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シニアの戯れ86
勘違い野郎のまま俺はじいさんの連絡待ちたいのさと、私は言った。
家に帰り、女房にその経緯を話すと、女房はいみじくも言った。
「じたばたとしたって仕方ないじゃない。連絡つくまで待つしかないのよ」
女房の言葉は的を射ているので、私は恭しく頷き答えた。
「そうだよな。じたばたとしても仕方ないものな。しかしじいさん入院しちまったのかもしれないな」
女房が答える。
「それも有りよね。と言うか、脳梗塞なのだから、当然最悪のケースも考えないとね」
私は福島じいさんとの死別という最悪のケースを、振り払うように言った。
「いや、それは無いと思うよ」
女房が首を傾げる。
「何故、何を根拠に言っているわけ?」
私は複雑な思いのままに、しかめっつらをしてから言った。
「俺は同じ脳梗塞でも倒れていないじゃないか?」
女房が笑い言った。
「何ボケた事言っているのさ。あんたの症状と福島じいさんの症状を一緒にするなよ。そんなのとんだ勘違い野郎のする事じゃない?」
私は苦笑いしてから答えた。
「死別するよりは、勘違い野郎のまま、俺はじいさんの連絡待ちたいのさ」




