いた。
「なんで? どうしてエミカには、僕の欲しいものがわかるの?」
「ええっ!? クロー、やっぱり新しいローブが欲しかったんだ? それならちょうど良かったよ! この愛用のローブもだいぶヨレヨレになっちゃったもんねぇ。新しいローブ、気に入ってくれるといいんだけど。……あれ? でもなんでプレゼントがローブだって分かったの?」
私は、クローと私の間に挟まれたラッピングされたままの包みを見つめ、首を傾げた。
だって、どう見たって中身なんてさっぱり分からない。
え?
クローって、もしかして魔法で中を見れちゃったりする?
「……ねぇクロー、もしかしてさ、魔法で中を見「見ることなんてできないよ」
かぶせて否定された。
だよね──っ?
そんなことできるなら、今着てる服の下だって透けて見えてるってことになるもんな。
ホッとした私が、問題はそこじゃねぇ! と気づいたのはすぐのことだった。
ここまで読んで下さってありがとうございました!
ブクマ下さった方もありがとうございます。とても励みになります。
残すところあと一話です。
最後までお付き合い頂ければ嬉しいです。




