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すきま風の季節<1>

読みに来て下さって、ありがとうございます。


エミカとクラウスがどんな関係なのかを書きたくて始めたら、何故かこんな話に……orz


今回幾つか注意点があります。

ご了承下さい。


1)話の中に会話文を多用しています。


2)そして、その会話に下ネタというか…露骨な表現が見受けられます。そういう意味ではR15?(だいぶぼかした表現に変えたのですが……。次話は恐らくもっと露骨になりそうな予感)


3)クラウスがちょっと可哀想(多分誰も気にしない)


4)こんなどうでもいい話なのに続いてしまう。



先に謝っておきます。

色々、申し訳ありません。

「ねぇ、どう思う? これってさ、倦怠期ってやつなのかな?」

「お前なぁ、結婚して一年もたたんのにそりゃまだ早いだろ? そもそも独身の俺のとこにそんな話題持ってくんなよ」と、帳簿をつけながら嫌そうな顔をするクラウス。


本日の私は魔石を届けにきたわけではない。

買い物ついでの頼みごとのためにクラウスの店を訪ね、店の奥の指定席に陣取り、仕事を手伝う代わりに、愚痴という名の悩み相談室を絶賛開催中なんである。


なんの悩みかといえば、冒頭の台詞の通りだ。


あと二カ月で結婚一周年を迎えようかという今になって、私とクローの間にはよくわからないすきま風が吹いているのだった。



「でもほかに相談できる人なんていないんだよ。ほら、男同士なんだしさ、女には解らないビミョーな男の心理とかってあるんでしょ? 教えてよ」

私の言葉にクラウスはため息をついた。

「高いとこのもんは取ってくれるって言ったな?」

「うん、棚の上のほうに片づけた箱とか、手を伸ばしただけですぐに気づいて代わりに取ってくれる。重いものは運んでくれるしゴミ出しもしてくれる」

「じゃあ何が不満なんだよ」

「前はさー、何か取ってくれたら私に手渡ししてくれてたんだよ、笑顔つきで。それが今はテーブルの上に置いちゃうの。『ここに置いとくね』って」

「笑顔は?」

「笑顔は……ある」

「もうお前帰れっ!」

「酷いよクラウスッ!」

「俺は仕事中なんだよ」

「私も手伝ってるじゃないっ、あ! いらっしゃいませー!! はいっ、交換用の魔石セット三つですね。ありがとうございます、十八ペル頂戴致します」


私の作る交換用魔石は一セット五個入りで、当初三ペル二十五デシペルで販売する予定だった。それが一セット六ペルとなったのは、クラウスにある問題点を指摘されたからだ。

あまりに安すぎる価格で販売すると、みんなが無駄遣いして瞬く間に交換用魔石を買いに来るようになるのではないか。そうすると、私一人で作っているこの魔石は、たちまち品不足になりはしないか──、と。

なにしろこのしょぼい魔石は私にしか作れないのだから。


そうして、安いけど無駄遣いするのはもったいない、と思わせる微妙なラインをクラウスと相談し、それに合わせて私の魔石の買取価格もアップしてもらえることになった。

ところが、だ。今も追加で作り続けている『小型家電』に内蔵された魔石は、当初の価格設定のままでなければならないのである。

『小型家電』は均一価格がウリという面もあるので、できることなら価格変更はしたくないからだ。

でもそうすると、魔石の原価がアップしたがために『小型家電』内蔵魔石に於けるクラウスの利益がなくなってしまうことになる。

そこで私たちは考えた。


そもそも『小型家電』は魔石と合わせたセット価格で販売しているから、内蔵された魔石と交換用魔石の価格が違うなんてこと、お客さまには分からない。ということは、クラウスの利益を確保するため、その補てん分を交換用魔石の販売価格に上乗せすればいいのではないか?

とまあ、そんなこんなで話がまとまって、私は魔石の買取価格をアップしてもらい、交換用魔石に対するクラウスの取り分を通常より高い割り当てに設定し、一セット六ペルという価格に落ちついたのだった。


「はい、あ、そうです。この店で扱う家庭用魔道具の魔石は長持ちするんですよ。こちらの冷蔵箱もお値段はよそのお店と変わらないでしょう? 機能も遜色ないのに魔石は標準で一年も使えちゃうんです。交換後の魔石も同じですから、あとあとのことを考えたら経済的だと思いません? あら、噂になってるんですか? わぁっ、嬉しいですね。はい、是非ご検討ください、お待ちしております。ありがとうございました!」


