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シニアの戯れ116
そうだな、郷里に帰るつもりはないよと、じいさんは言った。
じいさんが言った。
「わしはこっちに骨を埋めるわけには行かないのよ」
私は尋ねた。
「それはどういう意味だ?」
「墓の問題があるじゃろう」
私は頷き言った。
「そりゃ、そうだな」
「でも俺は郷里に帰っても、親父もお袋も死んでいるし、居場所がねえんだ。だから帰りたくない気持ちも半分はあるのさ」
厳粛なる気持ちをほぐすように私は言った。
「でもじいさん、やはり郷里に帰って墓に入るしかねえだろう?」
じいさんが答えた。
「でも、その墓誰が護るんだ?」
私は生唾を飲み言った。
「一族郎党だろう?」
一つ息をつき、じいさんが言った。
「まあ、そうじゃな。それしか道は無いしな」
私は瞬きを繰り返してから言った。
「でも、じいさん、今回は郷里には帰らないのだろう?」
じいさんが明言した。
「そうだな。帰るつもりはないよ」




