魔法使いの嫁<8>
それからは一気に全てが動き出した。
まずアミーさんは今までの試作品全て、養殖魔石五個を使用するサイズに調整し、いくつかの機能を追加した。
懐中電灯は『らいと』と称し、先端部分が魔力で可動できるようになった。つまり必要に応じて、前方だけを照らしたり全体を照らしたりできるということだ。
全体を照らし続ければ魔石は十五時間程で劣化するけど、前方を照らすだけに限定するなら連続で約三十八時間使用可能。つまり一日十五分で約五カ月も使えるようになったのだった。
『どらいあ』は風量の調節が可能になった。強温風、弱温風、そして涼風の三段階。
最初にアミーさんと打ち合わせした時に、そういう機能がつかないかな……と相談していて、でも今までは消費魔力の問題で無理だったのだ。こちらは一日十五分の弱温風使用でおおよそ三カ月。どの風量を使うかによって前後する、という話だ。
『みくさ』の機能は試作品の時のまま。
「他の機能も付けようか?」と相談されたのだけど、材料によって色んな味が楽しめる商品だから、これでよしとした。
実はミルサーの機能もあれば便利かも、とは考えないでもなかったんだけど、あんまり詰め込みすぎたら使いこなせないかもだしさ。シンプルが一番だよね。
これは機能が少ないせいか、一日一回の使用に洗浄する分も合わせて、なんと四カ月も使えてしまう。
そして『あいろん』。
こちらの世界にも家庭用アイロン的なものはあるんだけど、それはとてもとても面倒な代物だったりする。熱に強いというコテ状のそれを直接火で炙りカバーをつけて、熱いうちに急いでシワを伸ばしたり折り目をつけたりしないといけない。
だからこの魔道具の『あいろん』があれば、とても便利になると思う。
これも試作品の時はただ熱くなるだけだったんだけど、完成品では使用中に蒸気を出せるようにしてもらった。
これで格段にシワが取りやすくなる。こちらも一日十五分で約三カ月半。
これらの魔道具の設計デザインから、各部品を動かすための魔法陣の構築までがアミーさんの仕事だ。
半月ほどで、新たな機能を含めた全ての魔法陣を量産タイプにアレンジさせた彼女は、またもやクラウスの店に呼び出されていた私に報告に来てくれて、「これから爆睡するわ~」と言いながらフラフラと帰っていった。このあとは工房の他のメンバーの仕事になるのだという。
フラフラのアミーさんの足取りは、元の世界で深夜帰宅が続いた時の私の足取りを彷彿とさせたけど、私と違ってその顔つきは『やり遂げた感』で満足そうだった。
さて、その日なぜ私がクラウスに呼び出されていたかというと、彼の目の前で魔石を作るためである。
『養殖もののナフタリアをなるべくたくさん持ってこい』と言われ、二百個程のそれを担ごうとしたらクローが運んでくれて、今私は二人の前で時間を計りながら魔石を作っているのだ。
「五分はさすがに無理か」とクラウス。
私が五分間魔力を注いだ魔石を取り上げ、チェックしての言葉だ。
「けど十分のも三十分のも大して変わらん。十分以上は時間の無駄だな」
私の以前の努力。そして『頑固職人の技が光る気合いの逸品』は全て無駄だったらしい。
遠い目をする私にクラウスは言った。
「ボケッとしてんな! 次は右手と左手使って、二ついっぺんに作ってみろ」
へい、お代官様。
心の中で意味不明の台詞を呟きつつ、大人しく二つのナフタリアに魔力を注ぐ。
次は両手両足とか言い出すんじゃないだろうな。
──とか冗談で思ったことを、十数分後に本当にさせられるだなんて、この時の私はまだ知らない。
そして、それから更に数十分。
「エミカにこんな才能があったなんて、全く気づかなかった」
クローを呆然とさせた、新たに開花された私の才能。それは魔石の量産だった。
足はさすがに無理だったけどな。私の集中力は両手両足に分散させられる程器用ではなかったらしい。するとクラウスは、やけくそ気味に目の前に二十個のナフタリアを積み上げ、「一度にやってみろ」と言いやがったのだ。さっき右手と左手で一度に二つ作った魔石が両方合格だったからだと思われる。