「どんどん手慣れてくるな……。やっぱり働きに来ないか?」

「来ないよ。そーれーよーりーさっきの続きっ!」

私は積み上げた『どらいあ』に魔石をセットしながら訴える。

「もうここしばらく全然ないんだよ」

「何がないんだよ」

「そんな露骨なこと言わせないでよ。クローが枯れちゃったんじゃないか、って話! それって私に色気がないせいだと思う?」


クラウスは無言でテーブルに突っ伏した。

弾みで私の魔石がいくつか転がり落ちる。

「もうっ! 商品なんだからもっと丁寧に扱わなきゃダメでしょ! 欠けたらどうすんのよ」

プリプリしながら絨毯の上に落ちた魔石を拾い集めテーブルに置くと、いつの間にか身体を起こしていたクラウスの目は据わっていた。

「……だから俺は独身なんだっつの。そうだ! 結婚してる男、紹介してやる。アミーと同じ工房の魔道具職人で結婚二年目……」

「ええっ! いいよっ! そんなの相談するの恥ずかしいじゃん」

「だからお前、その恥じらいを俺にも持ってくれ」

「無理! だってあんたクラウスだし」

「お前の中で俺の立ち位置ってどうなってるんだよ」

「へ!? クラウスの? ……そう言われたらなんだろう。お母さん? いや、お母さんにこんな相談できないわ。いないけどお姉ちゃん?」

「なんで女ばっかりなんだよっ! お前さっき男の心理がどうとか言ってたろーがっ」

「うーん、お姉ちゃんにも相談しにくいか? いないけど従姉妹のお姉ちゃん……辺り?」

「聞けよ……、人の話」

「そうだっ! 男心に詳しい女友達っ!」

これしかない! と満面の笑みをクラウスに向けたら「女から離れろっ!」って怒鳴られた。


「……自分から話振ったくせに。私の相談にものってよ!」

「……なぁ、おい。今日はクローは来ないのか?」

「何クローに救いを求めてんのよ。救って欲しいのは私なのっ」

「誰でもいいから俺を助けてくれっ!」

「ねぇ、お願いだから助けてよ! こんなこと相談できるのあんただけなのよっ! ここで見捨てられたらもう、私どうしたらいいのかっ……」

そう。

呑気な相談を装っていた私だけど、実はもうかなりギリギリのところまで追いつめられていたのだった。



「……なんだかもう収拾がつかんな。もう一度順を追って話してみろよ。あ、際どい話は要らんから」

とうとう諦めたクラウスが疲れきった様子でそう言ったので、言われたとおり順を追って思い返してみた。


そもそもの始まりはいつだったろう。

なんか気がついたら……。

「目が合わなくなっていた……」

「うん?」

「こう……、目が合いそうになると逸らされることが増えた」

「……? あいつ、なんか疚しいことでもあるのか?」

「それが男のビミョーな心理なのっ!? 疚しいと目を逸らす感じ?」

「……いや、人によりけりだろ。それで?」

先を促され、また考える。

「……誉め言葉的なものがものすごく減った」

「誉め言葉……的な?」


「かかか可愛い……とかすすす」

「うん、もういい」

「あんたが訊いたんじゃんっ!」

「目が合わなくなって、誉め言葉が減ったんだな?」

「そう、前は呼吸をするように誉め言葉を垂れ流してたのにっ」


「クロー、そこまで……」

「なに遠い目してんのよ、それがなくなったって言ってるんでしょっ」

「ある意味正常に戻ったってことだな、痛ぇ叩くな悪かったよっ。それから?」

「……気がついたら、接触がなくなってた」


「………」


「さっき言ったみたいに箱の手渡しもないし」

「ああ、そっちか」

「寝るときも、三十センチくらい隙間があるの」


「………」


「ねぇ、『どらいあ』終わったよ。次は?」

「速いな。『みくさ』と『らいと』持ってくるわ。ちょっと待っとけ」


クラウスが裏の倉庫に完成済み『どらいあ』を運んで行ったので、私はカウンターに置いていたお茶に口をつけ、また考えた。

最近クローは何かの本にハマってるみたいで、毎日夜遅くまで読んでいる。

「エミカは先に寝てて」ってにっこり笑って言うから先にベッドに行くんだけど、深夜になってから足音を忍ばせてやって来るクローは、私との間にきっちり一人分ほどの距離を空けて、ベッドの端で寝てしまうのだ。これは今までのクローからは考えられないことだった。結婚して以来ずっと、私の胸に顔を埋めて眠るのが当たり前だったのに……。

一度意を決して、寝ぼけたフリを装ってベッドの上を転がり、クローに抱きついてみたこともあるんだけど、彼はいとも紳士的に絡みついた腕を外し、元の場所に私を戻してしまわれたのである。ええ、最低限の接触で!


