第三項 サンジェルマンでの労働における注意点
「やっぱり、探偵になるべきだと思うんだよね」
イクスの突拍子も無い発言から、計画は動き始めた。
探偵ともなれば街の事件についての情報は幾分集めやすくなるだろう。ヴァイスに関する情報だけ都合よく集まることはないだろうが、それでもこの街で生きていくなら情報は必須。すぐに着手した。
この街には聖輪騎士団という、聖輪教会直属の自警団が存在し事件を取り締まっている。
騎士団は基本的は人手不足と言わないまでも、人員が多いわけでもない。そこで解決に至らなかった事件から手を付けていこうというわけだ。
「手始めに、これかな」
街の掲示板に張られている『迷い猫捜索求』の張り紙。
「こんなつまらなそうなのやるの? もっと殺人事件とか解決したいよ」
「そのうちね、アランだって最初は猫探しから始めたんだよ」
アランとはイクスの好きな探偵小説の主人公である。
「そうなの?! 知らなかった、早く猫探そう。早く」
そんなことは書かれてなかったが、アランも最初はそんなところだろうと勝手に解釈し、掲示板にはられた猫の書類に手をあて、リズが読み始める。
「依頼者はこの二つ向こうの通りに住んでいる理髪店だな」
「リズの邪魔そうな前髪切ってもらったら?」
「遠慮しよう、イクスが髪を切ってる間に私が理髪店を読み、猫を探る」
理髪店に初めて向かうイクスはどこか楽しそうだった。
「これからは私が切らなくてもよくなるな――」
リズは少し切ない感覚を覚えながらも、理髪店に歩を進めた。
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これでもか、というほど猫はすぐに見つかった。あまりにも簡単すぎて金銭をもらうことを拒否したらケーキをいただいた。甘いものが好きらしいイクスは金銭よりも喜んでいた。
「思ったより簡単だったね」
「猫探しの達人にならなれる気がする」
イクスは残しておいた苺を満足そうに味わっている。
「ともあれ良いことを思いついた。依頼は掲示板から受けることにする」
「なんでまたそんなこと? どうせならアランみたいに依頼者に決め台詞言いたいよ」
「今日のように掲示板から受ければ、依頼者の素性を私の魔術で知ることができる。報告や報酬の受け取りに関しては依頼者に会うしかないか……」
リズがこれからについて考えていると、イクスが話しかけてきた。
「今日みたいにずっと直接やり取りするんじゃダメなの?」
「今回は猫探しだったからいいが……一つずつ整理しようか」
面倒そうなイクスに構わず話を進める。
「まず第一に、この街の事件を基本的には解決しているのは誰?」
「聖輪騎士団でしょ」
「半分正解。正確には騎士団を取り仕切る聖輪教会。」
悔しそうなイクスに次の問題を出す。
「第二問。私たちが錬金術と関わりがあることを知っていて、私たちを探しているのは?」
「聖輪教会のヴァイスと、フードのやつだ」
「正解。ヴァイスに関しては向こうに見つかる前にこちらから見つけ出すことが望ましい。先に見つかって数で攻められては打ち負かす自信がない」
「俺はあるけど――」
「私がないんだ。つまり、できるだけ騎士団や教会には目をつけられたくないってこと。派手に動いて目をつけられるわけにはいかない」
「ふーん、大体よくわかった。謎に包まれてるってのもかっこいいよね」
「まぁ、そういうことでいいや……」
リズは食べかけのケーキをイクスに譲ると、今日は早めに寝ることにした。
次話から新キャラも登場し、本格的に物語が動き始めます。宜しければ引き続き読んでいただければ嬉しいです。