そんでこちらもやけくそで、まるで水晶を前にした怪しい占い師のように、そのナフタリアタワーの前後上下左右に両手を這わせるように動かし、魔力を注ぐとあら不思議……。十五分ほどで、クローもびっくりの魔石ができてしまったのだった。
やった私も驚いたが、やらせたクラウスも驚いていた。じゃあなんでやらせたんだ? って話だ。
例によって一個ずつ丁寧にチェックしたクラウスは、「十五分で二十個か……」と呟いた。ダメ出しが出なかったってことは合格らしい。
クローに体調を心配されたけど、特に問題はない。それなら、とクラウスは今度は三十個のナフタリアを積み上げた。あんたはもう少し気を遣え、と心の中で突っ込んでおいた。
三十個も積み上げたナフタリアタワーは残念ながら品質にばらつきが出た。
それからも広げて置いたり時間を変えてみたり、色々なパターンを試してみて、どうやら一度に二十個作るのが一番効率がいいと判明したのだった。
さあ、それからが大変だった。
養殖もののナフタリアを二万個、大急ぎで追加購入し、一カ月で全部魔石にしてこいと言われた。
いくら一度に二十個作れるとしても、あまりに数が多い。週一で休みを取るとして、一日十二時間は魔石を作る作業に費やさなくてはならない計算になる。
少し成長した私は、かつて勤めていた会社ではできなかったことを実行した。ざけんなコラ! と怒鳴り込んだのだ。
そしたら二カ月に延びた。
どうやら本体を作る魔道具職人さんたちからも泣きが入ったらしい。クラウスはちょっと張りきり過ぎてると思う。
そうして、大量のナフタリアに囲まれ魔石を作り続ける生活が始まった。
でもそれは私だけじゃない。養殖魔石騒ぎの余波は私のみならず、クローをも襲っていた。
実はテストの結果、クローが養殖もののナフタリアで作った魔石も、重ねて使うことで使用時間が延びることがわかったんだ。
クローの魔石の寿命は、家庭用の魔道具ではおおかた一年前後。これが業務用になると半年前後となる。ようするに、業務用っていうのはそれだけ魔力を喰うってことだ。
でも他の店で扱う業務用魔道具に使われる魔石は精々四~五カ月しか持たないという話だから、半年でも充分高寿命なんだけど、ところがそれがクローの魔石の場合、二つ重ねて魔石の寿命が延びることで、業務用でも一年以上交換しなくてもよくなるらしい。しかも半年毎に交換するのと比べて、計算上なんと一カ月は余計に長持ちするという。
クラウスの所で作る業務用魔道具は、今後全て魔石を二つ使用するタイプになる。
そして今現在お客様の所で稼働中の業務用魔道具も、四カ月後からを目処に魔石の交換時期に合わせる形で、順次魔石のセット部分を二つ式のものと交換していく。
これが私のプロジェクトと同時に始動した、もう一つのプロジェクトだった。
つまりクローは、今まで一つでよかった魔石を二つに増やすために、今までの倍の魔石を作らなくてはならなくなったのである。
「なんか、クローまで忙しくなっちゃってごめんね?」
午前中の日課だったナフタリアの採取準備も、滞りがちになってしまった。
ノルマに追われ、明らかに今までよりも余裕のない生活を送っているクローに申しわけなく思い、そう口にするとクローは目を丸くした。
「どうしてエミカが謝るの?」
「どうしてって言われても困るんだけどさ、わたしのとばっちりみたいなもんじゃない? 私が魔石を重ねたらどうか……なんて言い出さなかったら、こんなことになってないでしょ?」
言いながら部屋を見渡せば、うず高く積まれた養殖ナフタリアのケース。
中には気が遠くなるほどの数の素材が詰まっている。そして恐ろしいことに、その殆どは私のノルマなのだった。
思わず目を泳がせると、同じように素材のケースに目を向けたクローが、ため息をついて私を見た。
「僕より、大変なのはエミカの方」
ちょうど出来上がったらしく、魔石に翳していた手を下ろし私に向きなおる。
「いくらクラウスに言われたからって、無理はしなくていい。身体が一番大事でしょ?」
