薔薇の花と百合の花が
「六月の花嫁は、幸せになれるんだってよ」
昔々あるところに、二組のカップルがいましたとさ。
幸せになりたい、そう願っていました。そして二組は結婚を考えていましたとさ。
そこで果て果て、困ってしまいます。これはとある六月の事件です。
まず、一組目のカップルをご紹介致しましょう。男を愛してしまったのは、これまた男だったのでした。
痛いのは周囲から向けられる視線、尽きることのない偏見。それにもめげることはなく、二人は情熱的に愛し合っているのでした。
いつまでも恋人のままじゃ嫌だ。そろそろ結婚したい。なんて、二人は考えておりました。
そうして遂に、結婚することを決意したのでした。
そんな二人の間に立ちはだかっていたのは、高い高い壁でした。二人の背よりもずっと、高過ぎる壁でした。
世間と言う名の鬼は、二人の愛も決意も、大切なものも全て許さなかった。何も認めてくれないのでした。
それはまるで愁いを表しているかのように、窓の外は雨模様で。
決して、二人に陽が当たる日は訪れない。いつまでも続く曇天。
それはまるで哀しみを表すかのように、窓の外には再び雨が降り出してきて。
雨に打たれた深紅の薔薇が、濡れて更に美しく魅惑する。その怪しげな美しさは、二人の愛を嗤っていた。
次に、二組目のカップルをご紹介致しましょう。女を愛してしまったのは、これまた女だったのでした。
辛いのは周囲から向けられる視線、尽きることのない偏見。それにもめげることなく、二人は熱情的に愛し合っているのでした。
いつまでも、ルームメイトだと紹介しているのじゃ嫌だ。夫婦として周りにも紹介したい。なんて、二人は考えておりました。
そうして遂に、結婚することを決意したのでした。
そんな二人の間に立ちはだかっているのは、辛い辛い山でした。二人の体にはもっと、辛過ぎる山でした。
社会という名の鬼は、二人の夢も未来も、愛するものも全て許さなかった。何もかもを閉ざしてしまうのでした。
それはまるで憂いを表しているかのように、のんびりと傍を歩いて行く蝸牛。
決して、二人に陽が当たる日は訪れない。愛し合っているだけなのに、愛を拒まれる理由などないのに。いつも社会はしょっぱくて、塩で溶けていく蛞蝓は二人の愛の姿のよう。
それはまるで悲しみを表すかのように、傘の下で五月蝿く蛙が嘆き出して。
雨に打たれた月白の百合が、濡れて更に美しく魅惑する。その怪しげな美しさは、二人の愛を優しく冷たく眺めていた。
昔々あるところに、二組のカップルがいましたとさ。
幸せになりたい、そう願っていました。そして二組は結婚も考えていましたとさ。
そこで果て果て、困ってしまいます。これはとある六月の事件でした。
儚くも散っていってしまった、二組のカップルがいましたとさ。
とある六月のことでした。まるで嘲笑っているかのように、綺麗な花が開いたのです。
薔薇の花と百合の花が。