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魔法使いの嫁<7>

アミーさんは試作品を前に、私に話したと同じことをクラウスにも繰り返した。


さすがに仕事の話となると表情も変わる。

情けなく謝っていた態度から一転、真面目な顔で報告を受ける彼は、私の時のように実演しなくても口頭の説明だけで理解したらしい。

「まったく話にならんな」と口をへの字に曲げてみせた。


そしてそのあと何やら難しい顔で考え込んでしまったので、大事なお客様とやらが来る前に、私とアミーさんはとっとと退散したのだった。

そうしてその日の私は、意気消沈しながら森の家に帰ることになった。



玄関を開けると、すぐいい匂いが漂ってくる。

いつもの習慣で「ただいま」と叫びながら駆け込み、キッチンのドアの前に立つのと中からドアが開くのは同時だった。


「ただいまクロー、お昼ご飯作っててくれたの?」

「おかえり、簡単なものだけど。それより何も問題なかった?」

少し眉が下がっている。私の帰りがいつもより遅かったから心配してるんだろう。寄り道もせずに帰ってきてもこの時間だもんな。


「遅くなってごめんね。クラウスに留守番押しつけられた。でもアミーさんがいてくれたから大丈夫だったよ」

とりあえず遅くなった理由を述べつつ、食器を出すクローを手伝おうと袖を捲りかけ、動きが止まる。


うーん、この服可愛いけど家事をするには向かないんだよな。腕まくりばかりしてたら袖がビロビロに伸びそう。

服の袖を睨んで唸っていたら、クローにも分かったらしい。

「もうほとんど終わってるから手伝わなくていい。服、着替えておいでよ」

その言葉に甘えて着替えてきて、あとは食事をしながらいつもどおり出掛けてた間のことを話した。


クラウスの話をすると、クローは小さくため息をつく。

「あの店はもう、一人で回すのは限界なんだ。誰かを雇えばいいんだけど、なかなかいい人が見つからないらしい」

そうか、一応探してはいたんだな。


そして話題はアミーさんと試作品に移った。

私の悔しさを解ってほしくてつい、熱心な身振り手振りを交えながら試作品の実演の様子を説明し、ふと気づくとクローは奇妙な表情を浮かべていた。


「どしたの?」

言葉をとめ様子を窺うと、彼はハッと我に返ったように身じろいだ。

「あ、何でもない、ごめん。その魔石の間に挟むシートっていうのがすごく高価なんだよね?」

「うん、そうらしいの。なんかね、業務用の魔道具って家庭用のとは違って、中のそれぞれの部品の用途に合わせて構築した魔法陣をシートに刻印して、組み合わせたものに魔石から魔力を流すことで動くんでしょ?」


今までどんな理屈で動いているのかもよくわかっていなかったのを、さっきアミーさんから教えてもらったばかりである。実際はもっと複雑らしいけど、さわりを聞いただけで多分私には理解できないと察して、詳しい説明は御遠慮申し上げた。


アミーさんいわく、家庭用のものにはシートを使わず、部品に直接魔法陣を刻印する。

だけど、いわゆる業務用大型魔道具に円滑に魔力を循環させていくためには、その魔法陣を刻印するためのシートが不可欠らしい。

ところがこれが特殊な糸に魔力を練りこんでシート状に織られた、スペシャル高級素材だったのだ。

消耗品ではないため、手の平サイズでも魔石並みに値段が高く、業務用魔道具の価格が家庭用に比べて高いのは、そこにも原因の一端があるのだそうだ。


ちなみにクロー愛用の四次元袋も、織り方が違うだけの同じ材質でできているという話だ。クラウスの店の壁にぶら下がってる同じような袋を指して、アミーさんが言ってたから間違いない。クローは割りと雑な扱いをしてるけど、アミーさんのあの口ぶりからすると私が目を剥くほどの高級品なんだと思われる。


ということは、そんな大変なものを使用した魔道具が、小型だろうが何だろうが低価格で抑えられるはずはなく、つまりこのプロジェクトは失敗に終わった、ということなのだった。