今、私は一日のうち七時間を魔石作りに充てている。一日の最低ノルマは四百個。おおよそ六時間で作れる量だけど、あんまりタイトなスケジュールを組むと何かあった時にどうにもならない。少しでもあとが楽になるようにと毎日一時間余分に作業し、作りためているのだ。
「大丈夫よ。元の世界じゃ、一日十六時間以上仕事してた時もあったんだよ」
終電に乗り遅れて駅でタクシーを拾ったこともあったなー。
記憶の遥か彼方の出来事を思い出して遠い目で言うと、クローが目を見開いた。
「いったいどんな生活してたの?」
しまった。却って心配をかけてしまった。
余計なことを言った、と動揺する私は直ぐさまクローに捕獲された。
「今日の作業はもう終わりにしよう」
私をやんわりと腕の中に囲い込み、彼は言う。
「ええっ、でもまだ予定の半分も出来てないよ?」
突然の言葉に驚いて、彼の腕に捕らわれた不自由な体勢のまま、見上げて主張した。
今日は午前中に二時間。お昼を挟んで今一時間ほどが過ぎたところだ。本日のノルマとして机の横に積み上げた養殖ナフタリアのケースは、まだ三箱目を開けたばかりだし、クローのノルマだってもちろん終わっていない。
でも彼は珍しくも眉をひそめ、私を睨んでいて、これはどうやら引いてくれそうになかった。いつもなら私の言うことの大概は聞いてくれるクローだけど、こういう時の彼は滅多に譲ってくれないことを私は知っている。
案の定、彼は私を捕獲したまま怖い声で言った。
「エミカがそんなふうに無理をする性格だっていうなら尚更、適度に休ませるのが僕の役目だよ」
クローは怒ってるんじゃない。心配してくれてるんだってことくらいはわかる。
だから、もういいや。
いつもなら無駄と分かっててももっと抵抗するんだけど、これは普段頑張ってるご褒美だと思おう。なんのために毎日一時間余分に作業してるかといったら、リンダの家にお茶しに行ったり彼女たちのお茶会に参加したりの時間が欲しいってのもあるけど、あと万が一の体調不良で寝込んだり、なんてのも想定してのことであって、そこにこんな理由が加わったって別に構わない。
そして今のところ、丸々二日間休んでも大丈夫なくらいには前倒しで作業は進んでいる。だったら今日の残り四時間を臨時休業にしたって、全然問題ないからね。
「うん、わかった。じゃあもう片づけよう」
でも、そしたら今から何をしようかな? 夕食の用意にはまだちょっと早すぎるもんな、とか考えながら私が言うと、クローはちょっと目を瞠った。
「あれ、今日はやけに素直」
「今日は素直だなとか思ってるでしょ」
半分くらい被ってしまって、私たちは思わず顔を見合わせ笑ったのだった。
「それで、今からどうするの?」
出来上がった魔石を別の部屋に移し、ソファーに落ち着いてから訊いた。
冷たい紅茶を淹れたグラスを私に手渡し、隣に座ったクローは首を傾げる。
「何かしたいこととか、ある?」
「うーん? 特に思いつかないんだよね。クローは何かある? クローのしたいことでいいよ」
忙しいのは私だけじゃないんだから、買い物でも読書でも、クローのやりたいことがあるならそれでいいと思うんだ。買い物なら私も付き合うし、読書するなら私は横でやりかけの刺繍の続きをするか、絵本の文字を書き写す練習をしててもいい。せっかく隣にいるんだから、ちょっとくらいは読書の邪魔をしちゃうかもしれないけどさ。
そんなことを考えながら紅茶を飲んでたら、彼の顔が近づいてきて頬にチュッとキスされた。紅茶をこぼしそうになって慌ててテーブルに置くと、たちまち腕を取られ抱え込まれる。
「僕のやりたいことでいいの?」
「いいよ。クローだって忙しいのに頑張ってるんだから、二人のご褒美の時間にしようよ」
それを聞いた彼は私を囲いこんだまま少し考え、良いことを思いついた、とばかりに笑みを浮かべた。
「なら、今日はエミカを甘やかす日にしよう」
──あれ? なんか、思ってたのと違う。
甘やかす日ってなに? わざわざそんな日を設定しなくても、常に甘やかされてるような気がするんだけど?
