異世界レザー
前条件
異世界転移、チート無しで言葉もわからない。
衣服や持ち物を売って衣食住に充てていたが、有るものを消費しているだけでは当然すぐに底をつく。
日本人の性なのか物乞いするにはプライドが邪魔をし、強盗や窃盗するには良心が邪魔をする。
この例えを初めて聞いたときは『日本人すげぇだろ』みたいなポジティブなネタだと受け取っていたのだが、実際になってみればこれは『泥水啜ってでも生きる気概のない根性無し』の例えなのだ。
現に俺はこの三日まともに固形物を食べていない、胃に入れたのは深夜に人から見られないよう噴水から水を飲んだだけ。
『どうしようか』と悩んでるうちに体力が尽きて街中で餓死する未来が……まあ異世界で英雄や成り上がり出来ないようだし、わざわざこんなはずじゃないって生きるぐらいならこれでいいか。
軒先に座り、そこの住人や店主からの視線から逃げるように移動を繰り返す。
足元に革の端切れ。いつのまにか職人街まできていたらしい。
革を手に取る。どうやら着色や硬化剤を使う前の素の革のようだ。
当たり前なのだが革は動物の皮から出来ていて、そこから商品をつくるので半端が出てしまう。
死ぬまでの暇潰し。革に水筒から水を吸わせる。本当はスポンジを使いたい適量を含ませるのだが仕方ない。
木の棒と石ころを拾ってきて湿った革に棒を当ててそこに石を打ち付ける。
カーン
石畳、皮、木、石とサンドイッチされた皮は潰されるのだが、潰れた箇所にシミが浮かぶ。
タンニンが出てる。これならカービング出来そうだ。
革はいっしょくたにされがちだが、同じ牛皮でもなめしかたの違いで適正に差が出来てしまう。
俺は日本にいた頃、レザーカービングを趣味としていた。これにはタンニン鞣しされた牛革が必須なのだが道に落ちていた魔物の革でも出来た。
次は本番だ。濡らした革に爪で薄く下書きして解体ナイフで表皮を切る。
大事なのは奥に有るものは深く、手前は浅くカットすること。0.3~4ミリの差だがこれが出来上がりに大きく差が出る。
レザーカービングの基本である唐草模様にしたかったのだがまともな道具もなく細かい模様は無謀。ここはファイヤーパターンで、形ないものなら失敗とかないからな。
下書きし、ナイフでカットし、ここからがカービングのスタート。
刻印で模様をつける事をカービングといい、極端なはなし紙に判子を押すのもカービングなのだ。
今回の場合は切り込みの外側、凹ませたい部分に刻印代わりの棒切れの直角近い箇所を当ててハンマー代わりの石ころで打ち付ける。
カッカッカッカッカッカッカ
リズミカルに石で打ちながら、棒は止めずに動かし続ける。初心者はこれが出来ないので凹んだ部分に不必要な凸凹や線が出来てしまいがちだ。
棒切れと石ころでは上手くいくはずもないが、なんとか輪郭は打ち終わる。
次は背景、の前に縁を作ろう。
棒切れの先を半円に切り取る。これを端切れの外枠に打つ。
カンッカンッカンッカンッ
∩∩∩∩∩∩∩∩
こんな感じで半円の連続が外枠を一周すれば成功だ。
てか炎の外側を打つ時もこれにすればよかった。○の連続で直線を出すのはかなり苦労したのに。
まあこれで炎のシルエットと縁は出来た。今回はここに背景をつけて完成とする。
ってもバスケットスタンプもマットスタンプもないんだよな……
このままでは炎と背景が叩いていないので立体感もないし目が散ってしまう。
試しに棒切れの底を改めて平らにして、石畳に擦り付けてみる。
繊維が解れてきったない筆のよう。
それを打ち付けると繊維がクッションになったのかタンニンの浮き出しは少ないのに繊維が偏った場所にはスジが出ている。
案外面白そうなのでそれを一面に施す。
凸凹に波打った背景は炎に照らされて逃げ戸惑う闇みたいに見えなくもない。うんかなりいい。
日本でやっていた時であればはっきりいって大失敗品だ。
伸び止めもしていないしベベラの使い分けもしていない。そもそも炎の中を何も処理していないので、炎なんだよって記号でしかない。山ほど指摘ポイントがあるが、それでもこれが今の自分が出きる精一杯。
さて革が乾くと刻印は入らないので小まめに水をやっていた。自分で飲んだのもあって水筒が空なので注ぎにいかないと。
今回のは暇潰しにはよかったが棒切れはかなりチビてしまったし石ころは真っ二つに割れた。
革の端切れが見つかるかはわからないが、どうせ何もやることがないんだし探してみるか。
「そこのお前。それは売り物なのか?」
はい?
レザークラフト題材にされにくいけど、ってやることが地味なのよねw