これがもし上手くいって少しまとまった収入になるんだったら、ディナーどころか服やらなんやら、クローにいっぱい買ってあげたいと思ってたのになぁ。


がっくりと項垂れた私は、ジッと見つめるクローの視線にようやく気づいた。

「あ、ごめんね」

すっかり食べるのがお留守になってたせいだろう。せっかく作ってくれた人にこれは失礼だ。

慌てて食事を再開すると、クローが手を伸ばしてくる。


「そんなに慌てなくていい。喉に詰めたらどうするの」

私のスプーンを握る手をやんわり抑え、そう言った。

口調は優しいけど、その表情はやっぱり普段と違って少し物憂い気がする。


「何かあるの? クラウスもなんだかすごく考え込んでたよ」

いくつも作ってもらった試作品が全部無駄になったからかと思ってたけど、違うんだろうか。


「クラウスが? そうか、あいつどうする気だろうな……」

クローはよく分からないことを呟き、私を見た。

その途方にくれた表情はいったいなんなんだろう。

「クロー?」

私が呼びかけると、彼はため息と共にカタリとイスから立ち、私の背後に回った。

振り返ろうとした私をそっと抑え、後ろから抱え込むようにギュッと両腕を回す。頭の上に触れる重みとクローの吐息。顎を乗せられたのだと分かった。

「ねぇ、エミカ……」

クローは逡巡しながら言う。

「僕はそんなにお金がないわけでもないと思う。今はちょっと大きな買い物をしたから貯金が減ってしまったけど」


クローが貧乏だなんて、そんなこと思ったこともない。こんな家と森を即金で買ったんだもの。貯金が減るのも当たり前だ。


目を丸くする私に、クローは続けた。

「僕の財産はもう全部エミカのものでもあるんだから、君が管理してくれたっていいんだ。エミカが無駄遣いしないってことくらい知ってるし、好きに使ってくれて構わない」


『無駄遣いしない』なんていいように言われて、私は目を泳がせる。

田舎町にいた頃の買い物はクローにお任せだったけど、こっちに引っ越してからは一緒に買い物に行くことが増えた。

二人で出かけた先で初めての商店街を見つけたりすると、必ずと言っていいほどウロウロして帰る。

その主な目的は異国の調味料や香辛料を扱う店だ。私の舌に馴染んだ元の世界の調味料と似たものがないか、クローにも付き合ってもらって、折に触れ探すようにしているんである。


でもまあ問題なのはそこじゃないわけで。

そうやって商店街をうろついていて目新しい食材を見つけたり、ちょっと欲しくなるものが目についたりしたときのことを、多分クローは指している。

たとえば、普段はあまり食べないような高級果物が一つ三ペルと激安だったとしよう。こんなに安いならたまには買ってみようか、という気になったとして、ザルの中にゴロゴロ転がるその果物の中で『どれが一番お買い得だろう』と考えるのが私だ。

美味しいかどうかは運任せだけど、せめてなるべくキレイなもの。少しでも大きいもの。そして大きいだけでなく、ちゃんと中身の詰まった重いものを探して、次から次へと手に取り確かめる。しかもその間ずっとクローを待たせた挙句、彼がなにも言わないのをいいことに、最近では彼の両手にも一つずつ持たせてどっちが重いか選んでもらう、と調子に乗った所業に及んでいる始末なのだ。


今度からは、せめてクローを巻き込むのはやめよう。

心密かに決意する私の髪を、彼の吐息が揺らす。

「エミカが望んでるのはそんなことじゃない、っていうのは解ってるつもりなんだけど……」

頭上から落ちてくるクローの声は、やっぱり途方にくれていた。


なんでクローは急にこんなこと言いだしたんだろう?