そしてクローへのご褒美はどこへ? と思ったら、「エミカを甘やかすのが僕へのご褒美だから気にしなくていい」との謎返事。そのままなす術もなく彼の膝にのせられた私は、クローに肩を揉まれ始めた。
ずっとイスに座って同じような姿勢だったから、これがまた気持ちいい。強すぎず弱すぎずで絶妙の力加減にうっとりとため息をついたら、背後でクローが楽しそうに笑う。
それからソファーにうつ伏せになるように言われ、アームレストに腕と顎を乗せ寝転がると、今度は背中のマッサージが始まった。
髪をまとめて横に流し、首の後ろから肩の下。肩甲骨の下の辺り。背骨に沿って腰の方までグッグッと、恐らく親指の腹で押しているんだろうな。あまりの気持ちよさに、無意識に「ふぁぁー」とか「ふゃー」とか変な声が出る。お尻の下の方を手の平でグッと押された日には、気持ちよすぎてついつい「そこっ。そこ気持ちいいからもっと」とかリクエスト。
極楽気分を味わいながら、クローもきっと肩が凝ってるだろうから、これが終わったら次は私が揉んであげよう。
──なんて考えた時もありました。
でもふと気づくと、彼の手の動きはもはやマッサージとは呼べないものに変わっていた。
そのうち私の背中にのしかかるようにしてきたクローは、髪を撫でたり耳を軽く齧ったりしてくる。
おいおい、と突っ込む間もなく明らかに余裕のなくなったクローに抱きかかえられ、寝室へ移動してしまった。
ところが、である。
昼間からってのも既に数回経験済みだし問題ない、と思っていた私は、すぐにうろたえることになった。昼間から寝室に拉致された時はいつだって雨戸を閉めてくれてたのに、今回はそれがなかったのだ。
窓からカーテン越しにサンサンと陽が差し込むベッドの上で、脱がせようとするクローに、させまいと必死で服を押さえる私。
「ねぇクロー、ここ、すごく、明るいんだけどっ」
とにかく雨戸を閉めてもらおうと訴えると、彼は服から手を離し全然違うことを言った。
「やっぱり僕もご褒美が欲しい」
いくら私でも、今のこの状態での『ご褒美』には嫌な予感しかしない。
──けど、服から彼の手が離れたから安心した、というのもあって、一応警戒しつつ答える。
「うん、もちろんいいよ。何がいい? でも明るいのはやめてね」
「どうしてそんなに嫌がるの?」
結局それかよっ! ──と脱力した。
「そんなの恥ずかしいからに決まってるでしょっ」
胸を隠すように押さえ、頬を膨らませて唸る私に、彼は首を傾げる。
「もしかして胸を見られたくないの? でも、エミカの胸ならもう何度も見てるけど?」
ええっ! いつの間に!? と私が目を剥くと、彼は真面目な顔で言った。
「朝、目が覚めたらいつも目の前にある」
ああ。確かに、いつも私の胸に顔を埋めて寝てるよね。
朝だけどまだ雨戸を開ける前だし、暗いから大丈夫と思い込んでたけど、暗闇に慣れた目であの至近距離なら見えてたって不思議はないかも。
私だってたまにクローの寝顔を堪能しちゃってるけど、輪郭とか僅かな陰影とかもはっきりわかるもんな。
もう今更? 今更なの? とクローを見ると、期待にあふれた表情で私を見ている。
……クローがそんなに見たいって言うなら、もういいのかな。
結局のところ、私はクローに弱い。
その日は明るい部屋の中でイタシたあげく、お風呂にまで連れ込まれてしまった。
でもまあ、一度見せちゃえば二度も三度も一緒だ。
そんなわけでお風呂の中でもマッサージしてもらったりとか、お湯に浸かってタプタプしたりとか仲良くしたりとかで、なかなかに体力を使い果たしてしまった私は、ここしばらくの疲れも出てきたのかまだ昼間にもかかわらずすっかり眠くなってしまい、クローにベッドまで運んでもらって、少し横になることにしたのである。
だけどシーツにくるまり、ほんのちょっと目を瞑るだけのつもりだったのに、髪を撫でてくれるクローの手が気持ちよくて、気がついたら雨戸が閉まっていた。
──ということはもう夜だ。
慌てて起きたら既に夕食が出来ていた。
彼の膝に座って食べるっていうのはさすがに落ち着かなくてお断りしたのだけど、どの料理も最初の一口はクローに食べさせてもらう羽目になった。
クローの甘やかしは半端ないってことを実感した一日は、こうして怒涛のように過ぎていったのだった。
