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万物融解液の保管方法と使用時における三つの注意点  作者: 宮本 鉈音
第一章 万物融解液の使用時における一つ目の注意点
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第一項 解答編 怪奇的事件の真相、それに伴う邂逅について

 懐中時計を胸元から出して時間を確認するのも、これで何度目だろうか。

 時刻は夜中一時を過ぎたところだ。


 「もう今日は来ないんじゃない?」

 「朝までにこなければ奴は犯人ではないということになる」

 「リズに限って犯人を読み間違えることもないか」

 「つまり必ず来るってことだ」

 自信満々なリズをイクスは信用するしかないのだが、彼らにとってこれは日常だった。

 

 「今回の事件、イクスは誰が犯人だと思う?」

 「それはもちろん、あの部屋に住んでた男でしょ」

 「根拠は?」

 「腕があったのはあの部屋だし、一週間前までは男が生活してたのはリズの魔術で確認済みだから。」

 「じゃあ私たちが今待ってるのは?」

 「犯人をまってるからその男だ、ってあれ? 男が見つかったってケイトさんに報告してたけど……」


 今にも頭から煙を上げそうなほど、イクスは悩んでいる。

 リズは助け船を出す。


 「良いことを教えてあげよう、あの部屋に住んでいた男は既に死んでいる」

 「え、いつの間に……」

 「エイデンさんの店で髪を切った後だろう、その後は行方が分からないからな」

 「じゃあ今俺達が待ってるのって、ケイトさん?」

 「正解。今私たちはケイトを待っている」

 「あの綺麗なお姉さんが人の腕を集める変態だったなんて、それはそれでそそるものがあるね……」

 やはりどこかこの男はずれているんだな、とため息をつくリズ。

 

 「良いことついでにもう一つ、私の最初の質問に対するイクスの答えも正解だ」

 「ますますわけがわからない……犯人はあの部屋に住んでた男で、今は犯人を待ってる、でも来るのはケイトさんってこと?」

 「そういうことだな」

 「わかった! 腕を集めてた犯人は大家さんとあの男で、生きてる犯人は大家さんだけだからそれを待ってるんだ」

 「残念ながら不正解」

 「えーーーなんだそれ、結局どういうこと!?」

 「続きは本人を交えながら話そうか、待ちくたびれたよ。殺したとわかっていても、確認しなきゃ不安だよな? ケイト――」


 教会の入り口がギギギィ……と音を立てて開く、月明かりを浴びて伸びた影が二人の足元に落ちる。


 「あの男はどこ……?」

 「その話ならもう終わったよ、死んでる」

 「ほんとに大家さん来た、物騒なもの持ってるし」

 大きな刃物を持ったケイトと対峙し、イクスはリズを庇い臨戦態勢をとる。

 