この時の私には、魔道具作りがうまくいかない私を慰めてくれているのだろう……としか思いつかなかった。




事態が動き出したのはその翌日。

クラウスからの手紙が届いた。ここへ引っ越してきてから初めてのことだった。


クローはそれを一読し、顔をしかめる。

そのまま私に渡してくれたので広げてみたけど、半分程度しか分からなかった。


『文字対応表』なんてものを作ったため、初めての単語でも一応分かるようになったものの、読むのにはまだ時間がかかるし、変則的な単語となるとさっぱりだ。

それでもお店の看板や商品につけられた値札は読めるようになったから、今のところ生活に不自由はないけどね。


クラウスからの手紙を眺め、読める単語を拾って繋げてみる。

「ええと、明日来てくれって書いてある? 魔石を持って……私も? 私の魔石も?」

「そう。明日、養殖のナフタリアで作った魔石をできてる分全部。それとエミカにも、養殖のほうで作った魔石を最低五個」

「私も養殖もので? でもそれじゃ値段が……」

狼狽える私に、クローは手紙を示した。

「とりあえず今回の分は、損しない価格で買い取ってくれるって」


損しない価格ってことは、一つ二十五デシペル以上ってことだ。

クローはもう養殖もののほうで作り始めてた分があるからいいとして、私は養殖もので作ったことがない。

何が起ころうとしているのか分からないまま、急いで養殖ものナフタリアの在庫を取りに行ったのだった。




翌日クローと二人でクラウスの店に顔を出すと、そこにはアミーさんもいた。

だけど、いつもはズカズカ勝手に入っていく私なのに、今日はなんだかクラウスの顔が険しくて少し気後れしてしまう。


なんでだろう?

これまで怒鳴られたって、怖いとか思ったこともないのに?

そう思った次の瞬間、クラウスの顔に義父の顔が重なった。私がまだ中学生だった、母が死んでしまったあの時の義父の顔。


踏み込むのをためらい、無意識にクローの服の裾をぎゅっと掴んだ。私は、人が豹変するってことを知っている。





小さい時に亡くなった実の父の記憶を、私はほとんど持たない。だから私にとっての父は、小学校の低学年から一緒に暮らしていた義父(ちち)だった。


その頃の私たちは、多分上手くやっていたと思う。

義父は忙しくて、私が起きている時間に家にいることはあまりなかったけど、休みの日には母と三人で遊びに行ったし、参観日に来てくれたこともあった。

全部、母が亡くなるまでの話だ。


母がいなくなって、うちには通いの家政婦さんが来るようになって、生活にはなんの不便もない。

だけど義父は変わった。私の名を呼ぶことはなくなり、用事があるときは『おい』とか『ちょっと』みたいに声をかけられるようになった。しかも、それですら滅多にないことだった。

まもなく私は中学を卒業し、高校に進学。その卒業式、入学式のどちらにも義父はこなかった。

私たち一家は両親の再婚を機に引っ越してきたから、友人たちは私と義父の血が繋がっていないことを知らない。高校で新しくできた友人たちも、母がいないことは噂で聞いたとしても、私の家庭の詳しい事情なんて知らない。

だから、私は誰にも相談できなかった。


覚えているのは母のお葬式の翌日、険しい顔で仏壇の前に座りただ遺影を眺めていた義父の姿。義父がそうしてるのを見たのはその時だけだ。私はといえば、昼間は必要以上に明るく振る舞い、夜になると布団を被って声も出さずに涙を流す日が続いていた。