翌日からはまた、養殖ナフタリアの在庫を睨みながらノルマをこなす日々が続いた。
「僕が忙しいのは半年限定だからね」と、クローは言う。
とにかく全ての業務用魔道具が魔石二つ使用方式に変わったら、クローの生活は元に戻るのだ。今まで半年毎の交換だった魔石が一年以上使えるようになるんだから。
今バタバタしているクラウスも、魔石のセット部分の交換が全部終わったらずいぶん楽になるだろう。半年毎だった魔石交換が約一年毎になるだけで全然違う筈だ。
だけど私には半年という期限はない。新しい『小型家電』という分野で、売れるのかどうかすらさっぱり分からない。
売れれば私は引き続き交換用の魔石を作ることになり、売れなければクラウスに大量の在庫を抱えさせてしまうことになる。
前者は望むところだけど、後者になるとクラウスに申しわけないからね。ほどほどに売れてくれたら嬉しいな、とささやかな望みを抱えつつ魔石を作る日々を重ねていく。
そうして瞬く間に二カ月が過ぎ、『小型家電』が発売される日がやってきた。
ところが、である。
クラウスの店の隅っこに間借りして、在庫を背にぼんやり過ごすこと数日。『小型家電』はさっぱり売れなかった。
考えてみたら、そもそもクラウスの店には客がほとんど来ないんだよ。売れるも売れないも客がいての話だ。ここ数日、朝一番から昼前まで店先に座り分かったのは、クラウスの店に来る客は一日精々二~三組ということだった。
これで店を開けている意味があるのか? とクラウスに問うと、『店舗を置くのは信用の問題だ』と返ってきた。ネット通販なんてないこの世界では、やっぱり店は必要不可欠なものらしい。
『発売当初は発案者が店頭に立って、使い方なんかを説明した方がいいだろう』とか上手いことを言われて店先に座ってるけど、たまに来る客に押しつけがましくならない程度に売り込む以外することはないし、クラウスは調子よく「ちょっと出てくる。すぐに戻るから」と言い置いて、チョロチョロしている。
先日私がふと思いついて口にしたことが『目からウロコ』だったらしく、実現可能かあちこちでリサーチしてるんだ、と本人は言い張ってるけど、それならどうして午後からの仕事に組み込まないのか。
まさか私のこと、店番だと思ってるんじゃないだろうな。
クローには、恥ずかしいから絶対見に来ないで! とお願いしていた。不満そうにしてたけど、そうしてよかった。こんなのを目の当たりにしたら心配かけるだけだ。
それでなくても最近クローの元気がなくて気になるし、訊いても「大丈夫」って微笑ってくれるんだけど、少し落ち着いたら話をしないと、と思ってる。
アミーさんは時々覗きに来て、「こういうのは口コミの部分が大きいから、気長にやろう」と励ましてくれた。
発売開始以来売れたのは、『らいと』が七個と『どらいあ』が三個。そして『みくさ』が二個だけだった。それも中年のおじ様たちの、安いからまあ買ってみるか、というお試し感覚程度。
私はといえば、することがないのでヒマにまかせて魔石を作ったりしている。
こんなに売れないのに魔石を作ることに意味があるんだろうか、と思わないでもないが、クラウスが養殖ナフタリアを勝手に調達してきて在庫の横に積み上げているので仕方ない。
二カ月かけて作った二万個の魔石は、一つ五十デシペルで買い取ってくれた。原価を引くと、私の手間賃は二十五デシペル。二万個で五千ペル。日本円でなんと五十万円だ。
材料費込みの百ペルコインが百枚入った袋をもらった時は嬉しいより戸惑いが先に立ち、小市民を痛感した。
そんなふうにひっそり販売していた『小型家電』に火がついたのは、思わぬところからだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
残すところ、あと2話。
明日の19時に纏めて投稿してしまおうと思います。
できますれば最後までお付き合いいただければ嬉しいです。
最後の【どうでもいい裏話】
この世界における謎について。
1)クローの名字
2)クラウスの名字と、店の正式名称
3)田舎町の正式名称
4)そもそもこの国の名前は?
ことほど左様に、私は固有名詞をつけるのが苦手でございます。あとタイトルをつけるのも(笑)。
本当にどうでもいい話でした。




