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000 プロローグ
◇
ある日、絶望の淵に立った男は思った。
何故、自分なのだ。
世の中には自分より悪い人間はごまんといる。
一度として悪事を働いたことはない。人の暮らしが良くなるようにと、仕事も続けてきた。家族サービスを忘れたこともなく、空いている時間にはボランティア活動にも勤しんだ。
それが何故……自分なのだ、と。
理解できない。できるはずもない。
しかし、男は考えに考え、答えにたどり着く。
「――そうか。そうだったのか!」
何故、気づかなかったのか。答えはとても、簡単なことだった。
「この世界が間違っているんだ。真面目に生きたって損をするだけなんだ! なら――」
そして男は、
「何を犠牲にしてでも……取り戻してやる」
――世界の理を壊すことにした。