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大人な君へ

 着物姿で友達と楽しそうに話している君。大人になったんだね。

 幼かった、あの頃の君はもういないようだ。顔に微かに残っている、その面影が恋しいよ。

 君はすっかり大人だ。あんなに小さかったのに、成長したんだね。

 僕の知っている、小さな君はもういないんだ。もう、憎い奴だな。僕より大きくなっちゃって。


 これは、僕が年寄だって証拠なのかな。まだ短い時しか流れていない、そのつもりだったんだ。

 それなのに、変だな。どうやら狂っていたのは僕の時計だったようだね。君はこんなにも成長して、大きくなっている。そして、僕はこんなにも老いてしまっていた。


 ごめんって、謝ることしか僕には出来なかったよ。

 君の成長を、隣で見守ってあげるべきだった。一緒に喜んであげるべきだったのに。

 素敵って、君を見た瞬間に思ってしまった。見惚れることしか僕には出来なかったんだよ。

 君と共に過ごした日、あの頃も君を可愛いと思い続けていた。それでも今の僕が感じている美しいという思いは、それとはまったく違うもので。大人になった君を、あの日の君と同じようになんか見られなくて。



 友達と楽しそうに燥いている君。それはまるで、子供のようで可愛らしくて。

 それでも、幼かった君はもういないんだ。別人のように変わっていたならば、僕としてもまだ楽だった。僅かに顔に残っている、その面影が悲しいや。

 もうすっかり大人な君。成長しているのだけれど。

 その中に、僕の知る君も少しだけいるんだ。だからこそ、僕を躊躇わせ、戸惑わせるんだね。


 完全に、知らない女なんだと思いたかった。

 それなのに、あの日と変わらぬ君がいるんだ。それなのに、あの日の君を知る、あの日の僕なんていなくって。


 ごめんって、謝ることくらいしか僕には出来なかった。

 純粋な頃の心はどこへ行ってしまったのだろう。君の成長を素直に喜んで、優しく抱き締めてあげるべきだったのに。

 素敵って、そう思ってしまっていたんだ。君と再会した僕は、あまりの美貌に見惚れることしか出来なかったんだよ。

 大人になってしまった君。子供、ではなく女。親のような存在であり、決してそう見てはいけないとわかっている。それでも老い耄れは、女としてしか見られなかったんだよ。


 二十歳になったんだよ。大人っぽいでしょ。

 君は僕を見付けてくれたようで、その笑顔を見せてくれる。そんなことを言って、美しい着物姿を魅せてくれる。

 ああそうだね、もう子供扱いは出来ないや。

 そんな僕の言葉を、君はからかってるなんて言いながらも、嬉しそうに微笑む。嘘じゃなくて、本当だよ。僕にはもう、子供扱いなんて出来なくて。


 ごめんって、謝ることくらいしか僕には出来なかったよ。

 君の成長を隣で見守っていられれば、ここまで戸惑うこともなかった。ちゃんと隣で老いて逝くべきだったんだな。

 素敵って、美しい君に見惚れることくらいしか出来なかった。

 僕にとっての君は、幼いままで歳を取っていない。だから大人になった君を、君として認識することすら出来なくなっていた。


 君に謝らなくちゃいけないね。あの日の僕の心をなくし、変わってしまってごめんなさい。

 君に謝らなくちゃいけないよね。少しずつ変わっていた君、その変化を見られなくてごめんなさい。

 ああ、どうすればいいんだろうか。教えて欲しい。

 大人な君へ。

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