 「お前たち……騙したのね……」

 「騙してたのはそっちもだろう!? そんな見た目で腕を集める変態だったなんて――」

 「イクス、それに関しては私から弁明しよう。彼女は腕を集めてたわけじゃない」

 「でも犯人なんでしょ?」

 「簡潔に言おう。今回の事件、二つ事件が起きている。男とケイトはその二つの事件の各犯人ということだ」

 困惑しているイクスに、リズは話を続ける。

 「まず一つ目の事件は、私たちが見たあの部屋の惨状、あれを行った人物は部屋に住んでた男で間違いない。ここまではいいな?」

 「うん、よくわかる」

 「二つ目の事件は、その男が殺された事件だ。その犯人がこいつ――ケイトだ。そうだよな?」

 「ええ……そうよ、私が殺したの……」

 「それは犯行に気が付いたから?」

 「惜しいな。腕の事件の被害者は、もちろん腕を切り落とされた女性たちもそうだが、最大の被害者はケイトだ」

 「そう……あの男…絶対に許せなかった……いえ…殺した今でも許せない……」

 「よく見ろイクス、彼女の左腕は別人のものだ」

 「!?」

 「初めて会ったときに手を抑えていたのは怯えていたからではなく、他人の腕が縫い付けられた無残な姿を隠そうと心理的に思ったからだな」

 「どうしてそんなことに……」


 「あの男があの部屋に住み始めたころ…私に交際を申し込んできた……。元々私が好きであの部屋に住むことを決めたらしいわ……」

 「なんか怖いね……」

 「腕を集めてた異常者に今更なにを……」


 「あの男のアプローチは、どんどんエスカレートしていった……。結婚指輪を渡されたこともある、もちろん返したが……」

 「今は結婚指輪してるね」

 「いますぐに外してしまえるなら外したいわ……!私は昔負った傷の跡が左腕に大きく残ってた……、彼はそれが気に要らないらしく、私に合う左腕を探し始めたの……」

 ケイトはあの時と同じように、震える腕を抑えている。

 「そして何人も殺して腕を集めて……見つけたらしい、私に合う腕を……。そして私の左腕を切り落として、縫い付けた……」

 「俺も似たような経験あるけどね」

 「だから殺したのよ!! 私は被害者なの!! 騎士団も私にしつこく話を聞いてくる!! どうして……!! どうしあんな男に!!」

 ケイトは残された右手で、刃物を強く握りなおす。

 「……す…ころす……あなたたちも、あの男と同じように殺してやる……殺す…」

 「――お前に俺は殺せない」

 イクスの冷たく豹変した目を見て、リズは自然と恐怖を覚えた。

 「殺すのはダメ! 気を失わせるだけ! あとは騎士団に見つけてもらって――」


 「その必要はない!!」

 「誰だ!?」

 イクスはすぐに骨を剣に変形させる。


 「イイ…イイぞっ! その反応!」

 声のする上へ顔を向けると、ステンドグラスを背に立つ人影。

 「とうっ!」

 目にも止まらないとはよく言ったもので、そこにあったはずの人影が消え気づけば目の前でケイトが気を失っている。

 「っ! お前、何者だ……」

 「フフ……よく聞いてくれたな……。」

 

 ケイトの傍らに立つ人物は、派手にマントを翻し声高らかに叫んだ。

 

 「我が名はフランベルク・フォン・シュベリアート! 聖輪騎士団団長であり、剣聖と称される男!! 迷える探偵の子羊よ、貴女の人生……私に捧げるがいい!!」

 「はっ!?」

 普段は冷静なリズの顔が、困惑一色に染まる。

 「お前、フランなんとかって言ったか、それ以上リズに近づくんじゃない」

 「ああ、なんと美しいことか……。貴女のルビィのような深紅に煌めく瞳、私だけを見つめていてはくれないか……」

 相変わらず状況が飲み込めないでいるリズの手を握り、フランベルクはひざまずいている。

 「お前、無視するなよ――リズの手を離せ」

 イクスが切りかかるも、軽く手でいなされてしまう。


 「ほう……彼女の名はリズというのか。だが、さっきから探偵じゃないほうの君、静かにしたまえ。私が話している」

 「探偵じゃ、ないだと……?」

 「そうともさ、推理や調査は彼女がしているのだろう? 君はせいぜい彼女を引き立てる脇役さ」

 「好きに言わせておけば……!」

 「待って!」

 リズの声により二人の動きが固まる。

 「お前、騎士団団長と言ったな」

 「ああともさ、我が名はフランベルク――」

 「私たちのことを知らないのか?」

 「いやいや知ってるとも、この街で騎士団がいるにも関わらず、探偵行為を繰り返す困った子羊だろう? そこの探偵じゃない彼を除いてさ」

 リズは腕を組んで考え始める。


 「おい、訂正しろよ。俺も探偵だ」

 「嘘はつきたくないんでね、事件を一つも解決していない君を探偵と認めるわけにはいかない」

 「この野郎――」

 「お前、ここに何しに来た。偶然ではないのだろう、私のストーカーか?」

 「まさか。この街の事件の一つでもある『姿を見せない探偵』について調査していた。こんな可憐な美少女だとは思わなかったがね」

 「なるほど。……一つお願いがあるんだけど」

 「君の願いならなんだって叶えよう、リズ」

 「私たちが探偵だってこと、黙っててくれない?」

 「ハッ、それは難しいな……この件は騎士団でも問題になっていてね」

 「嘘はつきたくないって言ってなかったっけ? 私の願い叶えてくれないの?」

 「ッグ……これは剣聖ともあろう私が、一本取られたね……」

 「わかった、コイツただのバカだ」

 「じゃあその犯人は任せるね、騎士団団長さん。行くよイクス」

 「くっ……任せられたぞ、可憐な探偵よ……だが、いつの日か必ず貴女を――」

 

 最後まで聞く前に、リズはイクスの手をとり教会から走り去った。


 ********** 


 「俺もあの読むやつやりたい!教えてよ」

 教会から帰る途中、突拍子も無いことを言うイクス。今回に関しては突拍子はあるかもしれない。

 「イクスはまず普通の本を読んだほうがいいと思うよ」

 「読んだら教えるんだな!よし」

 「いやそうは言ってないぞ……」


 一転して真面目な顔をするリズ。

 「騎士団団長のフランベルクは私たちの顔を知らなかった」

 「それがどうかした?」

 「ヴァイスは聖輪教会の人間で、あの実験場も聖輪のものだったはずだ。なのになぜ騎士団が私たちを知らない?」


 事の重要さにイクスも気づいたようで考え始める。


 「私たちは、何か重大な思い違いをしているのかもしれない――」




 

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