何かに怒ってるわけでもなく、相変わらず優しいし、過保護なところも変わらない。それなのに、あらゆる意味で距離だけがあいている。

それが、クローに陰を落とした六年間の影響が薄れてきた、っていうんなら大歓迎なんだけど、上手く言えないけどそれも違う気がするんだ。

直接問いつめることも考えたけど、今までの経験からいってクローは、自分の中で折り合いがつくか、或いは解決するまでは絶対口を割らない。

理由も分からないまま距離を置かれ、突き放された気分で、私は途方に暮れてしまっているのだった。



「ねぇどうしたらクローはその気になると思う? 男心を擽る方法ってないの?」

台車に『みくさ』と『らいと』を積んで戻ってきたクラウスに詰め寄ると、ため息が返ってきた。

「ちったあ落ち着けよ。きっとなんか理由があるんだろ。あいつ気の毒になるくらいお前にベタ惚れだぞ」

「……気の毒は同感だわ。私もなんでここまで大事にしてもらえてるのか、さっぱりわからない。だからこそ! もしかしてクロー、とうとう目が覚めちゃったんじゃないか……とか、フッと我にかえって後悔してるんじゃないか……、とか心配になるんじゃないっ! それにさっ! ここしばらく気がついたらフラッと出かけてる時があって、行き先も教えてくれないの。きっと一人になりたいんだよっ!」

「それはないと思うが……」

「あのさ、もし……、もしもよ。クローに捨てられちゃったら面倒見てくれる?」

「は!?」

「なるべく早く迷惑かけないように、独立したお店を持てるように頑張るから」

「そっちかよ。びっくりさせんな」

「ああ、でも別れたくないっ! 私が何かしたんなら少しは反省するから捨てないでぇぇ」


「少し、ってお前……。いや、まぁそんなことには絶対ならんだろうが」

「なんで解るのよっ!」

呆れた口調のクラウスをキッと睨むと、開きっぱなしのドアの向こうを指差された。

つられてそちらに顔を向けると、必死の形相で走ってくるクローが見えた。



「え──っ! なんでっ!?」

慌てて飛び出す私の背中をクラウスの声が追いかけてくる。

「もしできなくても(・・・・・・)責めてやるなよ。男はデリケートなんだからな! 愛情深く接してやれ」

「? よくわからんけどわかった! とりあえずありがとっ!」

振り向いて叫んだ途端クローに腕を掴まれた。

「クロー、どうしてここに?」

「やっとっ……見つけたっ……。どうしてはこっち! 買い物に行く、って出たきりいつまでも戻らないし、商店街で何かあったのかと思って探しに行ったら、今日はエミカを見てないって言われるしっ」


肩で息をしているクローは、乗り合い馬車の停留所からここまでのそれなりの距離を、ずっと走ってきたのかもしれない。

そんな場合じゃないんだけど、まだ必要とされてるんだと思えて少しホッとする私に、「一人で買い物に行きたい……なんて言って、なんでここにきてるの? クラウスに何か用事があったの?」と、険しい表情のクローがたたみ掛ける。

そのあまりの剣幕に、どこから説明しようかと言い淀む私の後ろからクラウスの声がした。

「こんな往来のど真ん中で一戦始めるなよ、お前ら。家に帰って二人でちゃんと話し合え」


私の後ろに視線を流したクローはため息をついた。

「エミカが何か迷惑をかけたのなら謝る」

「別に迷惑なんかじゃねーよ。仕事も手伝ってもらったしな」

そう言ってニヤリと笑うクラウスから置き忘れてきたバッグとコートを受け取り、私たちは気まずい雰囲気のまま久しぶりに手を繋いで歩いた。

まったく会話なんかなくて、だけど馬車に乗ってるあいだも降りてからも、クローは私の手を決して離そうとはしなかったのだった。




辿りついた我が家で玄関のドアをくぐった瞬間、クローは全身で私を壁に押さえつけ、噛みつくようなキスを落とした。そのあまりの余裕のなさにクラクラする。

「クラウスのところへ、何しに行ったの?」

合間に吐息で囁かれ、でも口を開こうとするたびに荒々しく唇で塞がれて説明もできない。

クローにしがみつき、力の入らない手で背中をパコパコ叩いたらようやく離してくれた。

「クラウスのとこにはっ、相談しに行ったの!」

私は元よりクローに隠し事をする気なんかないのだ。直接聞くことも考えたくらいだし、後ろめたいこともない。

クローは買い物は口実だと思ったらしいけど、大きな店で買い物がしたくて街中に出かけたのも本当だった。


「相談ってなんの? 僕にはできないこと?」

尖ったクローの声に、自然と私の声も尖る。

「クローにはできないよ! だってクローのことを相談しに行ったんだもんっ!」

「僕の、こと……!?」

クローは虚をつかれたように目を瞠った。

ここまで読んで頂いてありがとうございました!

続きはなるべく早めに……と思っております。

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