お葬式から僅か数日で普段と変わりなく働き出した義父を見て、また仏壇の前で見た険しい顔からも、もしかして義父は母に何か怒ってるのか、とも考えた。

母の遺影に向けたあの険しい顔。そして私という存在を忘れたかのように振る舞う姿。

母に怒ってるから私に冷たくなったのだろうか、とまだ子供だった私は考えたんだ。

そうじゃない、と知ったのは四十九日が済んだあとのことだった。


夜になって布団を被ると、条件反射のように涙が滲んでくる。それをパジャマの袖で拭って立ち上がった。なんとなく喉が渇いて、キッチンでなにか飲もうと思ったから。

そうして真夜中だからと足音を忍ばせ階段を降りた私は、初めてその声に気づいた。義父の声だ。家には私と義父しかいない。

押し殺した声で母の名を呼び、どうして、と。なぜ俺を置いていった、と咽び泣いていた。


私は黙って部屋へ戻り、布団の上に座り込んだ。


義父は母に怒ってたんじゃなかった。怒っていたとすれば、一人先に逝ったことにたいしてだ。

だとしたら、義父はどうして私に冷たくなったのか。

そんなの決まってる。私が母のおまけだったからだ。母がいなくなってしまったら、もう義父にとって私の存在は意味がない。


大学に進学する気はなかった。バイトを始め、お小遣いとして使った以外は少しずつでも貯金する。就職したら出来るだけ早く家を出るつもりで、就職に関する情報と一緒に賃貸の物件も物色した。一人暮らしに必要なものや、それぞれの相場も調べていた。


義父が見合いの話を持ってきたのは、高校三年の二学期だ。

久しぶりに口をきいたと思ったらそんな話。バカバカしいと一蹴し、話を聞こうとしない私に義父も折れようとしない。

何日も何週間も、何カ月も攻防は続いた。


誰にも相談できないまま、私は一人で戦い続けた。

私を護ってくれる人なんて、どこにもいなかった。



クラウスの顔は、あの日険しい顔で仏壇の前に一人座っていた義父を彷彿とさせた。

もちろんクラウスはクラウスで義父じゃない。

あれはもう過ぎた遠い日のことだ。

ただ彼のその険しい表情に、昔の思い出が少し重なっただけ。


心の中で自分にそう言い聞かせる。クローの服の裾を掴んだ手だって、震えたりはしていない。なのに、私の様子がいつもと違うってことにクローはすぐに気づいた。


「エミカ?」

訝しげに名を呼びつつ、私の視線の先のクラウスに目をやる。

それで何か察したんだろうか。腰に腕を回してくれたので、なんだかホッとした。


「お、来たか。呼び出して悪かったな」

クラウスがこちらに気づいた。もういつもの表情だ。

同時にアミーさんもこっちを見て、笑顔を見せてくれる。


息をついて、クローに寄り添い店の奥に入った。

彼の服の裾を掴んでいた手はいつの間にか絡め取られ、ギュッと握られている。クローにぴったり張りついている私を見てアミーさんは目を丸くし、クラウスは眉を潜めた。

だけど、クラウスが何か言う前にクローが氷のような声で言った。

「あんな顔してて客商売ができるとでも?」


クラウスも自覚はしてたんだろう。クローから離れない私を見て、気まずげに「すまん」と謝ってくれたのだった。



私はクローに義父の話をしたことがない。

義父とのことは私の中で未だに整理がついていないからだ。向こうの世界にいた時も、怖くて結局誰にも話せないままだった。

いつかはクローに話せれば、と思うけどまだ勇気が出なくて、これは恐らく彼がお兄さんの話をしてくれないのと同じ理由のような気がする。私が勝手に思ってるだけだけどね。

だからクローはきっと今も何がなんだか分からないままで、ただ私がクラウスの表情に怯えただけと思ってるのかもしれない。


──でも、それでもこうして護ってくれるんだ。

あの頃、私を護ってくれる人は誰もいなかったけど、今はクローがいる。

今度はそれが嬉しくて、彼が握ってくれている手に力を込めた。


そしてふと気づくとアミーさんが、微妙な雰囲気の私たちを見比べオロオロしていた。申しわけないことをしてしまった。

うん。ここからは平常運転だ。

クローから離れ、いつものように軽口を叩き、クラウスをやり込める。

クラウスもちゃんと乗ってきてくれて、そこにクローも加わってひとしきり騒ぎ、どうにか普段の雰囲気に戻ったのだった。



そして、私たちは持ってきた魔石を取り出し、二人の前に並べた。私のは最低五個とあったので一応七個作ってきたけど、多い分にはいくつでも構わないみたいだった。

その魔石を見て、これ以上ないくらい目を見開くアミーさん。

「これが養殖ものなの!?」

もちろん、私たちが持ってきたのは養殖もののナフタリアで作った魔石だ。そう指定されたのだから。

けど私にしてみたら、物珍しそうに養殖の魔石を矯めつ眇めつしているアミーさんのほうがびっくりだ。

サザナンでは今や、天然より養殖もののナフタリアの方が一般的になりつつあると聞いていた。

「養殖ものは見たことなかったの?」

私が訊くと、彼女はちょっと顔をしかめた。

「だって私はずっとクローさんの魔石でやってきたんだもの。うちにある魔道具も全部クローさんの魔石だし、天然と養殖の形がこんなに違うなんて思わなかった」


それで私は、私の魔石に養殖ものを指定された理由を確信した。この形だ。





昨日ナフタリアに魔力を注ぐ準備をしながら、なんで養殖ものなんだろうと考えてた。

ナフタリアの品質自体は、天然も養殖もさほど変わりはないらしい。天然ものは丸っこく、養殖ものはやや平べったいというくらいだ。


だけど昨日、出してきたナフタリアをテーブルに置いたとき、そのあまりの安定のよさに驚いた。私が養殖もののナフタリアをちゃんと触ったのは初めてだったのだ。

いつもの天然のナフタリアは、コロンとした形のため非常に安定が悪い。テーブルに並べてもグラグラ揺れるので、魔力を注ぐ時はハンカチを小さく折り畳んだような布の上に置いている。でも養殖ナフタリアにはそんなもの必要なかった。

いつかクラウスが縦に積み上げていたことを思いだし同じようにやってみると、全く危なげなく何段でも積めてしまいそうだ。

「ねぇ、クロー?」

私は隣のクローを見上げた。

「昨日アミーさんがさ、あの高級シートを使うのは魔石同士の接触面の問題だ、って言ってたと思うんだけど、天然同士って形状的に接触面が小さいじゃない? そもそも積み上げようもないし。けど……」

私は積み上げた安定感抜群のナフタリアを示す。

「これならどうなんだろう?」


クローはやっぱりあの時から気づいてたんだ。

「試してみないとわからないけどね」と、困ったように笑ったのだった。


そうして私は緊張しながら養殖ナフタリアに魔力を注ぎ、七個の魔石を作った。

クローも私と同じことを考えたっていうならそうなんだろう、とは思ったものの、それなら専門家のアミーさんが、最初にそこに気づかないのはおかしい。

半信半疑のまま一晩を過ごし、魔石を持ってきてみれば、アミーさんは養殖もののナフタリアを見たことがなかったというわけだった。考えてみたらクラウスもこの前、「初めて見た」と言って珍しそうにしていたもんな。


「養殖のナフタリアが普及してきたのはここ数年なんだ。俺たちはずっとクローの魔石でやってきたから、縁もなかったし興味もなかった。視野が狭かった、と反省するべきだな」

クラウスはそう言って私の作った魔石を一つ手に取った。

「上手くいくかどうかはやってみないとわからん」

そう言いながら『どらいあ3』の縦穴に半透明の魔石をそっと入れていく。

養殖ものの魔石は天然ものよりやや厚みが少ないせいか、四つ詰めても少し隙間が空いた。

顔をしかめるクラウスから『どらいあ3』を受け取ったアミーさんは、五個目の魔石をギュッと押し込み、半ばはみ出たそこに無理矢理蓋を被せる。


オイオイ! と驚く一同を無視し、器用に手で抑えたまま蓋についたスイッチをひねった。

たちまち温風が勢いよく噴き出してくる。

しばらくそのまま様子を窺うも、温度も勢いも一定のままで一昨日の不安定さは微塵もなかった。


「これ、あの高級シート使ってないんだよね?」

「詰めるとこ、見てただろ?」

私の問いに、呆然としたままクラウスが答えた。


それは私のプロジェクトが復活した瞬間だった。

そして、それと同時に別のプロジェクトが始動した瞬間でもあった。


ここまで読んで下さってありがとうございました。

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